プロローグ copy
一日目:AM十一時三十分
庭園の様なその場所は管理が行き届いているのに、人の気配が無かった。僕、フィラはさかにゃを地面に下ろしてやる。
「さかにゃ、ここについて何か知ってる?」
「にゃー……ここだけはあんまり来た事にゃかったからにゃあ。でも確か、“所長”の庭だった気が……」
大体予想はついた。僕はさかにゃを抱き抱えて茂みに入り、周囲を警戒した。
段々、一人の妖気が近付いて来る。特別強そうとかでは無かったけれど、何となく分かった。こいつが、この研究所を仕切っている人間なのだと。
「そこにいる事は分かっている。出て来い」
仕方なく、さかにゃを隠して茂みから出る。
「お前は?」
「お前なら分かると思うが?」
「……“所長”か」
「それにしても、まさかこの歳まで正常に生きられるとはな。人工的に人を生み出すという試みは概ね成功と言って良いだろう」
僕が薄々気付いていても考えない様にしていた事を、こうも簡単に告げられてしまった。
「僕に用があるのか?」
「侵入しておいてそれか?まぁ、我が子の里帰りだ、大目に見てやろう」
「僕はお前が親だなんて思って無いし、ただ自分の正体が知りたくて来ただけだ」
「……そう言う所もそっくりだ。良いだろう。ついて来い」
所長はエレベーターを起動させた。僕もそれに乗る。乗っている間ずっと、存在を確かめる様に触れられたのは少し嫌だったけど、あっという間に地下4階に着いた。
研究者たちは所長が現れた事に明らかに動揺し、素早く道を開けてから、僕の存在に気付いて驚いていた。
所長は研究者たちを気にも留めず、僕に話しかける。
「ゼロから作ると言っても、お前はある人間の細胞から作ったんだ。小さいし態度も悪いが、やはりよく似ているな」
「……何の為に?」
「簡単だ。優秀な人間は残して置きたくなるものだろうよ」
「ふぅん」
予想の外を出ない答えばかりで、来る必要なんて無かったんじゃ無いかと思い始めて来た。
「見たいか?お前の母を」
「どっちでも」
所長は迷う事なく入り組んだ通路を歩き、一つのドアを開けた。
……そこには、静かに眠っている女性。黒髪で、青い目。兎ではなく犬らしくて、属性はおそらく水だけど。
「お前は彼女の言わばクローン的な存在だ。まぁ、敢えて色々変えたけどな。お前は唯一の成功例であって、幾度と無く失敗した事も付け加えて置こう」
「彼女は……」
「生きてはいる。そして、彼女こそが」
所長は彼女の髪にそっと指を通す。
「六番……今のスインの実母だ」




