第81話:模擬戦の、その後
それから俺とティアによる鍔迫り合い状態が長く続くわけもなく、普通に力負けしそうになったところで、
(これってティアに掛けてる重力魔法を解けばいんじゃね?)
と思った俺は、それを実行した。
――瞬間。
重りから解放されたティアは、自分でも驚く程動きが速くなってしまい、そこからはあまり記憶がない。
気付いたら、いつもの光景があった。
「おぅえ゛、げほ、ごほ。………痛い」
「今治しておる途中じゃから、少しくらい我慢せい。男じゃろうて」
「吐血した後に『治療中』とか言われても説得力ないし。……ずっと気になってんだけどさ、この庭ってどこの庭? あと俺らの下に敷いてある絨毯は、毎回どこから出してんの?」
というのも、模擬戦の後のティアは必ず訓練場の機能を使って綺麗な庭を出現させるのだ。
そして芝生の下に高そうな絨毯を敷き、何故かその上に女の子座りをした大人状態のティアに膝枕されながら治療をされる。
あと大人状態にならなくとも治療魔法は使えるはずなのに、毎回姿を変えるのも謎である。
またこの姿の時のティアの服装は黒と白でデザインされているフード付きのゴスロリなのだが、上着の丈が異常に長いせいでワンピースの様にも見えるが、ただの裾である。
まあ別にここまではいい。問題は、その裾の下だ。
リアル420歳のくせしてミニスカに生足ロングブーツ。膝枕されると嫌でも感触が伝わってくる。……回復中に余計な神経使わせんな。
「この絨毯は庭と一緒に出しておるものじゃから、わらわが別で出し入れしておるわけではないぞ」
「あっそ。……いつもは俺とお前だけだけど、今日は人が多いからパンツ見られるかもしれないぞ」
「残念ながら、お主の頭でちゃんと見えんようになっておるんじゃな~、これが。わらわはガードが堅いからのう」
どこら辺が堅いんだよ。そんな格好で男を膝枕してる時点で、襲われても文句を言えないぞ。
「このことがあの三人にバレたら、自分もミニスカ履くとか言い出しかねないんだけど。そうなったらどうしてくれんだよ」
「別にそれはそれで、お主にとっては得じゃろうて。お主の世界の女子は皆、スカートを短くするのが好きなようじゃしのう」
「人の婚約者をその辺の軽い女と一緒にしてんじゃねえよ。……だいたい、そんなことしなくてもあの三人は無限対数倍可愛いっつうの」
「人の婚約者をその辺の軽い女と一緒にしてんじゃねえよ。……だいたい、そんなことしなくてもあの三人は無限対数倍可愛いっつうの」
たまに必要以上に短くしてる奴とかいるけどな。……まあ、俺はそういうのより普通に可愛い方が好きだ。
「その理論でいくと、わらわは無限対数を超える可愛さということになるのう」
「………お茶」
「今飲み物を飲んだら傷口が開くから駄目じゃ。……あと、女子というのは直接言葉で言ってもらう方が好きな生き物なんじゃぞ」
チッ。勝手に人の心を読んでるじゃねえぞ、婆が。
「そういうのは俺じゃなく、お前のビンテージを貰ってくれる人に言ってもらえよ。何百年後になるか知らねえけど」
「ふふっ、そうじゃのう」
ん? いつもなら怒るのに……珍しいこともあるもんだな。
などと考えていると、今日は朝が早かったせいもあり段々と眠くなってきた。
このまま寝ようかと思った瞬間――
「あっ、あの!」
「………なに?」
半分寝かかっていたところで声を掛けられたことにより少しイラッときた俺は、若干キツめにそう返した。
声の主は怯えながら、
「さっきは陛下のことを馬鹿にしてすいませんでした!」
そう言ってきたのは、お荷物&模擬戦前の俺に謝罪をさせた男だった。
そしてそれに続いて他の三人も、それぞれ謝罪の言葉を述べた後に頭を下げてきた。
「ああ、別にいいよ。最初っから気にしてなかったし。
それに戦闘経験がみんなと比べて全然なのは勿論のこと、お荷物っていうのも事実だし。この話は終わりだ。持ち場に戻れ」」
「ですが……」
……これ以上は要らん。俺はもう気にしていない。
「はあ……全員とは言わないけど、お前ら以外にも俺のことを内心では馬鹿にしてた奴はいるだろうに、そいつらは黙ってこの状況を見ている。
それに比べて四人はちゃんと謝りに来た。だから許す。それで終わりだ。分かったな?」
「まあこやつらは声に出してしもうたから、仕方なく……という可能性もあり得るのじゃが。……今回はそれもなさそうじゃの」
「ああ゛? どういう意味だよ?」
そう言うとティアは、寝顔を人に見られるのが嫌いな俺のことを気遣ってみんなに背中を向けている状態だったのを――わざわざ下に敷いてある絨毯ごと魔法で180度回転させてきた。
仕方なく目の前を見てみると……そこには20人程が倒れていた。
どんだけぶん殴ったんだよ、こいつ。叩き起こすどころか逆に永眠させてんじゃねえか。
