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115話 観測開始:5年22日目 / B級冒険者の助力

 ゆったりと畑の前に止まった馬車の扉が開き、アリシアが元気良く飛び降りた。

 エデンが続いて降りると、後ろで顔を出した老人に頭を下げた。


「ホブナンさん、今日はありがとうございます」

 

「いや、ええんじゃよ。何やら、楽しそうなことをしとるなと思っていたしのう」

 

「……ダリヤも、ありがとうございます」

 

「……いいのよ。私、今日もあんまりいれないし……」


 楽し気なホブナンの後ろ、どこか気落ちした様子のダリヤに、リリカが励ますように声をかけた。


「お嬢様。致し方ありません。今日はオスカーさんとお勉強の日ですから」

 

「勉学は大切じゃな。それが、将来お嬢様の役に立つじゃろうて」


 ホブナンが楽し気に目を細める隣で、エデンも頷いた時、アリシアがエデンの腕をガシッと掴んだ。


「ねえ、なんか楽しそう!」

 

「ん? そう、ね」


 畑の方からは、子供たちの笑うような声が響いている。

 視線を向けると、フリオがキーシュとモニカ相手に何やら話し込んでいる。

 少し距離を置いた場所では、ガランの太い腕にしがみついた子供が、ぐるぐると振り回されていた。

 それを見て、アリシアが目を輝かせる。


「おー! アリシアも、アリシアもあれやってほしい!」

 

「確かにパパが、似たようなのを……」


 あ、手を離してしまった子が、畑の上を転がっていく。


「……アリシア。止めときましょう。お借りしている洋服、汚してしまうし」

 

「えーっ!?」

 

「そうね。怪我でもしたら大変だわ」


 そんな会話をしながら近づいていくと、こちらに気づいたモニカが笑いながら駆け寄ってきた。


「皆さん、おはようございます」

 

「……おはよう、ございます」


 その姿に、思わずエデンは瞬きをして見つめてしまう。


「モニカさん、綺麗になりましたね」

 

「え? う、うん。クラリスさんがね、お風呂に連れていってくれて」


 昨日までの汚れ切った肌は洗い流され、整った顔立ちが露わになっている。

 服も古着のようだが新しくなり、薄汚れた孤児だった姿ではなくなっていた。

 すると、横からダリヤがひょいと顔を覗き込んだ。


「あら、あなたかわいい顔してるのね」

 

「ええっ!? い、いえ、そんな、あ、ありがとうございます……」

 

「それで、クラリスさんはどちらに? あと、何故フリオさんとガランさんが?」

 

「あ、クラリスさんはお昼の準備してくれるって、一度おうちに……あの人たちは突然来て……遊んで、くれ、てる?」

 

「ははは。まあ、遊びに来たのは確かだけど、それだけじゃないよ」


 見れば、フリオがキーシュを伴って近づいてきた。

 フリオはダリヤに挨拶をすると、ニコニコと笑いながら口を開く。


「回復薬作ろうとしてるんでしょ? 面白そうだからね、見に来たんだけど……この子たちに、文字教えてるんだって?」


 そう言って、キーシュとモニカを手で示す。


「はい。文字が分かれば、レシピを自分で確認することができるので」

 

「ふーん」


 何やら観察するような目をエデンに向けてくると、手を広げてモニカとキーシュの肩を掴んだ。


「じゃあ、僕がこの二人の勉強見てあげるよ。特別にね」

 

「ええっ!?」

 

「え? ぼ、ぼくたち、この人に教えてもらうの?」

 

「はあ……。それは、助かりますが」


 エデンが困惑したようにフリオを見つめるが、彼はニコニコと笑うだけだ。


「報酬などは、とても出せないのですが」

 

「いやあ、そんなのいらないよ。ただ文字教えるだけだし」


 その申し出は、正直とても助かる。今日は今日とて、やることはたくさんあるのだ。


「では、お願いします」

 

「うん。それじゃあ、二人とも行くよー」

 

「えっ、本当に? え、エデンちゃんー」

 

「い、いいのかな?」


 キーシュの腕が肩に回され、そのまま引きずられるように連れていかれてしまう。

 その様を見て、ダリヤは小声でリリカへ囁いた。


「……いいのかしら? ギルドが手を伸ばしてきてるってことよね?」

 

「よろしいのではないでしょうか。優先すべきは子供たちが自立することですし、手が足りていないのも事実です」

 

「……まあ、そうね」


 ダリヤたちの会話をよそに、エデンは畑の上で子供を振り回しているガランたちへと歩を進めた。

 すると、アリシアが我慢できないとばかりに飛び出した。


「ガランさん! アリシアも! アリシアもやって!」


 そう言って手を伸ばすアリシアを見て、ガランが驚いたように回転を止めた。


「お? おお、嬢ちゃんたち、やっと来たか!」

 

「皆さん、おはようございます」


 エデンがそう挨拶をすると、ルークが子供の輪から抜け出してきた。

 彼もこざっぱりとした姿になり、どこか不満そうに口元を尖らせている。


「エデン、もっと早く来いよ」

 

「そんなに遅かったですか?」


 来た時間は、昨日とそんなに変わらないはずだ。


「だってお前が来ないと、仕事始められないだろ?」


 その言葉に、エデンは驚いたように目を見開いた。


「……あなた、意外と真面目なのですね」

 

