機械仕掛け
ネーミングセンスがなんだ。やんのか。
「素晴らしい! やはりこの空に逃げ込んでいたか、私の可愛い魔剣よ!!」
(ゲェッ!? あの隻眼の変態酔っ払いストーカー錬金術師!)
『ギデオン!? 迷宮の底に落ちて死んだんじゃなかったの!?』
驚く俺たちの前に降り立ったギデオンの姿は、以前とは大きく異なっていた。
迷宮で俺の【絶対零度・スライムスマッシュ】を受けて真っ二つにされたはずの彼の半身は、おぞましい魔導機械のパーツで強引に繋ぎ合わされた「サイボーグ」と化していたのだ。
「フフフ……驚いたか? この程度の損傷、私の錬金術と迷宮の技術をもってすれば容易に修復可能だ。むしろ、肉体の限界を超えた完璧な存在へと昇華したのだよ!」
ギデオンの機械の右腕から、不気味な紫色の放電が迸る。
「この島の『反重力機関』に、君のパーツが眠っていることは調査済みだ。あの機関の魔力ごと君を吸収すれば、今度こそ私は神に等しい力を得る!」
「させない! ゼファーのコアは私が守る!」
シエルが風の魔法を纏わせた槍を構え、ギデオンに突進する。
だが、ギデオンは機械の腕を無造作に振り抜き、凄まじい落雷のような魔力でシエルを撃ち落とした。
「キャアアッ!?」
「シエル!」
俺は【粘着糸】を伸ばして落下するシエルを受け止め、そのままギデオンを睨みつけた。
(……アイリス。あいつ、絶対にここで息の根を止めるぞ。温泉旅行の最大の障害だ)
『珍しく意見が合うわね、ナルセ。あんな醜悪な機械に組み込まれるくらいなら、あなたというスライムの腹の中にいる方が一万倍マシよ!』
(……褒められてる気がしないけど、いくぞ!!)
俺はローブを脱ぎ捨て、青いスライムの姿を解放した。
体内に浮かぶ「蒼氷の刃」と「紅蓮の鍔」が、凄まじい魔力の共鳴を起こす。
「ハハハ! またその姿を見せるとは。だが、私の計算は完璧だ。お前の氷も炎も、今の私には通じない!」
ギデオンが機械の腕を突き出すと、彼の周囲に幾重もの「対属性・魔法障壁」が展開された。
俺が放った【徹甲酸弾】も、炎を纏った【フロスト・ウィップ】も、障壁に触れた瞬間に無効化されてしまう。
「無駄だ! お前の攻撃パターンはすべて学習済みだ!」
ギデオンの反撃。機械腕から放たれる極太のレーザーのような光線が、俺の体を容赦なく貫く。
ジュボォォォッ!!
(痛ってええええ!!? スライムの体が三分の一くらい蒸発したぞ!?)
『ナルセ! このままじゃ押し切られる! 反重力機関のコア室へ向かって! 私の「柄」と合体すれば、あいつの障壁を貫ける力(風と雷)が手に入るわ!』
(でも、コアを抜いたら島が落ちるって……!)
『なんとかなるわよ! いえ、なんとかしなさい! あなたならできるでしょ!?』
なんて無責任なヒロインだ。だが、他に手はない。
俺は残った体積を最大限に引き伸ばし、ギデオンの攻撃をすり抜けながら、都市の中央にある「反重力機関室」へと一直線に滑り込んだ。
機関室の最奥。
そこには、神々しい翠緑の光を放つ、魔剣の「柄」が浮遊していた。
島の全重量を支える凄まじい風と雷の魔力が、竜巻のように渦巻いている。
「逃がさんぞ、スライム!!」
背後からギデオンが追いつき、最大火力の破壊光線をチャージし始めた。
俺は迷わず、暴風の吹き荒れるコアの渦へと飛び込んだ。
《 聖遺物『双極の魔剣(破損)』のパーツ【雷風の柄】を回収・結合しました 》
《 固有スキルが統合され、【天翔極星剣】へ進化しました 》
瞬間、俺の体内で三つのパーツ――「蒼氷の刃」「紅蓮の鍔」「雷風の柄」が完全に繋がり、本来の『魔剣』としての形を七割方取り戻した。
『……満ちるわ。私の力が、帰ってくる!!』
アイリスの歓喜の声と共に、俺のスライムボディの表面に、バチバチと翠緑の雷光が走り始めた。
氷、炎、そして風雷。
「喰らえ!!」
ギデオンの破壊光線が迫る。
(俺の体を避雷針にして、全部跳ね返す!!)
