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77話 観測開始:5年14日目-6 / F級冒険者証

 必死に背伸びをしたエデンの手へと、真新しい金属製のプレートが手渡された。


「では、こちらが冒険者証になります。身分証としても使えますので、失くさないように気をつけてください」


 クラリスがギルド職員として、畏まった口調で告げた。

 かと思うと、すぐに人懐っこい笑顔に戻る。


「本当に、失くしちゃだめだよ?」


「はい。ありがとうございます、クラリスさん」


「おー……これでアリシアたち、ぼうけんしゃ?」


 アリシアは受け取った冒険者証を見つめた。

 左上には小さな魔石が嵌め込まれており、自分の名前と等級を示す『F』の表記がある。


「えへへ。アリシアのなまえ、かいてる」


「等級も書いてあるね」


「あら。二人は文字が読めるの?」


「はい。読み書きに、問題はありません」


「うん! ママとおねえちゃんにおしえてもらった!」


「どうだ? 冒険者証は、受け取ったか?」


 クラリスとそんなやりとりをしていると、シエルとジンが階段から降りてきた。

 

「うん! シエルおねえちゃん、みて! みてっ!」


「おお! これでお前たちも、正式な冒険者だな!」


「そうだね。二人とも、おめでとう」


「ジンさん、その鞄は?」


 エデンも彼らの元へ歩み寄ると、ジンの手に握られたバックパックに首を傾げた。

 どう見ても子供用の、ジンには合わないサイズ。

 ジンは口を開けると、中を見せてくれた。

 そこには小さなスコップや畳まれた革袋。冒険者に、最低限必要と思われる道具が入っていた。


「これは俺からのお祝いね。たぶん必要になるから」


「あ……! ありがとうございます!」


 これは、本当に助かる。

 自分たちの手持ちの道具といえば、剣くらいしか無いのだから。

 エデンが深く頭を下げると、ジンは笑いながら手を横に振った。

 すると、クラリスがジンを手招きし、硬貨が乗せられたトレーを置いた。


「ジンさん。こちら、バンダさんがお持ちになった魔石の報酬金です」


「ああ、ありがとう。……エデン、ちょっといいかい?」


 ジンに促され、エデンはカウンターの上に頭を出した。


「全部で銀貨36枚、銅貨63枚です。ご確認されますか?」


「いや、君を信用するよ。エデン、このお金の価値の違い分かるかい?」


 ジンの指が、銀貨と銅貨をそれぞれ一枚取り、エデンの前に突き出してくる。


「はい。銅貨百枚で銀貨一枚。ここにはありませんが、銀貨百枚で金貨一枚。白金貨も同様です」


「うん。それだけ分かっていれば大丈夫そうだね。アリシアは……」


 アリシアはもらったバックパックに頭を突っ込んで、中の道具を夢中になってまさぐっている。シエルがその傍らでニマニマと見つめているが……。

 お金については後で教えればいいかと、そう思い直し、ジンは少し大きめの革袋を取り出した。


「これも換金してほしい」


「はい。この魔石は……あまり、質がよくないようですが」


「ああ。この子たちが倒した、ゴブリンと灰狼のだからね」


 クラリスが驚いたようにエデンを見つめた。

 それに笑いながら、ジンはトレーに積み上げられた硬貨を指さした。


「これも一緒に、エデンのカードに登録しておいてくれ」


「はい。かしこまりました。エデンちゃん、冒険者証貰ってもいい?」


「あ、はい。分かりました」


 エデンが冒険者証を渡すと、クラリスは革袋とトレーを持って、裏へと行ってしまった。


「……ジンさん、あのお金はどうなるのですか?」


「冒険者証はね、冒険者であることを示すだけじゃなく、魔道具でもあるんだ」


 ジンが冒険者証を取り出すと、小さな魔石を指さした。


「これまで受けた依頼の記録、その達成率。それに、ギルドにお金を預ける事で、他のギルドでもそれを引き出すことが出来る」


「なるほど、便利ですね」


「うん。あと今のお金は、ディーン達が倒した魔物の魔石を換金した物だから、君たちが貰うといい。あー……確か、バンダに持って行ってもらった鞄にも、お金が入ってたんだっけ?」


