序章のプロローグ
ねむい
ギデオンの消滅と共に、聖都を覆っていた暗雲が晴れ、美しい青空が戻ってきた。
大聖堂は半壊してしまったが、死者はゼロ。大教皇も聖騎士たちも、無傷で生き残っていた。
「おお……なんという神々しい輝き。やはりあなた様は、神の使い……」
大教皇がひれ伏そうとするのを見て、俺は慌てて元の「バレーボール大のスライム」の姿に戻った。
中にあるアイリスは完全な姿を取り戻したが、俺の体積は相変わらずである。
(……ヤバい。このままじゃ「聖都の守護獣」とかにされて、一生大聖堂から出られなくなる!)
『逃げるわよナルセ! 英雄ごっこはもうおしまい!』
「あ、ああっ! ナル殿! お待ちを!!」
「教皇様、ご無事で! 修理代はギルドにツケといてくれ!」
俺は念動力(というか風の魔力)を使ってポーンと空高く跳躍し、聖騎士たちの制止を振り切って、聖都の壁の向こうへと逃亡した。
数ヶ月後。
大陸の辺境、人里離れた静かな山奥。
「……ふぅ。極楽、極楽」
俺は、岩で囲まれた手作りの露天風呂の中で、でろーんと平たく広がっていた。
あの後、俺たちは完全に冒険者を引退し、誰も来ないこの山奥に念願のマイホーム(洞窟)を構えた。
水は川から引き、アイリスの炎の魔力で温め、冷気の魔力で湯加減を調整する。
まさに、「自給自足の全自動温泉システム」の完成である。
『ちょっとナルセ、また私の神聖な魔力を給湯器代わりに使ってるわね?』
岸辺に立てかけられた美しい剣――完全体となったアイリスが、呆れたように念を送ってくる。
彼女は俺の体から出ることもできるようになったが、結局いつも俺のそば(というか風呂の横)にいる。
(いいだろ、平和なんだから。お前も一緒に入るか?)
『……バカ。魔剣は湯冷めしないのよ』
文句を言いながらも、アイリスの刃が嬉しそうにチカチカと光っているのを俺は見逃さなかった。
異世界転生、最弱スライムからのスタート。
幾多の死線を越え、面倒くさいストーカーを倒し、たどり着いたのは、ただのんびりと湯に浸かる平和な日常。
(最高だ。これ以上の幸せはないな)
俺は青空を見上げながら、スライムの体を温泉に溶け込ませるように目を閉じた(目はないけど)。
異世界温泉スライムライフ。
一件落着ってやつだ。
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