俺は【限界硬質化】した体を、電気を通しやすい金属の性質へと変化させ、光線を真正面から受け止めた。
ダメージはない。むしろ、ギデオンの魔力をそのまま吸収し、アイリスの雷と融合させる。
「【奥義:超電導・スライムスマッシュ】!!!」
俺は音速を超えるスピードで弾き飛び、雷を纏った巨大な弾丸となってギデオンに突撃した。
幾重にも張られた対属性障壁が、雷の超高エネルギーと物理的な質量の前で、ガラスのようにパリンパリンと砕け散る。
「ば、バカな……私の完璧な計算が……こんな、ぷよぷよした軟体動物に……!!」
俺の一撃がギデオンの機械の半身を完全に貫き、そのコアを粉砕した。
大爆発を起こし、ギデオンの残骸は天空都市から遥か下界の雲海へと落ちていった。
(今度こそ死んだだろ、絶対)
落下へのカウントダウン
だが、安心したのも束の間。
コア(柄)を抜かれた天空都市ゼファーが、ズズンと大きく傾き、猛烈なスピードで高度を下げ始めたのだ。
「きゃあああっ!」
シエルが悲鳴を上げる。
(やばい! 島が落ちる!)
『ナルセ、あなた自身が島の「浮袋」になりなさい! 新しく手に入れた風の力を使えばいけるわ!』
俺は島の底面に回り込み、自らの体を限界の限界まで広げた。島全体を覆う、巨大な「スライム製のパラシュート」への変形だ。
(アイリス、風だ! 風を下に向けて全力で吹かせろ!)
『【暴風領域】、全開!!』
俺の体の底面から、凄まじい上昇気流が噴き出す。
落下する島の重量と、押し上げる風の力が拮抗し、スライムの体が悲鳴を上げるようにミシミシと引っ張られる。
(きつい……ちぎれる……!)
『耐えなさい! 温泉、行きたいんでしょ!!』
(おおおおおおっ!! 温泉のためにィィィッ!!)
俺の執念(と魔剣のフルパワー)が勝った。
天空都市ゼファーの落下速度は徐々に緩まり、やがて雲海の下に広がる静かな湖の水面へと、大きな水しぶきを上げて「着水」した。
不時着、成功である。
ーーーーーーーーー
「……本当に、何から何までありがとう。リム様、アイリス様」
湖に浮かぶ新たな島となったゼファーのほとりで、シエルが深々と頭を下げた。
空を飛ぶ都市ではなくなったが、これなら彼女も一人ぼっちではなく、対岸の人間たちと交流して生きていけるだろう。
俺は元のスライムサイズ(バレーボール大)に戻り、ローブの中でぐったりと力尽きていた。
三つのパーツが合体したアイリスは、もはやただの折れた剣ではなく、立派な「聖剣」のような威厳を放っている(中身は相変わらずツンデレだが)。
『……ふふん。どうやら私、残るパーツはあと一つみたいね』
アイリスが誇らしげに言う。
刃、鍔、柄が揃った。残る最後の一つは、剣の根幹を成す「宝玉」らしい。
(……それが終わったら、今度こそ俺を温泉と美味しい水のある安全な場所に解放してくれよな)
『それは最後のパーツを見つけてから考えるわ。さあ、休んでる暇はないわよ、ナルセ! 出発!』
湖の冷たい水で体を冷やしながら、俺は重いため息(空気の泡)を吐き出した。
最弱スライムと伝説の魔剣の異世界サバイバル。
完全体への道程は、いよいよ終わりへと近づいていた。
少しでもいいと思ったら、ブックマーク、「☆☆☆☆☆」をお願いいたします




