変質者にご注意!
「・・・ライ様ぁ」
「!」
後ろからぎゅっと抱きついて背中に頬を擦り付けてくる。
そのままその場にぺたん、と座り込んでパープルはライの足に絡み付くように抱き込んだ。
ライの膝に頭を乗せて甘えている。
「どうした・・・?」
「・・・駄目ですか?お仕事の邪魔ですか?」
「いや、構わないが」
「・・・やったぁ」
さらさらの髪を撫でて甘えて来るままに甘やかしてやればパープルが見上げてきて、ライに向かって腕を伸ばしてきた。
そして・・・。
「抱っこ」
「・・・はいはい」
久々に甘えモード全開なパープルに頬を緩めつつ苦笑して抱き上げて膝の上に乗せると、そのまま抱きついてこてん、とライの肩にもたれた。
首筋で大きく息を吸ってまたこてん、と凭れて来る。
「・・・ライ様の匂いがする」
「当たり前だろう?」
「・・・この匂い好き」
「・・・そうか」
ごほ・・・と咳払いをしつつにやけそうになる顔をなんとか誤魔化すが必要なかった様子。
パープルはぼーっとしてライに擦り付いて甘えている。
パープルの頭に顔を載せてみるが反応なし。
ただ擦り寄って甘えて来る。
・・・可愛い。可愛いのだが。
「・・・何かあったのか?」
「・・・」
「ん?」
「・・・う~」
ぎゅう・・・と抱きついて、うーうー言うばかりで何も答えない。
甘えたくなっただけと言う可能性もある。
時々こうして甘えて来ることがあるから。
とにかく言いたくなるまで待ったほうがいいか、と甘えるパープルを甘やかし続けた。
+++++++++++++
「はかしぇ~!」
「うおっ!なんだ?どうした、ちびっ子」
後ろから突然タックルして抱き着いてきたブルーの頭を鷲掴みがしがしと揺する。
いつものようにからかい半分にちびっ子などと呼んでみる。
するとじわぁ・・・と目じりに涙を溜めたので博士は焦った。
「ちびっ子じゃねぇ~!!うあーん!!」
「な、ど、どうした!?な、泣くなよ~。泣くのはベッドの中だけにしとけって」
「うあーんっ!博士のおやじぃぃぃぃ!!馬鹿ヤロー!」
「だーっ!ごめんって。な?泣きやめ。どうしたんだよお前らしくない」
「知るかぼけぇ~!」と博士に抱きしめながら泣くブルーは小刻みに震えていて、明らかにいつものブルーではなかった。
「あ、ちょっと鼻かむなよ?ぉわっ!涎まで垂らすな!ほらほら泣き止んで鼻止めて口閉じろ」
「ぅえ・・・」
「・・何があった?」
「は、はかしぇ・・・あ、あのね。あのねぇ~!」
「おう。ぽろっと言っちまえ」
えぐえぐとしながらちょとづつ語っていくブルーの言葉に博士は耳を傾ける。
「あ、あのねぇ・・・ゆさゆさで、どきってして、びくってなって・・・それで後ろ見たらしゅたたたでね?ぎゃーってなってそれでねぇ・・・!」
「・・・もういい。何も言うな」
ぷるぷるして話すブルーをぎゅっと抱きしめて話せないように胸に押し付ける。
涙で服が濡れようが、涎が付こうが、鼻水でべたべたになろうが知ったこっちゃない。
とにかくブルーの口を塞ぎたかった。
だって・・・。
(・・・まっっったく、意味わかんねー!!)