「言っておくが、あれはわらわがやったわけではないからのう。ほれ、よく見てみい」
「ん~~~、いつからいたの、あいつ。てか怒ってるところなんて初めて見たぞ。……ねえ、ちょっと四人で呼んできてよ」
正直このまま近くにいられるのが嫌だった俺は、丁度いいと思い例の四人にそうお願いした。
凄く嫌そうな顔をしながらも歩いていったので、どうなるのかな~と観察していたら――
……普通に殴る蹴るの制裁を受け、血を吐いて倒れたあとも、容赦なく数発追撃されていた。
……どこの組だよ。
「今回の騒動の元凶じゃというのに、あの程度で許してもらえてよかったのう。わらわなら対象者全員を殺しておったぞ」
「……早く後ろ向いてくんね。別にあれくらいで騎士団の方針に文句を言う気はないけど、俺の教育方針とは異なる。普通に気分が悪い」
「お主が毎日わらわとの模擬戦でやられておることに比べれば、全然大したことないがの。
その証拠に介抱しておる者達は全員、動揺や同情をするどころか……少々視線が冷たい気がするしのう。
……後ろを向きなおすのも面倒じゃし、倒れておる者は全員男子寮にでも送り返そうかの」
たく。こういうことが原因で虐めが始まったりするんだぞ。誰が後でフォローすると思ってんだ。
「この件がミナ達にバレると更に面倒臭くなるから、それをやるなら責任持ってお前が治療してからにしろ。
あとお前はいつから団長から組長になったんだ? アベル」
「ヤクザも組長によっては、俺達騎士団みたいな仕事をしてる所もあるらしいぞ、坊主」
「それは昔の話だ馬鹿が。……それで、なんでここにいるんだよ」
「俺がエメに魚を届けに行こうとしたら、城の門番がみんな揃ってどこかに向かい始めたから事情を聴いたらよ。
師匠から緊急招集が掛かったって言われてな。気になって来てみたら……って感じだな」
「どうやって『来てみたら』で、自分の部下を24人も半殺しにすることになるんだよ。
こんな頭のぶっ飛んだ模擬戦をしてることを知ってるのは俺とティア、そして今日初めて見せた騎士団の連中だけのはずなんだが。
何も知らないはずのお前が、あそこまで怒る理由が全く分からん」
というかティアはまだ怒ってるのかよ。チッ、仕方ねえな。
そう思いながら自分で回復魔法をかけてやろうとした瞬間、ティアが不満そうな顔をしながら倒れてる奴ら全員を速攻で治療し、
「ほれ、いつまでも寝ておらんでさっさと仕事に戻らんか‼
ソウジは今日みたいに半殺しにされた日でも、それ以上に酷い目にあった日じゃろうと、誰にもそれを悟られんようにしながら仕事をしたり、城におる者達の相手をしておるぞ!」
「うるせえからデカい声出すな。あと女の子達には残ってもらえ。ちょっと用がある」
* * *
ティアの怒鳴り声を聞いた騎士団の連中は急いで自分の持ち場へと戻り、今訓練場に残っているのは俺とティアとアベル、そして残ってもらった騎士団の女の子三人が少し離れた所にいる状態となった。
「君達はちょっとそこで待っててね。え~と、あったあった。
おいアベル、ちょっとこのビニールシート敷いてくんね。あとこれはひざ掛けが三人分な」
「なんだ? 今から姫様達以外の女とお茶会でも始めるのか?」
「そんなんだからモテないんだよ、ば~か。あとティアは自分の手で目隠し」
「お主、いつの間にそんな気遣いを覚えたんじゃ? 初めて会った時とは大違いじゃのう」
ああ、ミナとリアにだけ何も買ってこなくて機嫌を損ねたやつね。
………ふぁ~。ティアの手が温かくてマジで寝そう。
「………あと十秒遅ければ寝れたのに」
「わらわがそう簡単に寝かせるわけなかろう。ほれ、お主の前で三人中二人が緊張しながら待っておるぞ」
「あ、あの……私達なにかしましたか?」
「別に僕は陛下のことを馬鹿になんかしてないよ! ホントだよ‼」
「先ほどの馬鹿共を殺せというご命令でしたら、すぐにでも実行出来ますわよ」
一人は本当にそんなんで騎士団の仕事をやっていけているのか? と聞きたくなるほど優しそうな女の子。
二人目は狐の獣人で、僕っ子。
そして三人目は……この子、ちょっと危なくない? 別にミナが選んだんだから問題はないんだろうけど。
「アベルとティアの態度を見てれば、三人が俺を馬鹿にしてなかったのは分かるから安心しろ。あと絶対に殺すなよ、ユリー」
「あれ? ってきり僕達の名前なんて知らないと思ってたんだけど。ユリーが特別なだけ?」
「うちに女の子は三人しかいないんだから、名前くらい馬鹿でも覚えられる。
それともミリーは、俺のことを馬鹿だと思ってたのか?」
そんな意地悪を言うとミリーは、凄い勢いで首と両手を横にブンブン振り出した。
………面白い。
「それで、何故この三人を残したんじゃ? 本当にお茶会でも始めるつもりかの」
なわけねえだろ。




