第四部 love
人には、忘れたい記憶というものがあるらしい。
僕で言えば、誰でも言う事を聞いてしまった故に起こった事になるのだろうか。実際、この火傷は……“僕のせい”だ。あの熱さははっきり憶えているし。
目の前にいる、破壊神と呼ばれている人間も、まぁそんな感じなのかなと思った。
僕は多分愛を分かっていない。
誰かの言う事を聞いて、喜ばせる。それが愛の伝え方。それしか分からない。
でも、チビさんは不思議だ。
僕と同じ事をしている筈なのに……どうして、どうして……こんなに羨ましく映るんだろう。
……あるいは、ミサさんの態度からなのか。
俺には、忘れたい記憶があった。最悪だ。謎の能力のせいで、けたたましく頭の中で鳴り響く。あいつの声が。
セナちゃんには、こんな人がいるのだろうか。と、考えたけどやめた。多分、こいつの手は黒く染まってるだろうから。俺と似て非なる様に。
俺は多分愛から目を背けてる。
遠回しに守る。それが愛だと伝わらない様に。
……そういう意味で、チビは変な関係になってしまった。
それを、セナちゃんに気付かされた気がする。
互いの瞳が見つめ合う事、数分。
僕は、気づけば問うていた。
「愛ってなんですか?」
こう返って来た。
「俺の嫌いな言葉だ」
「そうですか」
嘘なのが分かった。
「どけ」
「嫌ですと言ったら?」
「殺す」
「嫌です」
互いの語彙が消えていく。
「そうか」
ミサさんは僕を後ろに転ばせ、上から腕を押さえつけた。後頭部に鈍い痛み。
「これで、セナちゃんは大人しく食われるって訳だ」
「嫌です」
「あ?」
ミサさんが凄む。
「死ぬなと言われたので?」
「は?」
雰囲気に不似合いな素っ頓狂な互いの声が響く。謎の沈黙。それを破るミサさんのため息。
「どっちが良いですか?」
「何だよ、鬱陶しい」
「僕を齧れば……凍りますよ」
「……成程な」
舌打ちが聞こえる。
「どうしますか?」
「……別に、お前を殺してから食えば良いだろ」
「……それは困りますね」
「一旦黙っとけ」
鳩尾に急な圧迫感を感じる。
あまりの痛みと苦しさに悶えていると、離される。
「楽に逝かせる気はねぇよ」
返事も出来なかった。腕に爪を立てられる。
「……っ」
痛みに耐えながら、僕はミサさんの目に息を吹きかける。ミサさんの右目が開かなくなる。
「……良い加減にしろよ」
「……殺されるのは、愛してくれる人が良い……母の最期の言葉です」
「じゃあ、愛してやるから殺させろよ」
「どうやるんですか?」
「……」
ミサさんは、僕を置いて部屋を出た。




