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世界最強の元一般人――異世界ラノベの主人公に憧れた俺、最強でも現実は甘くなかった  作者: ITIRiN
第7章:王の顔、そして一人の男

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第80話:影での努力

※本作の一部エピソードはショート動画としても公開しています。

今はミナ達がいないとはいえ、後で他の女の子に自分の着ていた服を持たせたことがバレて怒られるのが嫌なので、そのままアレクに持たせることにした。


さて、これにはちゃんと理由がある。というのも俺は結構パーソナルスペース関係には五月蠅い人間なので、仲が良くない奴に自分の服を持たせるなんてことは絶対と言っていいほどしないのだ。


つまりここであの子達に持ってもらっていたことがバレたら、「いつの間にそこまで仲良くなったのだ」と問い詰められるのが目に見える。

じゃあ収納ボックスに仕舞えよと思う人もいるだろうが、これに関してはマジでそれの存在自体を忘れていた。

しかも、アレクが妙に大切そうに持ってくれているから今更「やっぱりいい」とも言えない。……変な誤解を生むのも御免だ。


「そうじゃ。ついでに装着者の動体視力を上げる眼鏡も人数分出してやってたもう。アベルクラスならば不要じゃろうが、こやつらではどうせわらわ達の動きを追いきれんからのう」


「お前は一々人を煽らないと気が済まないのか? だいたい俺がお荷物なのは事実なんだから、いい加減許してやれよ」


「それはお主が今のところ、わらわとしか合わせられぬからじゃろうて」


これ以上反応すると俺もみんなのことを煽ってることになりそうなので無視して、右手にムラマサを召喚させる。

そしてティアの許可を取らず、勝手にカウントを開始させた。


俺達二人の間で10・9・8と数字を刻み始めたのだが、どうやらまだ言いたいことがあったらしい。


「模擬戦が始まる前に言っておくがのう。二週間の修行終了時のソウジでは、そこの馬鹿四人を助けられる程の反応速度はなかったからの。精々たらない頭で、この言葉の意味を考えながら見学せい」


3・2・1・ピー‼


スタートの合図と同時に自分の意識を完全に戦闘モードに移行させ、何も聞こえなくなった瞬間――ティアが凄いスピードで一直線に突っ込んできた。


「おいおい、いつもは俺が動くまで待ってくれてるのにどうしたんだよ」


そんな軽口を叩いておいてなんだが、こっちに余裕なんて一切ない。


ティアの背後へと転移したと同時に後ろから斬りかかったのだが、咄嗟にティアが右手を木刀ごと背中に回し攻撃を防いだ。

そして流れるかのように右足で蹴りを入れようとしてきたので、それを避けるために右へ逃げるように飛ぶ。


――と、後ろに向かっていた筈の足が、いつの間にか俺の腹へ向かってきていた。


その為ムラマサで受け止めようとしたのだが、後ろを向いたまま左の親指と薬指でそれを掴まれており――


「ッチ、なんだよそのバカ力は。……やば、間に合わねえ」


そう考えた俺は一旦ムラマサを引っこ抜くのを諦め、左手でティアの蹴りを受け止めた。

が、咄嗟の判断だったため威力を殺しきれず、義手は完全に根元ごと吹き飛ばされた。


そしてこっちに自分の口元が見えるよう、わざと振り返り。


『抑えられた刀を一旦諦めて左手で受けることに切り替えたのは良かったのじゃが、魔法を使えば完全に威力を殺すことも出来たはずじゃぞ』


「はいはい。次はそこまで反応出来るように頑張りますよ」


そう言いながら俺はティアに掴まれ続けているムラマサを一旦武器庫へと戻し、代わりにジャッジメントを召喚しながら距離を取った。


そしてSランク冒険者だろうと圧死させられる程の重力魔法を思い浮かべる。

空中に四つの黒い球が現れたため、先ほどの反省を活かして――今回は転移魔法で直接それをティアの周りに送り込んだ。


すると黒い球はそのまま、ティアの体に吸収されていったので。


「お前は少しそこでジッとしてろ」


『ふむ、これは重力魔法かの? 随分と体が重くなったのう』


おいおい。Sランク冒険者レベルであっても対処できずに押し潰されて即死する、って頭の中に情報が送られてきてるのになんでそんなに余裕そうなんだよ。


……今はその場でジャンプとかして自分の体の重さを確かめてるけど、これはすぐに慣れてまた突っ込んでくるやつだぞ。


そう思った俺は即座にジャッジメントとムラマサを入れ替え、今度はこっちから一直線に突っ込んだ。

兎に角スピードにものを言わせてムラマサを振るい続ける。


だが――


『重力魔法のせいで動きが鈍っておる者に対してスピード勝負を挑んでくるのは悪くない判断じゃが、それじゃあまだまだ遅いの~う。ほれほれほれ』


「こっちだってまだスピードを上げられるっつうの。後で泣いて後悔するなよ」


見た感じまだ自分の体の重さに慣れてないせいか防戦一方だし、今日こそは俺の攻撃を当ててやる。

……いや、反撃される前に潰す!


