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世界最強の元一般人――異世界ラノベの主人公に憧れた俺、最強でも現実は甘くなかった  作者: ITIRiN
第7章:王の顔、そして一人の男

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第83話:甘い裁き

それから少しだけ雑談をした後、三人が仕事に戻るため訓練場を出て行った。

――その瞬間、自分でも分かるほど顔が歪んだ。


「はぁ……はぁ……はぁ、ぐっ―――⁉」


「……いっつも思うんだけどよ。確か師匠って坊主の魔法を使って治療してるんだろ? ならリアーヌなんかとは比べ物にならないほどのスピードで治せそうなのに、なんでこんなに時間が掛かるんだ?」


「確かに性能だけで言えば、今のわらわが使っておる回復魔法の方が圧倒的に上じゃ。じゃが、それを専門にしておるリアーヌと違って、こっちは専門ではないからのう。

他の魔法ならまだしも、治療関係となると慎重にならざるを得ん。どうしても時間が掛かるんじゃよ。……まあ、さっきの馬鹿共にしたような“簡単な治療”なら話は別じゃが」


おかげでこっちは長時間、痛みに耐えなきゃいけないんだけどな。


「だからといって、こんな常人がやったら頭がおかしくなって廃人コース確定の模擬戦をリアーヌに見せるわけにもいかない。しょうがない、と。

あいつらは今回の見学で、一体どこまで理解したのかねぇ」


「まあ最初の方は、傷を完全に治してやっても記憶が残っておるせいで毎日廃人状態になっておったからのう。

その状態でムラマサを振り回された時などは、動きが全く予測できんせいで無傷で取り押さえるのが結構面倒じゃったわ」


「あ~、そんなこともあったな。人間って壊れると、ここまで無茶苦茶な動きをしたり化け物みたいな叫び声を出すんだなって思って、怖くなったのを覚えてるわ」


「今はこうやって大人しくしててくれるまでに成長したがの」


そう言いながらティアは、優しい顔で汗だくになっていた額をハンカチで拭き、前髪を整え始めた。


「はぁ……なんでアベルが俺達の……はぁ、はぁ……模擬戦について知っ……うぅ……てるんだよ……」


「お前、よくそんな状態でさっきまで普通に喋ってたな。師匠とこれを始めてから、まだ二週間ちょっとしか経ってないっていうのに。凄い根性だことで」


こいつ、どこまで知ってやがるんだ?


「わらわ達がその日の盗賊狩りを終えた後、こっそりここに来て模擬戦をしておったのは知っておる。……というより、最初の方は毎日見学しておったぞ。

王族用の観覧席なら、闘技場から見えぬようにもできるしの」


「なるほど……だからあんなヤクザみたいなことを自分の部下に、はぁ……してたのか……」


「ここにはアベルしかおらんのじゃから、苦しいならもう喋らずに大人しくしとれ。なにかあれば、わらわがお主の代わりに喋ってやるわい」


初めてティアの心が読める魔法が便利だと思ったわ。

正直今の状態で喋るのは結構体力を使うから助かる。


「そういえばずっと気になってたんだけどよ。坊主って戦闘時は耳が聞こえなくなるはずなのに、どうやって師匠と会話してるんだ?」


「あれは、わざと口元をこやつに見えるように喋ってやって、それを読唇魔法で読み取っておるんじゃよ。

まあ、これをやるには戦闘中ということで複数の魔法を併用しながら使わなければならんし、何よりどちらか片方にだけ集中しておっては駄目じゃから、実戦ではまだまだ使い物にならんがの」


使い物どうこうの前に、俺に口元を見せるためだけに敵に背中を向けるとか、舐めプ以外のなんでもないだろ。お前なら余裕なんだろうけど。


「そもそもそんなことをせんでも、わらわならお主に合わせて動けるし。模擬戦でアドバイスをしてやる時以外は関係ないがの」


それもそうか。……疲れたから寝る。


「確かに疲れもあるのじゃろうが、痛みのせいで意識を保っておるのがギリギリなだけじゃろうて。なぜいつも正直に言わず、カッコつけるかのう」


うるせえ、ほっとけ………。


* * *


ティアの言う通り、眠りにつく前は痛みによる影響もあった。

だが朝早くから釣りに行かされた疲れに、リアと色々した分の疲れ、さらに模擬戦の疲れも乗って――起きたのは夜ご飯の少し前だった。


そのため急いで家に帰り、みんなで夜ご飯を食べた後、俺とティアは再び男子寮の食堂に来ていた。


アベルはどうしたかって?

