対決、アウスバーグ
「おかしいわね。今のは聞き間違いかしら?」
あたしは腕を組んだまま、目の前に突き出された剣先越しに相手を睨んだ。
「あんたらの王太子を殺したのはあたしだと、そう言ったように聞こえたんだけど?」
「その通りだ。今回の一件は貴殿がいることで成立する。貴殿がいなければ起こり得ない」
「ま、待って下さい!」
カーラが悲鳴に近い声を上げた。
「この方は、リズさんはつい最近この村に入ったのです! 村で起きた戦いにはそもそも参加していません!」
「では、それを証明することは可能か? リズペット・ガーランドが確かにこの数日で村に到着したということを、貴殿ら村民の証言以外で証明することはできるのか?」
「それは……」
「そっちがそれを持ち出すならボクも言わせてもらうけど」
口淀んだカーラに代わって、ノアが口を開いた。
「それなら、リズペットが確かにやったという証拠は出せるのかい? そこまで言い切ったんだ。さぞかし立派な証拠があるのだろう?」
「証拠はない。だが、此度の蛮行はリズペット殿でなければ不可能だ。武装した十数人の部隊を誰一人逃がすことなく殲滅するなどということは、普通の人間には不可能だ」
「それはあくまで状況証拠だ。リズペットならできるというだけで、リズペットがやったという証明にはならない」
「では誰なら、あるいは何なら可能だというのだ? 現に事は起きているではないか」
「それを調査するのがキミの役割なんじゃないのかい?」
「時間がないのだ! こうしている間にも、王国は報復の準備を進めておる!」
「だったら!」
「――もういいわ」
あたしは右手を上げて、尚も食い下がろうとするノアを制した。
「悪いけど、これ以上の対話は無意味よ」
「ほう、では己の罪を認めると?」
「認めるも何も、先に剣を抜いたのはそっちでしょう?」
言い終えると同時に、あたしはテーブルを蹴飛ばした。倒れたテーブルがアウスバーグを襲い、怯んだ隙を見てあたしは剣を抜いた。
「さっきの言葉、そっくりそのままあんたに返すわ。あたしにできるのなら、あんただってできる。あたしの潔白を問う前に、まずあんた自身の潔白を証明するべきなんじゃないかしら?」
「私がガンボイス王太子を殺すだと? 馬鹿な!」
「あたしだって同じよ。あんたのところの見たこともない馬鹿王子が勝手に死んだ罪を被せられて、いい迷惑だわ」
「……王太子への侮辱は許さんぞ?」
「許さないはこっちのセリフよ!」
あたしは倒れたテーブルを飛び越え、剣を振り被って横に払う。アウスバーグは数歩下がりながら大剣を縦に構え、こちらの斬撃を受け止めた。
「リズペット!」
「わかったでしょう!? これがこいつらのやり方なのよ! 自分たちのメンツを盾にして押せば道理の方が引っ込むと思っている!」
「私は平和裏に解決したいだけだ!」
「だったら、あたしじゃなくてあんた自身の命を賭けたらどうなのよ!」
あたしは剣を両手に持ち替え、剣をさらに押し込んだ。ぶつかり合った剣と剣が金属音を響かせると、アウスバーグは舌打ちをして大きく後ろに跳んだ。追撃の手を緩めず、あたしはさらに踏み込む。
「うおおおおお!!」
雄叫びを上げながら、大剣を横に薙ぎ払った。胴を真っ二つにせんと迫る剣戟を、あたしは両手に構えた剣で受け止める。その瞬間、強い衝撃が全身を駆け巡った。直後、ずきりと脇腹が痛み、思わず顔が歪む。
「無茶をするな! キミは――」
「リズさん!」
背後から二人の声が耳に入る。だけど、話し合いで解決する時期は既に終わっているのだ。
お互いに剣を抜いた時点で、あとは決着をつけるしかない。
