第2章 個人ランクAの指南【3】
グリーンウォンバットの討伐依頼の完了は、爪をひとつずつ集めることで申請できる。十五個の爪を袋に詰め、四人は期待のこもった目をリーフェットに向けた。リーフェットは小さく息をつき、肩をすくめる。
「及第点ね。これくらいで満足しちゃ困るわ。午後はまた別の依頼を受けに行くわよ」
「一日にふたつも依頼を受けるのか!?」
目を丸くするディランに、リーフェットは目を細めた。
「当然でしょ。グリーンウォンバットは下位魔獣の中でも最下位。倒せて当然なのよ」
「うへー……」
ダンが肩を落とす。ライカとヴェラも疲労困憊といった様子である。
「褒めて伸ばすなんて甘い教育はしないわ。わかったら、さっさとギルドに戻る! 私は先に戻って午後の依頼を選んでいるわ。三十分、経っても戻って来なければ、見放すと思いなさい」
リーフェットは吐き捨てるように早口で捲し立て、自分だけに転移魔法をかける。ライカが使えないことは把握済みだが、彼女も遠くないうちに使えるようになる。だが習得するまでのあいだ、リーフェットを頼りにされるわけにはいかないのだ。
冒険者ギルドの前に降り立ち、リーフェットはドレスの裾についた砂埃を払う。彼らがあまりに走り回るものだから、リーフェットにまで砂埃が飛んできた。冒険者の頃は気にしていなかったが、さすがにドレスが汚れるのは不快なものだ。
溜め息を落としながらギルドの扉を開けたリーフェットに、あー、と間延びした声がかけられた。
「リーフェットちゃん、おかえり~」
受付嬢のアンネリカだ。リーフェットがこの町に越して来る前、勇者パーティにいた頃からの知り合いで、こうして親しく声をかけてくれるのだ。
「ディランは絶対にリーフェットちゃんを頼ると思ってたわ~」
アンネリカはのほほんと笑う。ディランのパーティはこの町を拠点にしている。彼らのこともよく知っており、リーフェットがディランの幼馴染みであることはディランから聞いたようだ。
「ええ……せっかくスローライフを送れると思ったのに」
「家督のない人の特権だったのにね~。他の家族はどうしてるの?」
「みんな、自由にやってると思うわ。お父様は細かい事務仕事が残されてるし、お兄様は婿入り先の領地経営をしているでしょうけれど」
「リーフェットちゃんと、お母様と弟くんは自由気まま?」
「ええ。特に私は勇者パーティで頑張った分、手助けはしないわ」
没落後、母から不定期的に手紙が届く。手紙には母と弟が辺境で隠居生活を楽しんでいること、父は事務仕事が終わらないと嘆いていること、兄が義父とのギクシャクした関係で思い悩んでいることが書かれていた。だが、母は少し話を大袈裟にする癖がある。おそらく全員、平穏にやっていることだろう。
「魔王討伐の報酬で領地を立て直せたのはよかったね~」
「そうね。それでもお釣りが来たのだから、みんな、満足な生活を送れているはずよ」
「でも、報酬のために勇者パーティに加入して本当に魔王を討伐しちゃったんだからすごいよね~」
アンネリカはなんでもないことのように笑っているが、リーフェットが所属していた勇者パーティは、名実ともに勇者である。国の要望に応え、魔王を討伐した。ただそれだけのことだが、リーフェットは充分な報酬を受け取った。リーフェットはそれで満足だった。
そのとき、入り口のドアが開くと同時に四人が転がり込んで来た。倒れたまま激しく呼吸を整えるのは、ディランたち四人だった。
「遅い!」
リーフェットがカッとヒールを打ち鳴らすと、ひい、と四人は息を呑む。
「さっさと昼食を済ませるわよ。午後は別の依頼を受けるわ」
「はっ、はい~!」
四人はすでに、リーフェットの言うことに逆らう言葉、それどころか気力すら失っている。それが信用の証だとリーフェットは取るが、果たして本当にそうか、それはこれからの彼らの働きで証明してもらうほかないだろう。