あいつなら今頃リビングで子供達と、見たことない量の酢飯を混ぜてるよ。ちなみに魔法で俺が時間を止めているので、冷めることも腐ることもない。安心である。


「え~と……今度は全員いるな。……んじゃ、突然だけど俺からお知らせがありま~す。

まず副団長はリサに決めたから、よろしく~」


「これは完全に疲れておるな。リアーヌと楽しんでから帰ってきたことを知らんかったとはいえ、ちと無理させすぎたかのう」


「はい、隣のロリ婆がなにか言っていますが無視して話を進めていきますよ~。

ということで次は皆さんお待ちかね。宗司陛下が侮辱された――侮辱してた奴(合計24名)の“処罰”についてで~す。パチパチパチ~」


あー、駄目だこれ。完全に疲れててテンションがおかしくなってる。

家に帰る時は気を付けないと。てか明日の段取りはみんなに伝えてあるし、ちらし寿司の運搬は玄関にある転移魔法を使えばいいだけだから、俺は昼過ぎに起きよう。そうしよう。


「あのソウジ様、この状況で拍手ができる方は中々いないと思いますわよ」


「この状況でこやつに意見できる者も中々おらんと思うがの。……あと、お主の隣で小さくじゃが拍手しておる者が一人おるぞ」


「あわわわわわ、もうこの二人と一緒にいたら僕の心臓いくつあっても足らないよ~」


「あっははははは、お前らホント面白いな。

……ということで、今後俺に何か言いたいことがある場合は陰でグチグチ言ってないで、ユリーみたいに直接言うこと。

直接が嫌ならアベル・ティア・リサの三人に相談するか、玄関に意見箱と専用の紙を置いておくからそれでどうぞ。匿名で俺に話が伝わるから」


「どうやらこやつはユリーとミリーの二人を気に入っておるようじゃし、この二人に言っても大丈夫じゃと思うぞ。

ああ、勿論女子としてではなく人としてじゃから、狙っておった者達は安心してよいぞ」


実際に狙ってる奴がいるのかは知らないけど、少なくとも女の子三人は一切興味なしって感じだな。可哀想に。


「んで、ちょっと話はズレたけど今度こそ処罰についての話な」


そう言い終えた後。

どことは言わないけど“音楽室”って名前の部屋がありそうな建物にお邪魔して、無断でお借りしてきたスネアドラムとスティックを収納ボックスから出し――


ドゥルルルルル……ドン。


「明日は騎士団員全員でちらし寿司を配ること。場所は訓練場を使用。来る人達は子連れの親子とお年寄りだから、いつも以上に気を使うように。

開始時間は朝の九時から夕方の五時まで。ただし無くなり次第終了とする。

仕事がある人もいると思うけど、そこら辺は明日までに自分達でシフトを組むなりしてなんとかしろ。

――これをちゃんとこなしたら、今回の件は不問とする。以上」


ちなみに、なぜ子連れの親子とお年寄りのみに絞っているかというと。

基本的には街の飲食店に協力をお願いしているが、物珍しさで混むことは目に見えている。そんなところにそういった人達を行かせるのは危険だろうと考えたからだ。

同じ理由で孤児院にいる子達の分は、直接アリス達が持って行くことになっている。


また飲食店でちらし寿司を受け取るには、必ず一人一品なにか注文しなければいけないので協力するメリットはちゃんとあるし、ルールを守らない奴は問答無用で国外へと強制転移されるように設定済みである。


「他にもなにか言っておくことがあったのではないのかの?