これ以上話されたら余計に訳がわからなくなる。
取り合えず怖いことがあったことだけは分かった。
確かピンクとパープルと一緒に出かけていたはずだ。
(後で聞きにいくか)
そう、思って。
ブルーのぐしゃぐしゃの顔を見て、ぷっと吹き出す。
「ひでぇ顔だなぁ・・・。おもしれー」
「なぁ!ひどいんだぞ!」
「ブルーちゃん本当に20歳?俺、たまに犯罪者の気分なんだけど」
「な、ななななんなぁ!!失礼なっ!!確かに博士、ロリコン!?って思うことはあるけど!!」
「え!?何それ、酷い!!・・・ならライちゃんだってロリコンじゃんよっ!」
「ライさんはライさんだからそんなことないよ?」
「なんでだよっ!!・・・・差別だ、差別・・・ライちゃんは良くて俺は駄目って、酷すぎる・・・同い年なのに・・・」
がくっと項垂れて嘘泣きをする博士を今度はブルーがよしよし、と慰めている。
その顔は同情が浮かんでおりもう泣いていなかった。
そんなブルーにがばっと抱きつく。
「ブルーちゃぁーん!なーぐーさーめーてー!」
「しょうがないですねぇ」
優位に立って少し偉そうにふんぞり返るブルーを見て博士はブルーに分からないように苦笑する。
何はともあれブルーの震えは止まっているし、泣き止みもした。
明日には恐怖ではなく怒りに変わっているはずだ。
泣いた顔より怒った顔の方がいい。
「・・・泣かすのは俺だけで良いんだよ」
「?何かいいましたか??」
「いんや。それよりまったりしに行こーぜ」
「わきゃ!」
軽々とブルーを抱えて。
博士はブルーを部屋に連行した。
+++++++++++++++++++
「何で助けに来てくれなかったの!?こ、怖かったんだからぁ・・・」
「・・・うん、ごめん」
泣きそうな顔で強がっているピンクをレッドは痛ましげな顔で見つめた。
ピンクとブルーとパープルと。
3人は最近夜中に出かける。何でもダイエットだと言って。
まったくその必要はないと思うのだが、乙女と言うのは理解し難い。
まぁ、3人だし3人ともそれぞれ、何だかんだで気が強いので大丈夫かと高を括っていた。
いつも大丈夫だし、と油断していた。
「私達を見てにやって笑って、追いかけてきたのぉ!!気持ち悪かったよぉぉ~!」
「・・・うん」
夜中、いつも歩いている道に今日は1人の男が居たらしい。
その男が、3人を見て・・・まぁ、シコっていたのだ。
それを見つけてしまったブルーとピンクが余りのことにその男を見て、目が合ってしまった。
そしてにやり、と笑った。
気づかないフリをして通り過ぎようとしたのだが、追いかけてきた。
突然ダッシュしだしたピンクとブルーにパープルもやっと男の存在に気づき、3人は死にもの狂いで逃げてきた、と言うわけだ。
怖すぎたのか、ピンクはぷりぷりと怒って恐怖を打ち消そうとしている。
泣いてしまいそうなのを怒ることで我慢しているのだ。
「馬鹿、馬鹿馬鹿ばかばかばかぁ・・・」
「うん、ごめん」
それでも我慢できなかったのかピンクが涙を滲ませたのでレッドはピンクを抱き寄せた。
よしよし、と柔らかな肢体を慰めるように揺すればピンクは声を殺して泣いていた。
(・・・許せない)
腹が立つ。
ピンクをこんなにも怖がらせて、泣かせた。
(・・・殺す)
ピンクを優しく抱きしめているのに、レッドの顔はその視線だけで人を殺せてしまいそうなほど怖かった。
++++++++++++
泣きつかれて眠ってしまったピンクをベッドに寝かせ、ふわふわの頭を撫でながらレッドは硬質な声を出す。
「さっきからなにこそこそ見てるんだ?・・・レット」
「やっぱりばれてた?」
声を掻け扉から入って来るのはレッドの弟、レット。
笑っているがレッドと同じく目が笑っていない。
「・・・兄貴、やる?」
「当たり前だろ・・・今どれぐらいだせる?」
「必要な数だけ。そんなもん搾り出させる」
「そうか。じゃあお前は西エリア頼む」
「それだけで良いの?あとの3つは?」
「北は俺が行くとして後は博士とライさんに頼む。・・・まぁ、頼むまでも無いと思うけど」
レッドはやっとピンクから目を離し、ぎぃ・・・と開いた扉に目を向ける。
そこに居たのは博士とライ。
2人共、かなり切れていた。
その3日後から、街には変質者、犯罪者が激減する。
街のあちこちに血の痕のようなものがところどころ付いていたのはきっと気のせいだろう・・・。
++++++++++++++++++++
「さーっすがライ様!素敵すぎる、かっこよすぎるぅ!だーい好きっ!!」
「・・・それが本人の前で言えたら良いのにねぇ~」
ピンクの突っ込みにパープルがぼんっと茹で上がった。
