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天竜の襲来

えーなー(高音)

温泉宿『スライム&ソード』を開業(※勝手に客が押し寄せてきただけ)してから半年。

若女将ことアイリス(魔剣の化身)のスパルタ経営術により、宿の規模は当初の「手作り露天風呂」から、「木造三階建ての立派な温泉旅館」へとメガ進化を遂げていた。


『ちょっとナルセ! 縁側で干からびてる暇があったら、三番風呂の温度調節してきなさい!』

(無茶言うなよ……俺、今日はもう水分がスッカラカンだ。誰か俺にポーションを……)


美しい銀髪を揺らしながら帳簿を叩くアイリスのアバター。

その横で、水まんじゅうのように平たくなっているスライム

すっかり「デキる女将とダメな亭主」という構図が定着してしまった。



その日の昼下がり。

露天風呂でドワーフやエルフの客たちがくつろいでいた時、突如として周囲が「夜のように」暗くなった。


「なんだ!? 日食か?」……。知能高くね?誰だよ学者か?

「いや……見ろ! 上だ!!」


ドワーフの叫び声に空を見上げると、巨大な雲……いや、「山脈のように巨大な竜」が、旅館の上空を旋回していたのだ。

青白い鱗に、嵐を呼ぶ六枚の翼。

伝説に名高い『天竜エンシェント・ドラゴン』である。


(ゲェッ!? なんであんなラスボス級の魔物がここに!?)

『ナルセ、警戒なさい! もし暴れるようなら、全力で斬り伏せるわよ!』


アイリスがアバターの姿から「双極の星剣」の本体へとシュンッと戻り、俺の体内に収まる。

臨戦態勢をとった俺たちの脳内に、地鳴りのような重低音のテレパシーが響いた。


『――恐れるな、小さき者たちよ。我は破壊をもたらすために来たのではない』

(え? じゃあ何しに?)

『……その、なんだ。最近、空を飛ぶ鳥たちの間で「スライムが沸かした極上の秘湯がある」と噂になっておってな。長年の肩こりが酷いゆえ、湯治に来たのだ』


……天竜、まさかの温泉客(新規)だった。



「いや、歓迎したいのは山々なんだけどさ……」


俺はスライムの体でフルフルと震えながら、天竜の巨体を見上げた。

全長ざっと100メートル。

対するうちの自慢の大露天風呂は、せいぜい幅15メートル。

どう考えても、竜の爪先しか入れない。


(アイリス、どうする? 満室……というか「サイズオーバーです」って断るか?)

『バカね、伝説の天竜を顧客にすれば、この宿のハクがさらに上がるわ! 断るなんて女将のプライドが許さないわよ!』

(お前、完全に経営者の脳になってるな!?)


『ナルセ! いくわよ! 新しいお風呂を【掘る】わ!!』


俺の反論を待たず、アイリスが体内で凄まじい魔力を放ち始めた。

かつて聖都を救った白金の輝きが、スライムの体を包み込む。



ええと、まずは。

地形の確保: 俺は天竜の巨体が入るサイズの「窪地」をスキャンする。


お次に

神聖・スライム・エクスカリバー(土木工事用): 俺の体を光の巨大剣へと変形させる。


そして最後にぃいいい”っ!

掘削と給湯: 巨大剣で山肌を丸く抉り取り、同時にアイリスの【双極領域】で地下水脈を一気に沸騰させて引き上げる!


「いっけええええ! 温泉拡張工事・一刀両断!!」


ズドゴォォォォォォンッ!!!


かつて最強のストーカー錬金術師を消し飛ばした究極奥義が、裏山の岩盤を綺麗に円形に吹き飛ばし、そこに超高温の源泉がドバドバと湧き出した。




『……おお、おおお! なんという広さ、なんという湯加減! スライムよ、そなたの魔力調整は神業だな!』


新設された「超特大・竜専用露天風呂」に首まで浸かり、天竜はだらしなく目を細めていた。

鼻息だけで突風が吹き荒れるが、客たちは「天竜の入浴シーンが見られるなんて!」と逆に大喜びしている。


「……はぁ。まさか究極奥義をショベルカー代わりに使う日が来るとはな」


俺は本来のサイズに戻り、天竜の背中の上で「垢すり(スライムの強酸を0.01%だけ混ぜたピーリング効果)」のサービスをしながらぼやいた。


『いいじゃない。お陰で「天竜も通う宿」として、予約が3年先まで埋まったわよ』


いつの間にかアバターの姿に戻ったアイリスが、天竜の頭の上で涼しい顔をして帳簿にペンを走らせている。


(俺ののんびりスライムライフ、どこいったんだよ……)


そうボヤきながらも、天竜からお礼としてもらった「希少な魔石」をかじると、これがまた信じられないくらい美味かった。

伝説の魔剣にこき使われ、ラスボス級の客を接待する毎日。

だが、山奥に響く賑やかな笑い声を聞いていると、「こういう忙しさも悪くないな」と、俺はふやけた体でこっそり笑うのだった。

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