第82話:副団長という役割
「さて、君達三人に残ってもらったのは、お茶会のためじゃなくて――ちょっと話し合ってほしいことがある」
「なんだそれ? 俺はなにも聞いてないぞ」
「まだティア以外には言ってないんだから当たり前だろうが。この脳筋」
というのもアベルは基本、事務仕事はほとんどやらず、体を動かす役目ばかりだ。まあ一日の半分を自由に過ごしているティアに比べればマシだけど。
「失礼な奴じゃのう。一日の殆どをお主と一緒に行動してやっておるどころか、時間が合えばお昼も作ってやっておろうに」
「それはここでお前に膝枕されたまま寝落ちした日だけな。あとはいつも傍にいたり、いなかったりだろ」
「なんじゃ、実は寂しかったのかの? 少なくとも今日は、お主が起きるまでこうしててやる。安心してよいぞ」
「誰がいつそんなこと言ったよ。勝手に人の気持ちを捏造するな。それより話の続きだ」
そう言うとアベルは「俺達のこと、ちゃんと覚えてたのか?」みたいな顔をしながら言った。
「んで、話ってなんだよ。お前がほぼ毎日、師匠に膝枕されてることの口止めか? この三人は仕事の関係もあって姫様達と結構仲がいいからな。ぶっははははは」
「どうせティアは俺のことを弟か子供くらいにしか思ってない。これがバレたところで別に何にも言われねえよ。その証拠にリアに『こいつと二週間毎日同じベッドで寝てた』ってバレても、そっち方面は何も言われなかったし」
「ふ~ん……。じゃあなんの話なんだよ」
納得いってないような顔が少し気になるが……まっ、いいか。
「今月から騎士団に新しい人が何人か入るかもしれないのは、お前も知ってるだろ? だからそろそろ副団長を決めようと思ってな。三人の中から誰かがなってくれないかな~、と」
「能力的には誰がなっても問題はないけど、警備部のこいつらは基本、戦場には連れていく気はないんだが。そんなのを副団長にしてもな」
「戦場での副団長はティアがいるから問題ねえ。それに俺の狙いは戦場じゃなくて、女の子が副団長としていることで女性側の意見を言いやすくすることだ。部署は関係ない。必要なのは役割だ」
「なるほどね~。でも警備部の奴が副団長だと納得いかない奴も出てくるんじゃねえか? 今はあれだけど、今後は女で実戦部隊に入る奴もいるかもしれないんだし」
「そうそう、言い忘れておったがの。こやつら三人は、戦場だろうとどこだろうと連れていくから問題ないぞ」
「ああ゛⁉ そんなの聞いてな……うっ、ヴッヘェ―――」
痛ってえぇ。
(部下の前では絶対に弱っておるところを見せるな。そう教えたじゃろ。そのままもう少し我慢しておれ)
「そんな三人揃って心配そうな顔をするでない。ちとこの馬鹿が治療中じゃというのに大声を出しおったから、傷口が開いただけじゃ」
「……はぁ、…はぁ、はぁ……。おい、三人を戦場に連れていくって、どういうことだよ?」
「どういうこともなにも、こやつら三人は騎士としてもかなり優秀じゃから、というだけじゃ」
「あ~、もうそれでいいよ。んで、誰かいないか?」
「はいはいは~い! 僕はリサがいいと思うな」
「私もリサさんを推薦したいと思います」
「えっ? えっ⁉ なんで私⁉」
……押し付けって感じでもなさそうだけど……。
「ふむ、わらわもリサでよいと思うぞ」
「まあ普段はこんなんでも、やる時は結構やるし、いいんじゃないか」
毎日騎士団の教育をしているティアと、団長のアベルがそこまで言うか。
「もし駄目だったら俺達の誰かに相談してくれればいい。だから、とりあえず副団長になってみないか、リサ」
「……陛下がそう言うのでしたら、やって…みようかな?」
「なんで疑問形? というか僕達がリサを推薦した時は、あんなに嫌そうな顔だったのに、今は満更でもなさそうだし」
「リサさんの大好きなソウジ様ご本人からお願いされたのですから、仕方ありませんわね」
そう言われたリサは凄い勢いで顔を赤くし、両手を胸の前で振りながら否定し始めた。落ち着くまで放っておこうかと思った、その瞬間――
(言っておくが、リサの好きはloveじゃのうてlikeじゃから勘違いするでないぞ)
(分かってる。上司として嫌われてなければ、それでいい)
てかユリーの口調、お嬢様口調なんだけど。実はどこかの貴族とか言うなよ。
(あれほど騎士団全員分の資料に目を通しておけと言ったじゃろうに。ユリーはこの国の元お嬢様じゃ。親の方針と自分の考えが合わなかった挙句、破門という形で騎士団に放り込まれたようじゃがの)
(もしかして、ユリーの親って……)
(二人ともお主が殺したの。本人的には感謝しておるようじゃが)
(親と揉めた原因は? それに元お嬢様が騎士団で仕事してて大丈夫なのか? 国民に嫌われてたりしないよな?)