ここは城の裏側。ライの私有地でキキの遊び場として使われている土地だ。
池や遊具まであり、公園のよう。
池を1周するだけでも2kmはあり、いつも歩くコースより景色も良いし楽しい。
そして何より・・・。
「キキー!キ、キキ?」
「にゃー!!可愛いんだぞっ!!1個欲しい~!!」
ここはキキの遊び場所。
もちろんキキが大量にいるわけで。
逆に言えばキキしかいない。
私有地で塀で囲まれているので誰かが侵入してくる心配もいらない。
ブルーは一緒に歩いて「何してるの?」と言わんばかりに3人を観察するキキたちを追いかけている。
茶色のふわふわな毛並み、癒されるような和やかなまったりとした表情。
小さくて軽くて人懐っこい。可愛い、キキ。
「それにしてもさすがライさんだね!危ないからうちの土地でしなさい。ってこーやって眉間に皺寄せちゃってさぁ・・・愛されてますなぁ~パープルさん」
「う、うう・・・それを言えばピンクだって!家の総動員で・・お兄ちゃんだけじゃなくておにぃまで動くなんて・・・」
「??何言っているの?」
「なんでもない」と慌てて答えるパープルをピンクは不思議そうに眺めた。
「・・・そう言えばこの3日間皆居なかったね?」
「え!?あ、あぁ・・・うん、そうだね?」
「・・・パープルも時々居ないし」
「う~ん」
「教えてよ~。何してるの?」
「う~ん・・・実家でちょっと・・・色々問題がありまして。一応秘密にしなきゃいけないからね。私が言っていいことでもないし」
「あ~・・・家かぁ」
パープルが親と仲がとてつもなく悪いことを知っているピンクは聞くのをやめた。
正確には父親と、なのだが。
父親から離れるためにわざわざ離れて暮らしているのだ。
それにレッドが付き合って、博士が面白がって。
今では皆で暮らしている。
レッドから聞く限り、父親とパープルの確執は物凄いらしい。
わざわざ思い出させるのも酷だろう。
「それにしても・・・」
「うん、いいね・・・」
キキー!と面白がって付いて来るキキを眺めながら3人はほわほわした。
+++++++++++++
「ねーねー、ライちゃんあそこ本当に安全なわけ?確かに塀はあるけど完璧なわけじゃないじゃん?誰かが根性で乗り越えてきたりとか・・・」
「大丈夫だ。・・・キキが居るからな」
そう、キキが。
じつはキキ、見た目に反して物凄く力が強く、それで居て俊敏。
もしキキに襲われたら人間などひとたまりも無い。
「あの3人は襲わないように言いつけてあるから大丈夫だ」
「はー・・・そんなに進化したの、あいつら。始めはちょーっと猿の遺伝子弄くって、大量発生しちゃったからライちゃんに押し付けただけだったのに・・・」
「・・・ああ、そうだったな」
ひくひくと頬を引きつらせながら昔のことに腹を立てるライをにやにや眺めつつ、「まぁ、ライちゃんがそう言うなら安心か」とその場にごろん、と寝転がる博士を見てライは眉間に皺を寄せる。
「・・・帰れ。いつまで居る気だ」
「えー・・・良いじゃん、別に。畳気持ち良いんだもん」
「帰れ」
「だーめ。あの3人つれて帰るから、今日。・・・じゃないとパープルちゃんがまた帰って来なさそうだしぃ~」
「!」
にやにやとライを見つめる博士はまさにおやじ。ライはかっと赤くなった。
「・・・一応俺、保護者だからね。親御さんによろしく言われてるわけよ。なのに連続外泊はちょっとねぇ~。知ってるでしょ?パープルちゃんのお家が厳しいの」
「・・・・わかっている」
「何度も門前払いされているからな」と呟くライは不機嫌そうに鼻に皺を寄せた。
そんなライを博士はにやにやと見続けるが、実はそんなことどうでもよかった。
「飯、がなぁ・・・」
「?」
「いやいや何でもないよ!」
博士の呟きに訝しがるライを誤魔化しながら、ここ数日、パープルの居ない基地のご飯を思い出す。
誰が作ってもそれぞれ美味いのだが、作るまでが問題なのだ。
皆「面倒くさい」と言って作ろうとしない。
何だかんだで面倒見の良いパープルが居ないと、誰かが言わないと誰も作ろうとしないわけだ。
しかも。
味が濃い。
皆は若いから良いかもしれないが中年に片足を突っ込んだ身としては薄味の方が助かる。
ライにあわせて作っているパープルの料理は健康によさ気なのである。
「とにかく、つれて帰るから」
「・・・わかった」
言えば、3人がキキと遊んでいる楽しげな声が響いてきて、2人は頬を緩めた。
は~い!
ブルーちゃんが描いてくれた絵・・・と言うか4コマ?を載せてみました!
思ってた載せ方と違うのですが
ちょっと進化した私