一段落
えーなー(高音)をみんなで流行らそう。
せーのっ!
えーなー(高音)
大丈夫か?あれ酔ってたら死ぬだろ?
結構場違いだとは思うが日本人として思わずにはいられない。
言わないけど。
「久しぶりだな、私の愛しい魔剣。そして、それを飲み込んだ不愉快な汚泥よ」
『ギデオン……! よくも抜け抜けと!』
「街を一つ捧げるだけの価値はある実験だ。さあ、その剣を返しなさい。それは私が『究極の兵器』となるために必要なパーツなのだから!」
ギデオンが杖を振り下ろすと、迷宮の大穴から、一際巨大な怪物が這い出してきた。
それは、何百体もの魔物の死骸と、迷宮のクリスタルを強引に錬金術で繋ぎ合わせた、全長20メートルを超える「超巨大キメラ・ドラゴン」だった。
「ギャァァァァァァッ!!」
咆哮とともに、ドラゴンの口から灼熱の業火が放たれる。
「逃げろ! あんなの勝てるわけねえ!!」
冒険者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
俺も逃げたい。今すぐ温泉旅館の布団に潜り込みたい。だが、ここで逃げたら、トマス爺さんやニーナ、そしてこの街にいる十万人が皆殺しにされる。
(……おいアイリス。お前の力、全部出せるか?)
『当たり前よ! 私の破片を一つ取り戻したんだから、出力は前の倍以上よ!』
(よし。じゃあ、俺の体も限界まで使うぞ!)
俺は、着ていたローブと仮面を自ら引き裂いた。
「な、なんだアイツ!?」
「中身が……スライム……!?」
ガストンたちが驚愕の声を上げるが、気にしてはいられない。
俺は本来の「青く透き通るスライム」の姿に戻り、その中心に輝くアイリスの刀身を露わにした。
「ハハハハ! 愚かな! 自ら姿を晒すとは。焼け焦げて消え失せろ!」
ギデオンの命令で、キメラ・ドラゴンが俺に向かって最大火力の炎をブレスとして吐き出した。
広場全体を包み込むような、圧倒的な熱量。
だが、俺は逃げない。
スライムの体をドーム状に大きく広げ、後方の街を守るように「盾」の形へと変化させた。
『ナルセ! いくわよ!』
俺の体に、アイリスの【氷結】の魔力が充満する。
炎が直撃した瞬間、俺の体表面のゼリーが「ジュワァァァッ」と猛烈な勢いで蒸発していく。しかし、蒸発する以上のスピードで、アイリスが俺の体を内側から冷却し、凍らせていく。
炎と氷の激しい衝突。
大量の水蒸気が広場を覆い尽くした。
「……バカな。私のドラゴンの炎を、たかがスライムが相殺しただと?」
煙が晴れた後、そこには無傷の俺(少し体積は減ったが)がいた。
(熱っつ……いや、スライムだから死なないけど、めっちゃ疲れたぞ!)
『よく耐えたわ、ナルセ! 今度はこっちの番よ!』
俺は、弾力を使って空高く跳躍した。
目標は、ドラゴンの頭上にいるギデオンだ。
「させん! 叩き落とせ!」
ドラゴンの巨大な尻尾が俺を薙ぎ払おうと迫る。
だが、俺は空中で体を「ドーナツ状」に真ん中だけ空洞化させ、尻尾をスポンとすり抜けた。
「なにっ!?」
「スライムの柔軟性を舐めんな!!」
そのままドラゴンの背中を滑り降り、巨大な翼を【フロスト・ウィップ】で両断。
バランスを崩したドラゴンの巨体が、ズシンと広場に倒れ伏した。
「おのれ……! こうなれば私自ら……!」
ギデオンが杖を構え、俺に向けて凶悪な闇の魔術を放とうとした。
だが、それより俺の方が早い。
(アイリス、奥義いくぞ!)
『ええ! 吹き飛ばしなさい!!』
俺はスライムの体を、アイリスの刀身に沿うように「巨大な大剣」の形へと【硬質化】させた。
青く輝くクリスタルのような巨大な刃。
そこに、【氷雪世界】の絶対零度の魔力を限界まで圧縮する。
「喰らえ! 【絶対零度・スライムスマッシュ】!!」
空から落下する重力を利用し、俺(大剣)はギデオンごとキメラ・ドラゴンを脳天から一刀両断した。
ピキィィィィィンッ……!!!
強烈な冷気が爆発し、ドラゴンとギデオンの魔術陣を丸ごと氷漬けにする。
そのまま、パリンッという乾いた音と共に、巨大な怪物は粉々の氷の結晶となってエーテルの空へと舞い散った。
「ば、バカな……私の、究極の……計画が……」
氷漬けになったギデオンが、信じられないという顔でこちらを睨む。
ああ、酔ってそうな顔なだけだったのか。なんかごめんな?
だが、彼を乗せていた陣が崩壊し、ギデオンの体は迷宮の深い暗闇の底へと真っ逆さまに落ちていった。
いわんこっちゃない。
「……勝った、のか?」
俺が本来のスライムの姿に戻り、広場にぽてっと着地すると、静まり返っていた冒険者たちから、地鳴りのような歓声が上がった。
「すげえ……! あのスライム、街を救いやがった!!」
「おい見ろ、あの青い輝き……伝説の『ホーリー・スライム』だ!!」
(……は? ホーリー・スライム?)
『ふふっ、あなたの二つ名が定着したみたいね、ナルセ』
ガストンをはじめとする屈強な冒険者たちが、ぷよぷよの俺を胴上げしようと群がってくる。
だが、スライムを胴上げすると、手がすり抜けてただ揉みくちゃにされるだけだ。
「や、やめろ! 潰れる! 引っ張るな!!」
数日後。
迷宮都市エーテルは、見事に平和を取り戻していた。
迷宮の異変は収まり、俺は街を救った英雄……のペット(あるいは使い魔)として、ギルドの特別待遇を受けることになった。相変わらずローブを着て「魔術師ナル」を名乗っているが、中身がスライムなのは一部の冒険者にはバレている。
『ねえナルセ。ギデオンは迷宮の底に落ちたけど、死体は確認されてないわ』
宿屋の柔らかいベッドの上ででろーんと寛いでいると、体内のアイリスが真面目な声を出した。
(あいつ、ゴキブリ並みの生命力がありそうだからな)酔ってるし。常時。
『ええ。それに、私の破片はまだ世界中に散らばっているはずよ。全部集めないと、また悪用する輩が出てくるわ』
(……ってことは、俺たちの旅は終わらないってことか)
「のんびり温泉旅館でスライムライフ」という俺のささやかな夢は、当分叶いそうにない。
(仕方ない。乗りかかった泥舟……いや、泥体だ。最後まで付き合ってやるよ、アイリス)
『ふん、言ってくれるじゃない。せいぜい私の足手まといにならないことね!』
ツンデレ魔剣の軽口を聞きながら、俺は次の目的地が記された地図の上に、ぷるんと体を乗せた。
異世界転生、最弱スライムからのスタート。
だけど、悪くない相棒がいれば、この「ぬるり」とした人生も意外と楽しめるかもしれない。
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