「はい。その通りです」


「んー……まあ、それは明日でいいか」


 戻ってきたクラリスから冒険者証を受け取り、エデンは改めてカードを見つめる。この小さなカードも、魔道具らしい。


「それじゃあ、俺は明日の準備があるから。シエル、悪いけど後のことは任せてもいいかい?」


「む、そうだな。……クラリス。この後時間は取れるか? 今後のことも、もう少し話しておきたいしな」


「はい。アダルマンさんが、気をきかせてくださって。私の仕事を、他の方へと回してくださいました。なので、今日はこれで終わりです」


「そうか……なら、外で待っているか」


「はい。すぐに行きますので」

 

 クラリスはそれだけ言うと、足早にカウンターの奥へと消えていく。

 それを見送り、エデンたちもギルドの入口へと振り返った。


「クラリスさんも、一緒にきていただけるのですね?」


「ああ。それに、行きたい店もあるしな」


「おー! やった!」


 四人で出口へと歩いていると、エデンたちに気づいた冒険者たちが手を上げて見送ってくれた。

 アリシアが嬉しそうに手を振り返すのを見て、ジンが不思議そうに目を瞬かせた。


「……いつの間に、皆と仲良くなったんだい?」


「お前がアダルマンと話し込んでいる間にな。随分と騒いでいた」


「なぜか皆さん、すごく優しくしてくださいました」


「たくさん、ごはんくれた!」


「えっ!? お昼、食べちゃったの!? ……俺、どうしようかな……」


 ギルドから外の広場へ出ると、中央の噴水の周りで人々がベンチに腰を下ろし、憩いの時間を過ごしていた。


「それじゃあ、また、夜にでも」


 ジンはそう言って、ゆっくりと人混みの中へと消えていってしまった。

 エデンたちはベンチに腰を下ろし、クラリスが出てくるのを待つ。


「二人とも、今日は色々とあって、疲れてないか?」

 

