空を見上げて
名前をパクってるといわれてもかまわないッ!
ネーミングセンスがアアぁ”あ”ッ!!
火山都市イグニスでの極上の温泉体験から数日。
俺は、完全に「ふやけた」状態のまま、次の目的地に向けて街道を這い進んでいた。
「魔術師ナル」としての変装用ローブも、イグニスの仕立て屋で新調した耐火仕様の高級品だ。おかげで日差しを浴びても干からびる心配が減った。
(はぁ……温泉、良かったなあ。できればあそこに永住したかった)
『いつまでだらけてるのよ! 私の破片はあと二つ残ってるんだからね!』
体内のツンデレ魔剣、アイリスがカチャカチャと音を立てて文句を言う。
彼女の刀身には、前回手に入れた「紅蓮の鍔」が合体しており、冷気と熱気という相反する魔力が俺のスライムボディの中で絶妙なバランスを保っていた。
(で、次はどこに行くんだ? また過酷な場所じゃないだろうな?)
『……地図で言うと、この真上ね』
(真上?)
俺はローブのフードをずらし、見上げる。
そこには、雲を突き抜けるほど高い、巨大な石の柱……いや、「空に浮かぶ島」があった。
『かつて高い魔法技術で栄えた空中都市ゼファー。私の「柄」のパーツが、あそこの中心から膨大な魔力を放っているわ』
(……おい。あんな高さ、どうやって行くんだよ。特急スライム・エクスプレスは横移動しかできないぞ)
『簡単なことよ。あなた、今は「炎」の力も使えるでしょ?』
アイリスの言葉に、俺は嫌な予感を覚えた。
ーーーーーーーーーー
「熱っ! あっつ! 膨張するゥゥゥ!!」
数時間後。俺は地上から数千メートルの上空を飛んでいた。
いや、飛んでいるというより「浮いている」。
ローブをパラシュート状に広げる。
スライムの体を極限まで薄く広げ、気密性の高い「風船」を作る。
アイリスの「紅蓮の鍔」から熱気を放ち、風船内の空気を熱する。
名付けて、【奥義:スライム熱気球】だ。
理にかなっているといえば聞こえはいいが、要するに「自分の体をバーナーで炙りながら空を飛ぶ」という狂気の沙汰である。
『ほら、もっと熱を入れるわよ! 高度が足りないわ!』
(ストップ! これ以上やったら俺の表面張力が限界を突破して破裂する!!)
ギャーギャー騒ぎながら雲を抜けると、眼前に巨大な浮遊島が現れた。
白い大理石で作られた美しい神殿や塔が立ち並び、豊かな緑が空中の滝となって流れ落ちている。まさに天空の楽園だ。
俺は熱気を少しずつ抜きながら、島の広場らしき場所へと不時着(落下)した。
べちゃああっ!
「い、生きてる……」
「――誰だ、お前は! 空から降ってくるとは……魔物か!?」
ひしゃげた体を整え、ローブと仮面を被り直そうとした時、頭上から槍を突きつけられた。
見上げると、背中に真っ白な鳥の翼を生やした少女が、警戒心も露わにこちらを睨みつけていた。
鳥人族の生き残りらしい。
少女の名前はシエルといった。
俺が「ただの通りすがりの空飛ぶ魔術師」だと名乗り、危害を加えるつもりがないことを説明すると、彼女は少しだけ槍を下ろした。
「……信じられないけど、確かに魔物の瘴気は感じない。私はこのゼファーを守る最後の『風守り(かぜもり)』よ」
シエルの案内で都市の内部を歩く。
外観は美しかったが、近づいてみると建物はひび割れ、あちこちに蔦が絡まっていた。かつて数万人が住んでいたというこの都市に、今いるのはシエルただ一人だという。
「都市を浮遊させている『反重力機関』の魔力が、もう限界なの。……あと数日もすれば、この島は完全に墜落して、下の大地を巻き込んで壊滅するわ」
シエルが悲しげに空を見上げる。
俺とアイリスは内心で顔を見合わせた。
(おいアイリス。その反重力機関の動力源って……)
『ええ、間違いないわ。私の「柄」の破片が組み込まれているんだわ。私が抜ければ、島は即座に墜落するわね』
(詰んでるじゃないか!)
破片を回収すれば島が落ちて大惨事。回収しなければいずれ落ちて大惨事。
どうすりゃいいんだ、と頭を抱えかけたその時――。
ズドォォォォォン!!!
都市の端の防壁が、凄まじい爆発音と共に吹き飛んだ。
「何事!?」
シエルが翼を広げて空へ舞い上がり、俺もスライムの跳躍力で瓦礫の上へと飛び乗った。
爆煙の中から現れたのは、無数の飛行型ゴーレムの群れ。
そしてその中央、黒い鋼鉄の飛行機械に乗って高笑いをする、見覚えのある男の姿があった。
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