神々ガミガミ
D I Y!
海での慰安旅行から戻り、身も心も(物理的にも)リフレッシュした俺たち『スライム&ソード』の従業員一同は、相変わらず大盛況の旅館で慌ただしい日々を送っていた。
勇者アーサーは薪割りの速度が音速を超え、魔王は「究極の出汁」を求めて裏山だけでなく深淵の森まで狩りに出かけるようになり、天竜はすっかり「露天風呂の巨大なオブジェ兼・湯沸かし器」として客たちに愛されている。
(みんな、完全にこの宿に順応しちゃってるな……。
俺? 俺は相変わらず清掃とマッサージ(酸による角質ケア)担当よ。聞くな。)
その日の昼下がり。
俺がスライムの体を薄く広げて縁側の拭き掃除をしていると、空から「ピカーーーッ!」という強烈な光の柱が降り注いだ。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
フロントから勇者アーサーがモップを構えて飛び出してくる。
光の柱が収まると、そこには一枚の「黄金の巻物」がふわりと落ちてきた。
『……何これ? 挑戦状?』
若女将のアバターが訝しげに巻物を拾い上げ、封を切る。
【謹啓 ホーリー・スライム様 ならびに 双極の星剣様。
下界にて、極上の湯を湧かす者たちがいると天界で噂になっております。
つきましては、我ら『創造神族・御一行様(約50柱)』の慰安旅行として、そちらの宿を貸し切りで予約したく存じます。
明日のお昼頃に伺いますので、よしなに。 ――主神より】
「「「……は?」」」
旅館のメンバー全員が、ポカンと口を開けた。
(いやいやいや! 明日!? 50柱!? しかも神様!?)
「お、女将! 貸し切りなんて無理だぞ! 3年先まで予約でいっぱいなんだから!」
アーサーがパニックになる。
無理もない。相手はこの世界を作った神様たちだ。断れば天罰で宿ごと消し飛ばされかねないし、受け入れるにしても一般客を追い出すわけにはいかない。
『……アーサー、魔王、天竜』
アイリスが、静かに、だが絶対零度の冷気を纏いながら口を開いた。
『今日の一般客の予約は、すべて「超VIPスイート(天竜の背中の上のテント)」に振り替えなさい! そして、今夜中に裏山をもう一つ削って、「神様用・超絶大浴場」を作るわよ!!』
「「「イエッサーー!!」」」
神様からの無茶振り予約に、史上最強の宿屋チームが総力戦で挑むことになった。
翌日。
裏山の岩盤を神聖・スライム・エクスカリバー(土木用)で一晩かけてくり抜き、魔王の炎と天竜の魔力で急ごしらえした『神界の湯(仮)』が完成した。
「……死ぬ。徹夜で山を削ったから、俺、ソフトボールサイズになってる。すり減る……」
俺はフロントのカウンターの上で、スライムの干物一歩手前になっていた。
『シャンとしなさいナルセ! 来るわよ!』
空が割れ、天使のラッパが鳴り響く。
そして、光の階段を下りてやってきたのは、光背を背負ったお爺ちゃん(主神)を先頭とする、個性豊かな神様たちの団体だった。
「おおー、ここじゃここじゃ! 下界の空気もたまには悪くないのう!」
「戦神よ、湯船の中で剣を振り回すでないぞ!」
「美の女神様、日焼け止め(魔力障壁)は塗りましたかー?」
(……完全に、町内会の慰安旅行テンションだ)
「い、いらっしゃいませぇぇ!! 創造神族・御一行様!!」
勇者アーサーが、かつてないほどの完璧な角度で土下座(お辞儀)をして出迎える。
主神のお爺ちゃんが、ふよふよと浮いている俺と、アイリスのアバターを見て目を細めた。
「ほっほっほ。お主らが噂の『神聖なる泥』と『双極の星剣』じゃな。いやはや、ワシらが落としたただの『聖遺物の欠片』と『そこら辺の泥』が、まさかこんな立派な宿屋になるとは思わんかったわい」
(ちょっと待て。俺、そこら辺の泥だったの!?)
