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第2章 個人ランクAの指南【4】

 次の依頼の前に腹ごしらえをしなければならない。人間、空腹では本来の力を発揮できない。リーフェットは、それを痛いほど体験した。リーフェットのパーティは壮絶とも言える努力をした。寝食を削ったこともあった。あんな目に遭うのはもう二度と、御免だった。

 オルディンにはリーフェットたち貴族が行くような高級レストランはない。庶民向けの大衆食堂がいくつかあるだけで、リーフェットはなんとも思わなかったが、兄や弟であったら文句を言っていたかもしれない。

 庶民向けの大衆食堂と言っても、料理の味は悪くない。いまのリーフェットには充分すぎるほどだった。

「そういえば、リーフェットさんはどうして勇者パーティに?」

 パンを口に運びながらライカが言った。リーフェットは肉料理をナイフとフォークで丁寧に切りつつ答える。

「お金のためよ。エレスティン子爵家を没落させるために、お金が必要だったの」

「没落のために?」と、ヴェラ。「回避するためでなく?」

「没落したほうが都合がよかったの。領地経営は従兄(いとこ)の家に投げたほうが手っ取り早かったのよ」

「借金をエレスティン家が請け負ったんだよな」

 肉とじゃがいもを口に放り込みながらディランが言う。ディランは幼馴染みであるため、このことをリーフェットから話した。ディランはこう見えても心配性で、貴族のリーフェットがこの辺境の地で暮らしていることも気掛かりではあったようだ。いまはすっかり忘れているようだが。

「ええ。領地経営をゼロに戻すためにね」

 エレスティン子爵領は数年前、死神が招き入れたような悪質な疫病が流行った。それは根深く子爵領に居座り、その治療と研究のために数年を要した。子爵家は借金をし、他領地から知識や知恵を集め、何年もかけて疫病の収束に尽力した。魔王の出現により勇者パーティが招集される直前、ようやく疫病は民のもとを去った。リーフェットは、子爵家の借金をなくすために勇者パーティに志願したのだ。その報酬でエレスティン家が負った借金は清算した。それでもエレスティン家を没落させたのは、エレスティン家が疫病のために多くのものを失ったためだった。父は早いうちから従兄(いとこ)の家に後継ぎを頼み、エレスティン家を解散した。母、兄、リーフェット、弟に余分なものを背負わせないために。

「ま、そんなことはどうでもいいわ。あなたたちは生活費を稼ぐ以前の話。特に個人ランクEなんて話にならないわ」

 小さく息をつくリーフェットに、ヴェラがしょんぼりと肩を落とす。個人ランクはEからSまで存在する。ランクEは駆け出しの冒険者より低いのだ。

「そもそも、なんでEまで降格してしまったのよ」

「……前に所属してたパーティが、規約に違反しちゃって……」

 ヴェラは俯き、消え入りそうな声で言う。冒険者ギルドは様々な規約がある。規約に反した者には厳しい処罰が下される。本来であればランクDから始まるはずの冒険者がランクEに降格してしまったのは、相当な違反だったらしい。

「よくある話ね。まあでも、EからDに戻るのは簡単よ。午後の依頼クエストを完了できれば上がるはずだわ」

「ほっ、本当!?」

「ええ。EからDに上がる条件はそう難しいものではないわ。午後の依頼クエストの実績で充分のはずよ」

 ヴェラは安堵したように微笑む。ランクEの冒険者が所属していれば、パーティランクは上げようがない。ヴェラがランクDに戻ることができれば、パーティランクを上げることが可能になるのだ。

「と言っても、ランクDが話になるわけではないわ。実績を積んでさっさとランクアップしなさい」

「はい……」

 四人は揃って肩を落とす。パーティランクBを目指すためには、まずパーティメンバー全員が少なくともランクCまで上がる必要がある。それでもパーティランクBには程遠いのだが。彼らにはこれから、厳しい鍛錬が待っているのだ。




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