(揉めた原因は王族や貴族の国民に対する態度じゃ。例に漏れずユリーの親も、多くの犠牲を出して甘い蜜を吸っておった。それが気に食わんかったのだろう。「自分達の手で屑共を排除し、新しい国を作るべきじゃ」と何度も言ううちに……という感じらしいぞ)
ふ~ん。意外と真面な奴もいたんだな。騎士団に飛ばされた意味は分からんけど。
(わらわが面倒を見るまでは、本当にこやつら騎士団の人間かと疑う程のレベルじゃった。もし戦争でも起こしておれば、間違いなく全滅しておったぞ。まあ元団長や一部の者達は結構使えるがの。そこの三人とか)
(邪魔な存在が他国で脅威になるより、見える範囲且つ、一番死ぬ可能性の高い場所に送って安心、ってわけか。頭いいな)
(残念ながらユリーの実力が高過ぎて、お主の期待しておるような悲劇的展開はなかったようじゃがの……冗談じゃ。そんなに怖い顔をするでない)
(国民との関係は? 一時期は貴族として良い生活してたんだ。簡単には納得しないだろ)
(これに関しては本人の日頃の行いじゃな。お主がこの国を乗っ取る前から国民の味方として動いておった。評判だけなら今のお主より高いようじゃぞ)
(そのうち俺が国王なのが気に食わない連中が、ユリー派とか組んでデモをやりださないよな? こっちの後ろ盾はマリノ王国だけだぞ)
「マリノ王国が後ろ盾になってくださるだけでも十分過ぎますわよ。それに普通の国民なら、今のソウジ様に文句を言うなどあり得ませんし……私の支持者というか、仲良くさせていただいている方々は普通の国民だけですので、元からユリー派などというものはありませんわ」
……えっ?
「まったく。わらわ達の念話を聞かせてやる代わりに黙っておれと言ったじゃろうに」
「奥様とは仲良くさせていただいておりますので、よくソウジ様のことを聞いてはおりましたが……本当にここまでお優しい方だとは思いませんでした。そんな方を不安にさせるのは申し訳ないと思い……つい」
ミリーはまだリサで遊んでる。念話を繋げていたのはユリーだけか。まあ最悪アベルにも聞かれてた可能性はあるが、それはどうでもいい。問題は――
「おい待て。まずは誰が奥様か教えろ。あと今すぐ呼び方をミナに修正しろ」
「教えろと言っておきながら、誰か分かっておられるじゃないですか。それに好きな殿方の奥様になるのは女の子全員の夢ですわよ。そして私達には絶対に叶えることのできなかった夢」
「その理論でいくと、奥様と呼ばなきゃいけないのがあと二人いる。今後俺はどうやって誰の話か判断すりゃーいいんだ?」
他の国は知らないが、俺のお嫁さんに関しては他国の姫でもメイドでも元姫でも全員正妻だ。側室だの愛人だのと言わせる気はない。
「お主は相変わらず考え方が変わっておるのう。一夫多妻で正妻と側室の二つがあるのは嫌がらせでもなんでもないし、承知で嫁入りする者も珍しくないというのに」
「これはミナさんの負けですわね。まああの方は仕方なく、という感じでしたが」
気になったので、暇つぶしも兼ねて話を聞くと――
ミナ・リア・セリアの三人とユリーで雑談していた時、「なんて呼べばいいのか」という話になったらしい。普通ならミナを奥様、残り二人は様付け。だが俺が許すはずがない、ということで賭けが行われていた。
ユリーがミナを奥様と呼んだ時、俺が何も言わなければそのまま通す。代わりに、訂正したら全員名前呼びにする。そういう賭けだ。
「賭けの内容だけ聞いたらミナが嫌な奴みたいに聞こえるな」
「ミナさんがそんな方ではないということはソウジ様が一番分かってらっしゃるでしょうけど、これをネタに意地悪したりしてはいけませんわよ」
「はいはい」
そんな話をしているうちに他の二人も落ち着いたようなので話を戻し、結局リサが副団長になることで纏まった。
それは騎士団が一歩、変わった瞬間でもあった。