元・社畜の魂が宿っているとはいえ、素体はただの泥だったという事実に俺はショックを受けた。傷つく。
『主神様。当旅館へようこそ。ささ、まずは自慢の温泉へどうぞ』
アイリスが完璧な営業スマイルで案内する。
神様たちは「おお、広い広い!」とはしゃぎながら、ドヤドヤと大浴場へと向かっていった。
神様たちの宴会は、想像を絶するものだった。
「酒が足りん! 海の神よ、ちょっとそこから神酒を出せ!」
「おおっと、豊穣の神が酔っ払って裏山を全部小麦畑にしちまったぞ!」
「魔王よ! 貴様の焼く焼き鳥、なかなか美味いではないか! 魔界の王にしておくのは惜しいのう!」
「ハハハ! 主神殿もいける口で! もっと塩を振りましょうか!」
(魔王、完全に神様と意気投合して接待してる……)
だが、最大の問題は「温泉」だった。
神様たちが放つ神気が強すぎて、お湯がすぐに蒸発してしまうのだ。
「うーむ、湯加減は良いのじゃが、すぐに湯が干上がってしまうのう。これではゆっくりできん」
主神が不満げにぼやく。
『ナルセ! どうにかしなさい! このままじゃ「星一つ」のレビューをつけられて、天罰が下るわよ!』
(無茶言うな! 俺の水分だって限界なんだぞ!)
俺はカラカラになったスライムの体で必死に考えた。
神のオーラに負けない、無限の水分と魔力。そんなものがこの世界にあるのか?
(……待てよ。この世界にはなくても、「外」にはあるんじゃないか?)
俺はアイリスに呼びかけた。
(アイリス! お前の完全体の力と、俺の【双極領域】を合わせて、空間をぶち抜くぞ!)
『はあ!? 何を言ってるの!?』
(宇宙だよ! 宇宙の果てにある「氷の彗星」を直接ここに繋いで、無限の冷水(源泉)にするんだ!)
もはやファンタジーを超えてSFの領域だが、完全体となった魔剣とスライムなら可能かもしれない。
『……やってみるわ! あんたのその無茶苦茶なところ、嫌いじゃないしね!』
俺の体内にアイリスが収まり、白金の光が天を衝く。
「【究極奥義:アストラル・スライム・ゲート】!!」
俺たちの魔力が大気圏を突破し、宇宙空間を漂う巨大な氷の彗星に突き刺さる。
その氷を大気圏の摩擦熱と【紅蓮の鍔】で絶妙な温度の「お湯」に変換し、空間の穴を通して、直接旅館の大浴場へとナイアガラの滝のように注ぎ込んだのだ!
ザバババババァァァッ!!!
「おおおおおっ!!?」
「なんというスケール! 星の海から直接湯を引くとは!」
「しかも、星屑のミネラルがたっぷり溶け込んでおる! 肌がツルツルじゃ!」
美の女神も、戦神も、そして主神も、宇宙から降り注ぐ極上の「星間温泉」に大歓喜した。
翌朝。
大満足で天界へと帰っていく神様たちを見送り、俺たちは泥のように(俺は元からだが)倒れ込んだ。
「ふほほほ……神様からチップとして『星を一つ創る権利』をもらったぞ……」
魔王が謎の権利書を握りしめて笑っている。
『……疲れた。でも、最高の接客だったわね、ナルセ』
アイリスのアバターが、俺のぷよぷよの体に寄りかかって目を閉じた。
(ああ。……でも、一つ問題があるんだ)
『何?』
(あの宇宙からお湯を引くゲート……閉め方がわからなくて、開きっぱなしなんだ)
俺が空を指差すと、旅館の上空にはポッカリと宇宙空間へと繋がる穴が開き、そこから絶え間なく「星屑の温泉」が降り注いでいた。
「オーナー! これじゃ宿が水没します!」
勇者アーサーが叫ぶ。
「ええい、仕方ない! 天竜! お前、ちょっと宇宙まで飛んでゲートの栓をしてこい!」
『無茶を言うな! 我は空は飛べるが宇宙は専門外だ!』
(仕方ない……アイリス、俺が直接ゲートの向こうに行って、スライムの体でフタをしてくる! すぐ戻るから!)
『ちょっとナルセ! 待ちなさいよバカ!!』
俺はスライムの体をロケットのように変形させ、無限に降り注ぐ温泉の滝を逆流して、宇宙の穴へと飛び込んでいった。
「……あいつ、本当にただの泥なのかしら」
呆れ果てたアイリスのつぶやきが、温泉郷に響き渡る。
こうして、異世界スライム温泉郷『スライム&ソード』は、文字通り「宇宙規模」の温泉リゾートへと進化(?)を遂げた。
何も思わずにブックマークと「☆☆☆☆☆」を。




