勇者
ジブリって……。すげェヨ
天竜の常連化により、スライム温泉郷『スライム&ソード』は前代未聞の好景気に沸いていた。
そして俺は今日も今日とて、清掃員として大浴場の掃除に勤しんでいる。なんでや…。
スライムの体は便利だ。体を薄く広げて床一面の汚れを【微弱な酸】で一気に溶かし、さらに【粘着糸】で排水溝の髪の毛まで完璧に絡め取る。まさに究極のルンバ機能である。
(ふぅ、ピッカピカだ。これで今日の労働ノルマは達成……あとは温泉でふやけるだけ……)
『ちょっとナルセ! 掃除が終わったならフロントの手伝いに来なさい! 厄介な客が来たわ!』
脳内に響く若女将の切羽詰まった声。
俺は渋々スライムの体を縮め、タオルを頭(?)に乗せたままフロントへと向かった。
そこには、ピカピカの黄金の鎧を着た金髪の青年と、その後ろに控える魔導士や僧侶の姿があった。
見るからに「RPGの主人公」といった出立ちだ。
「おいおい、こんな山奥のボロ宿(※三階建ての高級旅館です)に、俺たちを待たせるのか? 俺は神託を受けた『勇者アーサー』だぞ! さっさとVIPルームを開けろ!」
「申し訳ございません、勇者様。当旅館は現在、3年先まで予約で満室となっておりまして……」
アイリスのアバターが、青筋を立てながらも必死に「営業スマイル」を作って対応していた。
だが、勇者アーサーはニヤニヤと笑いながらアイリスの肩に手を伸ばした。
「固いこと言うなよ、美人女将。俺がここに来たのは温泉だけじゃない。噂に聞いたぜ? この宿には『世界を救う力を持つ、伝説の魔剣』が隠されているってな! それを俺に献上すれば、特別に俺の愛人にしてや――」
バキィッ!!!
勇者の手が触れる寸前、アイリスの蹴りがアーサーの鳩尾にクリーンヒットした。
黄金の鎧がベコッと凹み、勇者が「カハッ」と蛙のような声を出してフロントの床に転がる。
(……あーあ。やっちまった)
「ゆ、勇者様!? 貴様、ただの女将の分際で勇者様に何をする!」
「魔物だ! この女将、魔物の手先だわ!」
取り巻きの魔導士と僧侶が武器を構える。
俺はため息をつき(空気の泡を出し)ながら、アイリスと勇者たちの間に割って入った。
「お客様、館内での武器の使用は固くお断りしております。それと、うちの女将に手を出そうとしたのはそちらの過失かと」
低音ボイス(魔力駆動)で警告する俺。
だが、丸っこい青色スライムが喋ったことに、勇者たちはさらにパニックに陥った。
「ス、スライムが喋った!? やはりここは魔物の巣窟だ! 伝説の魔剣を奪い返すぞ! 『聖なる刃』!!」
立ち上がった勇者が、剣に光を纏わせて俺に斬りかかってきた。
(やれやれ……血気盛んな若者は嫌いじゃないが、温泉宿で暴れるのは感心しないな)
俺は迫り来る剣身を、スライムの体で「白刃取り(※体内に取り込んでゼリーで固定)」した。
「なっ!? 俺の聖剣が、スライムの体に吸い込まれて……抜けない!?」
「悪いな。俺の体は斬撃耐性カンストなんだ。それから、あんたが探してる『伝説の魔剣』だけど……」
俺はチラリと背後を見た。
アイリスの銀髪が逆立ち、そのオッドアイから凄まじい冷気と熱気が同時に漏れ出している。完全にブチギレ状態だ。
『……誰が、お前みたいな薄っぺらいナンパ男の剣になるって? 私のマスターは、この世界で一番強くて優しい(けどちょっと怠け者の)泥水だけよ!!』
アイリスのアバターが光に包まれ、本来の『双極の星剣』の姿へと戻り、俺の体の中にスッと収まった。
その瞬間、俺の体から白金の凄まじいオーラが噴き出す。
「け、剣が、女将に……いや、スライムに……!?」
「ヒィィッ! こいつ、ただのスライムじゃない! 魔王よりヤバい魔力だ!!」
俺は白金に輝く体を大きく膨らませ、【双極領域(フレイム&フロスト)】を「超マイルド設定」で発動した。
「名付けて、奥義:スライム式・超絶サウナ空間(ロウリュウ付き)!」
フロントの空間が一瞬にして90度の高温蒸気に包まれる。
重い鎧を着ていた勇者一行は、一瞬で汗だくになり、脱水症状と熱気でバタバタと倒れ伏した。
「あ、あつ……し、死ぬ……」
「降参です……許して……」
(ふぅ。殺さずに無力化するの、結構気を使うんだよな)
『甘いわねナルセ。そのまま茹でダコにしてやればよかったのに』
俺は元のサイズに戻りながら、ゼイゼイと床に這いつくばる勇者たちを見下ろした。
「さて。館内を荒らした罰金と、女将へのセクハラ未遂の慰謝料……どうやって払ってもらおうか?」
「は、払います! 国からの援助金が……!」
「金じゃダメだ。うちは現在、慢性的な『人手不足』でね」
俺とアイリス(再びアバター化した姿)は、ニヤリと悪い笑顔を浮かべた。
翌日から、スライム温泉郷には新たな名物が誕生した。
「い、いらっしゃいませぇぇ! 勇者アーサーが、お客様のお荷物をお運びします!!」
「アキレス腱までしっかりマッサージさせていただきます……(涙)」
黄金の鎧を脱がされ、旅館の作務衣を着せられた勇者パーティが、汗水垂らして下働きをする姿である。
特に「天竜の背中流し(超巨大ブラシ使用)」の担当になった勇者は、毎日筋肉痛で悲鳴を上げているらしい。
『ふふん、これで少しはフロント業務も楽になるわね』
(勇者って体力あるから、タダ働き……いや、住み込みバイトとしては最高だな)
俺は露天風呂の隅っこで、天竜が差し入れてくれた最高級の果物ジュース(魔力抽出液)を啜りながら、極上のふやけタイムを満喫していた。
魔王討伐? 伝説の武器集め?
そんな疲れることは、血気盛んな若者に任せておけばいい。
俺の異世界スライムライフは、今日も最高に平和で「ぬるり」としているのだった。
……。それでも、泥水はちょっと。ちょっとぉお……っ。
少しでもいいと思ったら、ブックマーク、「☆☆☆☆☆」をお願いいたしますわっ。
おほほほっほほっほっほ。別に深い意味はないっ。断じて。




