プロローグ 夜もふける
一日目:夜
蔓延るキメラたちが国中に散らばる中、俺、シンはただ一つの合図を待っていた。そしてつい先程、それが来た所だ。
「おい、タオリィ、だったか?出番だ」
そのタオリィという奴は、それを聞くと荷物から鉢巻を取り出し、頭に巻いた。
「よっしゃ、テイラーの所まで飛ばしてくれや」
「ああ」
キメラへの対策として、俺はここで各所を繋ぐ移動手段であり、“目”でもあった。今日は寝れないだろうな。
入れ違いでテイラーが現れる。これで、ここ本拠地にいるのは眠ってしまったフィラ、まだ待機中でイライラし始めたゼノ、それを見守るクオ含め五人と、研究所からやって来たらしい奴らだけだ。
「お疲れ〜僕は仮眠とって来るね」
「ああ」
俺がわざわざこんな事をしてるのは、勿論作戦の為でもある……が、一つの大きな懸念による所も多かった。
ツーハのあの能力……何だか危うい気がしてならない。今日だって、全力じゃなくても島一つ丸焼きにしてしまった。あの力を何かのミスで暴発させば……ツーハは破滅をもたらした者として末代まで語り継がれる事となってしまう。
あいつは、大人の事情に巻き込まれすぎていると思う。仕事が忙しく構えない父と、何処かへ行きがちな母。強大すぎる力を受け取るには幼すぎる年齢。本人はそれを当たり前と思ったり、ただただ嬉しい事だと受け取っているのだから余計にタチが悪い。
そんな事を考えつつじっとしていると、目の前のローテーブルにココアが置かれる。クオの手だった。
「お疲れ様。ちょっとでも、足しになるかなって。私には代わってあげれないしさ」
「……ありがとう」
ちょっとざらついたココアの味が、俺の思考を少しだけ快方に向かわせた。
「……大丈夫?」
俺のどこを見てそう思われたのだろうか。
「大丈夫だ」
「そっか。じゃあ、ゼノ君の様子を見て来るわね」
クオが去った後、洗面台に行き鏡を見てみる。
そこには、捨てられた子犬のような顔があった。
「……っ」
俺はすぐにリビングに行き、ソファに座る。
あれは一体、俺のどんな感情を外に露見させているのか。俺にも分からない。
強いて言うなら、心配、しているのだろうか。……俺も随分と入れ込んでるな。
「ははっ」
静かに一人笑う。
何処からか、狼の鳴き声が聞こえる。念の為“目”を向けるが、普通の狼だった。この声に、謎の安心感を覚える。やはり、同じ時間を過ごす仲間意識みたいなものが芽生えるのだろうか。
今はただ、夜が深まるばかりだ。




