迷子
えーなー(高音)
全次元を巻き込んだ『大宇宙温泉フェスティバル』が閉幕してから、早くも三日が過ぎていた。
祭りの会場となった裏山は、魔王が屋台をすべて片付け、勇者アーサーがゴミ一つ残さずクリーンアップしたおかげで、元の静かな山林へと戻りつつある。
唯一の変更点といえば、上空に開きっぱなしになっている「アストラル・スライム・ゲート」から、時折キラキラと星屑のような魔力粒子が、露天風呂に向けて優しく降り注いでいることくらいだ。
「……ふぃ~、極楽、極楽」
俺は、貸し切り状態の露天風呂の真ん中で、これ以上ないほど「でろん」と平たく広がっていた。
お腹(?)の上には、フェスでマスコット兼ペットになった元・時喰らいの「クロちゃん」が、ぷかぷかと浮きながら気持ちよさそうに目を細めている。
(やっぱり、嵐のあとの温泉が一番体に染みるぜ。スライムだけど)
『ちょっと、ナルセ! そこで溶けてないで、早くあがってきなさい!』
湯船の縁に突き刺さっている「双極の星剣・アイリス」から、呆れたような念話が飛んでくる。
アバターの姿になったアイリスは、温泉の湯気を浴びながら、未だに山のように積まれたフェスの『売上金(様々な次元の硬貨やレア魔石)』をせっせと数えていた。
(いいだろ、これくらい。俺、今回は命がけで宇宙の彗星を体で受け止めたんだぞ? 労災が適用されてしかるべきだ)
『はいはい、お疲れ様。でも、これでうちの宿の資産は、王国の国家予算の10倍を超えたわ。これからは贅沢三昧ね!』
アイリスがふふんと胸を張る。
かつて洞窟の奥で錆びつきかけていた魔剣が、今や全宇宙の経済を揺るがす大富豪である。人生(剣生?)何が起こるかわからない。
その時だった。
上空の星間ゲートが、まるで「げっぷ」でもするように、ポコッ、と奇妙な音を立てた。
(ん? また何か落ちてくるのか?)
警戒して身を縮める俺の目の前に、ゲートからひらひらと落ちてきたのは、宇宙船でも神様でもなかった。
それは、一枚の「半透明な手紙」。
しかも、文字ではなく、奇妙な「粘液の跡」で書かれている。
「……なんだこれ? ヌルヌルしてるぞ」
俺が触手でその手紙に触れた瞬間、脳内に、かつてないほど「のんびりとした、眠そうな声」が直接響いてきた。
『……あ、もしもしー? 聞こえてますかー? 宇宙一のスライムさん。僕、別の世界でスライムをやってる者なんですけど……ちょっと、そっちに僕の「お友達」が迷い込んじゃってないですかー?』
(……は? 別の世界のスライム!?)
俺とアイリスが顔を見合わせたその瞬間、大浴場の脱衣所の方から、「うにゅ~」という、これまた聞いたことのない、異常に柔らかそうな鳴き声が聞こえてきたのだった。
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