別にわらわは自業自得だとしか思わんし、これだけ甘い処罰で済んだのじゃから、これ以上お主がフォローしてやる必要はないと思うがの」


「ん? ああ、忘れてた。

今回の件は“そこの四人だけが悪い”みたいに思ってる人がいるかもしれないけど、元々俺に不満があればアベルに言ってくれってお願いしたのはこっちだし。

伝え方が悪かっただけで、別にそれ以外は何も問題なかった。だから……余計な揉め事は起こすなよ」


この前ミナに「部下に優しいのもいいが、甘やかし過ぎるのは国王として駄目だ」と言われたので、最後の部分だけ少し殺気を込めて言ってみると――なぜか異常に怯え出す奴が多数現れた。


「やり過ぎじゃアホおぅ。相手を脅したいだけの時は、ちゃんと力量を測ってから殺気を出せと教えたじゃろ」


「ちゃんと測ったぞ。そこの三人で」


そう言いながら俺はユリー達三人を指さすと、ティアは呆れながら、


「こやつらはこの騎士団の中ではトップクラスの実力じゃから全く参考にならん。

……その実力を見込んだからこそミナが……なんでもないのじゃ」


「あっそ。もう面倒臭いからなんでもいいわ。帰ろうぜ」


ティアが言いかけた言葉は気になる。だが正直、もう帰って寝たい。

俺はティアの返事を待たずに玄関へ向かい始めた。


するとユリーが後ろをついてきたので、この子も女子寮に帰るのかなくらいに考えていると――外に出た瞬間、


「あの、ソウジ様」


「ん、なに?」


「今回の件ですが、あんなに甘い処罰で本当によろしいんですの?」


いつの間にか俺の隣にいたティアが、いかにも“少し付き合ってやれ”みたいな顔をしてる。

……答えてやるか。


「元々俺は気にしてなかったんだし、別にいいよ。あと理由はさっき言った通りな」


「皆さん勘違いしているようですけど、そもそも国王というのは戦場の前線に赴き戦果を上げることが仕事ではなく、自国をより良いものにするのが仕事です。

つまりソウジ様が、あのような過酷すぎる模擬戦を行う必要はないはずですわ」


「そうだな。

でも俺は勇者召喚ではないとはいえ異世界から来た人間で、みんなの想像を絶するほどの力を持っている。

そして動機はどうであれ、その力を使ってこの国の人々に希望を与えてしまった。

だから俺は二週間掛けてどうにか人間を殺せるようになって帰ってきたし、みんなの期待を裏切らないよう今も努力し続けている。

……ただそれだけだ」


そう言うとユリーは納得したらしく、硬かった表情がほころぶ。


「こんな素敵な方が馬鹿にされたとあれば、ティア様がお怒りになるのも分かりますし。ミナ様達が貴方のことを好きになるわけですわ」


「なにこれ、今俺は口説かれてんのか?」


「確かにソウジ様は殿方としてもかなり素敵な方ですが、私としてはこの国の王としての貴方にお仕えしたいという気持ちが強すぎて、恋愛感情にはならなさそうですわ」


「別にこやつはそんな大層な男ではないぞ。

まあ折角貴族という鎖から解放されたのじゃし、これを機会に自由に恋愛してみるのもよいと思うがの。

何やらそれを他国の貴族共に邪魔させぬように済む案を、既に用意しておるようじゃし」


また勝手に人の心を読んだな……と思ったけど、これに関しては治療中に考えたことだからしょうがないか。


「まだ詳細については言えないけど、守ってやるのは変わらないから何かあったら言えよ。

あとティアは、その案のことを無暗に広めるなよ。これに関してはバレたら二度と使えない諸刃の剣だからな」


「じゃが、ミナ達三人には教えておいた方が良いのではないかの?

口では気にしないと言っておっても、実際は不安でしょうがないじゃろうしのう」


それもそうだな、と思いつつ。

俺達はユリーと別れ、みんなが待っている家へと向かった。

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