そんなことを考えながら更にスピードを上げ続けると、一瞬だが確かにティアは顔をしかめた。


ここでティアへの警戒をほんの一瞬だけ削り、刀を振るう右手に意識を集中させれば、あと一段階は速くなる。

だが――それは賭けだ。


――いや。今までティアが俺相手に顔をしかめるなんてことは一回もなかった。

つまり、これはまたとないチャンスだ!


そう思った俺はすぐにムラマサを振るうことだけに集中し、自分でも驚くほどのスピードに達した瞬間――


ティアはニッと笑った。

それから、これまでとは比べ物にならないほどの殺気を醸し出しながら。


『その油断がいつかお主を殺すことになるのじゃぞ。まあわらわは優しいから殺しはせんけどの』


その言葉と同時に、今までは防御にのみ使っていた木刀を――軽~い一撃でも放つかのように一振りし、ムラマサに当ててきた。


かと思えば、その威力はこちらの想像を遥かに越えるもので。


「っ⁉ ――――――ガハッ‼ なんだあの威力は、どう考えてもあいつだけの力だけじゃ―――⁉」


壁まで吹っ飛ばされたせいで肋骨が何本か折れていたり、血や胃液がせり上がってきているのはもう慣れているので別にいい。

問題は、今までティアが“本気”だと思っていた攻撃が、まるで遊びに思えるほど――さっきの一撃は次元が違ったことだ。


そして何故なのかをこの場で考え始めたのが失敗だった。

――というより、気付くのが遅すぎた。


ティアが使える魔法だけではあり得ない速度で、空から木刀を下に向けて降りてきていたからだ。

そしてその木刀は、膝立ち状態だった俺の右太ももと脹脛を串刺しにした。


『こんな時に考え事とは余裕よの~』


「――――――‼」


『痛みによる叫び声を我慢しおったのと、この状況でもわらわから一切目を離さず反撃のチャンスを覗っておるのは合格じゃが……わらわがその様な隙を見せると思うかの?』


ロリ状態のこいつの攻撃手段は木刀のみ。

となれば、このまま手前にスライドさせて俺の足を裂くのが有効な手だが――流石にそれはやらない、だろう。


しかし、このままの状態でいるわけにはいかない。

いさせてくれるとも思えない。つっても自力でこれを抜くのは無理だしな。


そう結論を出した俺はこの場から一番離れた場所に転移し、右足が使い物にならないことを考慮して飛行魔法で浮きながらも、警戒心を一切解かずに索敵する。


「ティアは……ん? うわ、本当に気絶してる奴らを殴って起こしてやがる。でもこれで少し―――⁉」


『これで少しは時間が稼げるとでも思ったかの? 残念ながらその考えは甘いんじゃな~。あの馬鹿共を起こすのに一秒も掛からんわ』


「ぐっ、なんなんだよ……さっきからいきなり攻撃力とスピードが極端に上がりやがって。まだ俺の重力魔法は効いてるはずだよな?」


そんな質問をしている間も鍔迫り合いは続いているのだが、ティアの握っている木刀が重すぎて今にも押し潰されそうである。


『確かに効いておるぞ。そのお陰で今日はいつもより早く終わりそうじゃがの。もちろんお主の負けで』


「はあ? どういう意―――⁉」


分かった!

今こいつは重力魔法によって体や木刀が重くなっている代わりに、その分一発一発の攻撃力も上がっている――というより、ティアがそれを上手く使いこなしてるんだ。


『どうやら分かったようじゃのう。ならば今回みたいなことが二度と起こらぬよう、今後は新しく覚えた魔法はどういったメリット・デメリットがあるのか検証なりなんなりをするんじゃな』


クソッ。確かに油断してたとはいえ、どうやったらあんなスピードで落下出来るのかと思ったらそういうことかよ。


「お前以外の誰が、重力を数十倍にされても木刀を振り回したり、それを活かして高いところから超スピードで降りてくるってんだよ」


『そもそも魔法でいくらわらわの体を重くしようとも、お主の防御魔法でダメージは一切食らわんのじゃから、ただただ攻撃力とスピードが上がるだけじゃろうて』


……ってことは、重さに慣れていない振りも、動きが鈍ったように見せていたのも――全部演技か。

……完全に嵌められた。

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