「我が剣を止めるとは、やるではないか!」
渾身の一撃を防がれた悔しさなど微塵も感じさせずに、アウスバーグはにやりと笑った。
「やはり、私の目に狂いはなかったな!」
「人が黙っていればごちゃごちゃと、うざったいわねっ!」
あたしは受け止めた剣を払うと、相手の懐に踏み込んだ。胴を狙って払われた剣はアウスバーグの鎧に命中し、俄かに顔を歪めさせる。続けざまに繰り出した突きは大剣によって阻まれた。
そこで一旦距離を取り、剣を側頭部に構えた。額に汗が滲むのを感じつつ、両手で構えた剣の切っ先は、相手の心臓に狙いを定めた。
「惜しい。実に惜しいな」
しみじみと、アウスバーグは言った。
「貴殿ほどの実力者をここで葬らなければならないのは、この世界の損失とさえ言える」
「そっちから勝手に仕掛けておいて、よく言うわ」
「今からでも遅くない。剣を置いて投降せぬか? 何とか助命だけは叶うよう陛下を説得しようではないか」
「悪いけど、他人の気まぐれに命を預けるのは趣味じゃないのよね」
「そうか。誠に残念だ。――では、さらばだ」
そう言って、アウスバーグは大剣を下段に構え、こちらを睨み付ける。どうやら、やっとその煩わしい口を閉じる気になったようだ。
次の一撃で、どちらかの口が二度と開かなくなるだろう。
あたしは呼吸を整え、姿勢を低くする。そっちがその気なら、こちらもそれに応じるだけだ。
その後はしばらく睨み合いが続いた。お互いに距離を保ちつつ、相手の懐に飛び込むタイミングを窺う。そこに言葉はなく、あるのは次で決着をつけるという了解のみ。
長らく続いた膠着が今まさにはじけようとした、ちょうどその時だった。
「お前ら! 何してるね!」
脇から大きな声が発せられた。その言葉を、あたしは正面を見据えたまま受け止めた。奇しくも、相手も同じ反応だった。
「あーしの村で勝手な戦いは許さないね! 今すぐ剣を下すね!」
「村長殿。残念だがそれはできない」
あたしたちの間に割り込むように立ちはだかったレミリアに、アウスバーグは淡々とした口調で応じた。
「私は貴殿の村で無用な血が流れるのを防ぎたいのだ。そのために、目の前の犯人を逃すわけにはいかぬ」
「お前はまた勝手なことを言ってるね……!」
「悪いけど、あたしも同感よ。既に剣を抜いてしまった以上、あたしも引き下がれない」
「まったく! どいつもこいつも頑固ね!」
レミリアは不機嫌そうに顔を歪めた。
「理解したならそこをどくがいい! 戦闘のさなかで貴殿を巻き込まない保証ができぬ!」
「やめろと言ってるね! あーしの話を聞くね!」
「話は後でいくらでも聞こう! だが今は――」
アウスバーグの注意がレミリアに逸れている。
今が、チャンスだった。
あたしは剣を構えたまま、前方に駆け出した。あたしの姿を見てアウスバーグも剣を構えて踏み出すものの、少し反応が遅れている。レミリアが何事かを叫んでいるけど、今更関係ない。
直線的に、あたしはアウスバーグに迫った。その線上にはレミリアが立っている。レミリアが吸血鬼だと知らないアウスバーグは、彼女を巻き込むまいと自由に剣を振るえないでいる。小回りの利かない大剣の大きな欠点だった。
あたしはレミリアの影になるように動きながら、両手で突きを繰り出した。鋭く突き出された剣は、レミリアの肩をかすめてアウスバーグの胸を貫く――はずだった。
剣を繰り出した直後、レミリアがあたしの動きに合わせて機敏に動いた。そのせいで、突きの射線上にレミリアの身体が割り込んできた。
もう、止められない。
そう思った直後には、あたしの剣がレミリアの胸を貫いていた。