「あ? そんなんじゃねえけどよ。でも早くやらないと、お前らどっか行っちまうんだろ?」

 

「なるほど。モニカたちに聞きましたか」


 エデンが頷くと、隣にホブナンが立った。


「それでは、儂は午後の準備をしてるからの。何かあれば声をかけてくれ」

 

「はい。お願いします」

 

「ふぉっふぉ、まあ、のんびりやっとるわい」


 そう言って小屋へと向かう彼の背中を見て、ルークが首を傾げた。


「……誰だ、あのジジイ」

 

「ジジイではありません。ホブナンさんです」


 エデンは訂正しつつ、畑へと視線を落とした。

 昨日のルークたちの頑張りで、一角に雑草の除かれた一面が顔を出している。


「午後に、薬草の育て方を教わる方です。あなたも教わるのですから、ジジイなんて言ってはいけません」

 

「へえー。じゃあ、爺さんだな」

 

「……その呼び方も、失礼では?」

 

「まあ、ホブナンは気にしないわ。温厚なジェントルマンだから。でも、敬意を持って接して欲しいわね」


 ダリヤが困り顔で前に出ると、ルークはどこか気まずそうに目を逸らした。


「へいへい。分かりやしたよ」

 

「何よ、不満そうじゃない」

 

「別に、不満なんてねえよ」


 二人の間にどこか微妙な空気が流れる中、それを振り払うかのようにアリシアの笑い声が響いた。

 見れば、ガランに身体を持ち上げられ、グルグルと振り回されている。


「あ、アリシアっ!? 何してるの!?」


 慌てて駆け寄ると、ガランの手がアリシアを離し、勢いのままにアリシアの体が宙を舞った。かと思えば、スタッと見事な着地を決め、自慢げに両手を広げる。


「ふふーん!」

 

「ふふんじゃないわ。危ないでしょ!」


 エデンがアリシアを注意すると、何故か不思議そうに首を傾げている。

 すると、頭上からガランの笑い声が降ってきた。


「ガハハ! 嬢ちゃんなら大丈夫だろ」

 

「……ですが、怪我をしないか心配なのです」

 

「そうか? まあ、それより聞いたぜ。なんか仕事すんだって?」


 その言葉に、エデンは頷くと視線を子供たちに向けた。


「お仕事の前に、確認したいことがあります。皆さんの中で、身体強化が使える方はいますか?」


 まだ幼い子たちだ。望みは薄いかと思っていたが、一人だけ、ルークが手を上げてくれた。


「俺、少しなら使えるけど?」

 

「そうですか。……出来れば、もう一人か二人使えるようになると助かるのですが……」


 付きっ切りで教えているような時間はない。

 すると、ガランの手がエデンの背中を叩いた。


「じゃあ、俺が教えといてやるよ。誰かしら、そのうち使えるようになるだろ」

 

「む……それは、助かります」


 であれば、午前は彼に任せてしまおう。


「それでは、午前中はガランさんに身体強化を教えてもらっていてください。ガランさん、お願いします」

 

「おう、任せとけよ」

 

「ルークは私達と一緒に、こっちです」


 子供たちをガランに任せ、その場を離れる。


「いいかお前たち! 身体強化はな、気合だ!」


 何か聞こえた気がするが、気のせいだと思いたい。

 小屋の扉を開け中に入ると、奥ではフリオの前にモニカとキーシュが座り、真剣な表情で話を聞いていた。

 邪魔をしないように静かに入ると、昨日アリシアが採取してきた月見草の束、そしてすり鉢を持って外に出る。

 食事用に残してくれていたテーブルにそれらを並べ、エデンは口を開いた。


「ではルーク、あなたには薬草をすり潰して頂きます」

 

「お? おう、俺の仕事か!?」


 何故か嬉しそうな彼の前に、エデンは注意するように指を立てた。


「そうです。ですが、いいですか? 質の良い回復薬を作るには、ムラ無くすり潰す必要があります。なので、とても大切な作業です」

 

「お、おう。分かったぜ」

 

「それに、長時間作業するので力もいります」

 

「ああ、それで身体強化が必要なのね?」


 ダリヤが納得したように頷くと、ルークは鼻で笑いながら袖を捲った。


「はっ、やってやるぜ! この草を潰せばいいんだな?」


 そう言って月見草を鉢に放り入れるが、エデンは首を横に降った。


「いえ、まずはどの程度すり潰せばいいか、見本を作ります。なので、まずは鉢を抑えていてください」

 

「あ? そっか。じゃあ、ほい」


 ルークが手に取ったすり棒をエデンへと差し出してくる。それを見て、エデンは再度首を振った。


「いえ、すり潰すのはアリシアにやってもらいます」

 

「ん? アリシアやっていいの!?」

 

「うん。私は今、身体強化使えないから」


 エデンの言葉に、アリシアが目を輝かせて棒を握りしめた。

 その前で、ルークが鉢が動かないよう軽く抑える。


「よし、じゃあとっととやっちまおうぜ」

 

「ルーク、先に言っておきますが……」

 

「ん? なんだ?」


 ルークが顔を上げると、エデンの瞳が同情するように見つめ返してきた。


「死ぬ気で抑えてください。でないと、鉢が飛んで行ってしまうので」

 

「……は?」

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