「はい。問題ありません」


「うん! ごはん、いっぱいたべたから!」


 アリシアが笑うと、その姿にシエルは満足そうに頷いた。

 その時、四方へと繋がる大通りの一つから、一台の重厚な馬車が広場へと入ってきた。

 飾り気こそないが、磨き上げられた黒塗りの佇まい。馬車の側面には、太い樹の幹がモチーフとなった、シンボルマークが描かれている。

 その大きさもあって、エデンとアリシアの視線が自然とそれを追っていく。

 すると馬車に気づいたシエルが、その目を細めた。


「……エルネスト家、か」


「エルネスト家?」


「ああ。この街を統治している貴族だ」


 そう語るシエルの顔は、何か嫌なことでも思い出したかのように曇っている。

 やがてその馬車は、白く整然とした建物の前でゆっくりと停まった。

 すると中から出てきたのは、立派な服を着た大人の貴族ではなく――。


「……子供が、降りてきました」


「おんなのこ?」


 遠目からでも分かる低い背丈。

 艶のある赤い髪を風になびかせ、メイドらしき女性を連れて、その少女は歩いている。

 彼女がふと周りを見回した時、一瞬、その気の強そうな茶色の瞳と視線がかち合ったような気がした。

 次の瞬間には、彼女は前を向き、白亜の役所のような建物の中へと消えていった。


「あの子も貴族ですか」


「ああ、そうだ。あの子は……いや、気にする必要はない。関わる事もないだろうからな」


「……そうですね」


 この世界において、貴族は特権階級だ。

 自分たちのような、身寄りのない新米の冒険者とは、住む世界が違うのだろう。

 エデンが前を向くと、ちょうどクラリスが小走りで駆け寄ってくるところだった。


「すいません、お待たせしました」


「いや。急に、予定を変えさせてしまっているんだ。すまんな」


「ねえ、このあと、どこいくの?」


「ああ。一度宿に向かうぞ。その後に行く場所は……」


 シエルは立ち上がると、にやりと悪戯っぽく笑った。


「いいところだ」



 *********



 シエルに連れて来られた宿で汗をざっと洗い流すと、再び活気ある街中へ颯爽と飛び出した。

 久しぶりに湯を使いさっぱりとしたからか、アリシアもシエルも、心なしか足取りが軽い。

 北へと伸びる大通りを歩きながら、エデンの手がアリシアによって振り回されていた。


「おっかいっもの♪ おっかいっもの♪」


「……アリシア。楽しそうね?」


「うん!」


 アリシアは無邪気に笑っているが、果たしてこれから何を買うのだろう。


「二人とも、家から持って来たのはたった数着。それも、普段着のような物だけでな」


「なるほど……それはいけませんね」


「そうだ。それに宿で過ごすにしても、あの服のままではな」


「そうでした。二人とも、宿に泊まるんですか? てっきり私の家に来るものかと」


「いや、そこまで世話になるわけにはいかん。それに当面の間の宿代も、もう払ってある」


「うーん……。だとしても、夜くらいは様子を見に行こうかしら」


 真剣な顔で話す二人に、エデンが声をかけるタイミングを見計らっていると、その前にシエルの足が止まった。


「ここだ」


 そう言ってシエルが向き合ったのは、一軒の華やかな店だった。

 前面は大きなガラス張りのショーウィンドウになっており、色鮮やかなドレスやアクセサリーが飾られている。


「おねえちゃん、おねえちゃん! あのふく、すっごくかわいい!」


 そこには、フリルがふんだんに使われた、柔らかな薄水色のドレスが飾られている。

 アリシアがエデンの手を引っ張りながらお店に近づくと、ガラスに顔を押し付けた。

 エデンも横に並んで、視線を上へと向けながら首を傾げる。


「そうね。私も可愛いと思う。……けど、ここは洋服の、お店?」


「ん? エデン、どうかしたのか?」


 てっきり、冒険者として必要となる実用的な物資。そんなお店に行くのかと、勝手に考えていた。

 エデンはそう伝えると、シエルは顎に指を当てた。


「ふむ。確かに冒険者として活動するには、入念な準備が不可欠だ。もちろんそれも見に行くぞ」


「そうですね。いざという時に、困ってしまうことになりかねませんし。ですけど、物事には優先順位というものがありますしね」


 シエルとクラリスは目線を交わすと、エデンの両肩に、それぞれそっと手を置いた。


「だがな、エデン。よく聞け。ここから先は、我々にとって戦場だ。そんな覚悟では戻ってこれんぞ」


「いい? 獲物を見定めて立ち廻らないと、思わぬ足止めを食うことになるわ」


 あまりに真剣な鬼気迫る面持ちに、エデンの体がぶるっと小さく震えた。


(……知りませんでした。こんな街の真っ只中に、戦場とも呼ばれるような危険な場所があったとは)


 ふと、エデンの思考に、キューレのふざけた顔がよぎる。

 もっと詳細な情報を得ておくべきだっただろうか。

 何しろ、シエルとクラリスからは、並々ならぬ闘志が立ち上っている。

 その時、店の扉から幸せそうな顔をした女性が出てきた。

 その腕には、大きな袋を大切そうに抱えている。あれが、この戦場での戦利品?


「おねえちゃん、どういうこと?」


「……分からないけれど……でも、気を引き締めないと。アリシア。私から絶対に離れないでね」


「ん? うん!」


 エデンが差し出した手を、アリシアが嬉しそうにぎゅっと握りしめる。

 その温かい手をいつもより強めに握り締め、エデンはキッと店の扉を睨みつけた。


「お、エデン。良い目だ! ではこれより、出陣だ!」

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