第79話:理想と現実
再び全員が自分の椅子へと座ったのを確認したティアは、ようやく構えていた木刀を下ろし、
「まず、この四人以外にも勘違いしておる者がいると思うから言っておくがのう……。確かにこやつは徹夜でゲームをした次の日の午前中は寝ておる。だが、それはなにも仕事がおぬし等に比べて少なかったり、サボっておるわけではない。それどころか、こやつには週休二日どころか一日もないことの方が多いからの」
「えっ、でも陛下が『うちでは余程のことがない限り全員、週休二日を実現できるように調節する』って……」
ん~と、この人は警備担当か。
……そういえばリーダーがいない。というか、よくよく見たら騎士団の人が全員いるわけじゃないのか。女の子とか一人もいないし……って、ここは男子寮なんだから当たり前か。
「お主、いくらこの国が狭いからと言っても、たかだか120人しかおらん騎士団で本当に週休二日が実現出来ると思っておったのかの? そんなことが無理なのはサルでも分かることじゃぞ」
「でっ、ですが騎士団の者は全員、ちゃんと休みを貰えているのですが」
「それは、お主がいつも仕事をしておる部屋にある機器類のお陰で見回りの兵を極端に減らすことが出来るからじゃ」
「……なるほど! 確かにあれは犯罪等を事前に探知して、こちらに教えてくれますし。転移魔法ですぐに現場へと急行できますからね」
「分かっておると思うが、それらを作ったのは全てこやつじゃからの。それと、こやつは仕事以外にも書庫に篭って勉強したり、毎日城に住んでおる者達全員と……それも相手によって接し方をちゃんと変えながら、コミュニケーションをとったりしておるんじゃぞ」
「でも、あそこに住んでる方達と毎日遊んだり、お喋り出来るなんて楽しそうじゃないですか。ティア様を含めて女性陣はみんな可愛かったり、お綺麗ですし。団長とかセレスさんは面白いですし……。なんなら羨ましいぐらいですよ」
……出たな。
ハーレムは男の夢とか、王様は一切気を遣わないで済んで楽そうとか思ってるやつ。なんなら訓練場のシステムを使って疑似体験でもさせてやろうか?
「じゃあお主には、毎日子供達と一緒に遊んだ後に自分の部下の愚痴や悩みを“王という立場”を気にさせずに聞き出したり、時にはそれらを自然に労うことが出来るかの? それに加えて、三人もの婚約者を平等に――しかもそれぞれが求めておることをしてやれるのかの?」
それに関しては出来るだけやるようにはしてるけど、別に自信を持って「出来てる」なんて言えるほどのものじゃない。だからあんまり言わないでほしいんだけど。
「あの~、陛下って誰かと婚約なされたのですか?」
「……すまぬ、ソウジ。もしかして婚約の件はまだ言ったら拙かったかの?」
「お前が俺の名前を呼ぶなんて珍しいな。別にこいつらになら言っても大丈夫だろ。ただ、普通に国家機密だから――誰か一人でも情報を外に流したらどうなるかは知らないけど」
というのも今回の婚約相手、ミナ・マリノに関しては隣国の――それもこの世界でもトップクラスに大きい国のお姫様が、うちの国に嫁ぎにくるということは普通に凄いことなのだ。
つまり俺達としては、これを最大限に活かさない手はない。だから建国宣言でサプライズ発表する予定である。
うちの情報部によると国民間でのミナの立ち位置は、こちらが正式に発表してないこともあり「マリノ王国の代表として、人手不足な俺達を手伝っている」というのが一番有力な意見らしい。
「ちっ、ちなみにどなたとご婚約を?」
「ミナとリアーヌとセリア。……おい、今更耳を塞いだりこの部屋から逃げようたって遅いからな。お前らはもう聞いちまったんだよ」
「その悪そうな笑み浮かべながら、こやつらを脅すのはやめい。それに3月7日まで黙っておればいいだけなんじゃから、おぬし等もそんな怖がるでない。……ただ、少しの間酒を飲むのは止めておいた方がよいかもの」
あ~あ、可哀想に。
この感じだと役職発表時に言ったミナとリアの役職は一時的なものか、冗談だとでも思ってたんだろうな。
ちょっと前に情報部にも同じことを言ったら、別に驚かれなかったどころか「やっぱり」みたいな顔をされたから、全員なんとなく察してるのかと思ったんだけど……違ったのか。
「んで、説教はもう終わりでいいのか? そこの四人をどうするのかは知らねえけど」
「そんなわけなかろう。今すぐ騎士団全員を訓練場に集合させい」
「えっ? ですがそんなことをしたら、入国審査をしている者や警備室にいる者までもがいなくなってしまいますよ。流石にそれは拙いのでは」
そんな当然の疑問を一人が問いかけると、ティアは俺の方を見てきた。
了解、という意味を込めて一度だけ頷く。
「言っておくがのう。こやつは警備等を自動化する魔法も地球の最新技術も使えるし、今まさにそれの準備をやっておる。この意味が分かるかの?」
「「「「「………………」」」」」
「なら『自分達はいらないじゃないか』と思った者は、今すぐこの仕事を辞めてもらって構わんぞ。ここより快適な暮らしができて、給料も良い職場なんてないと思うがのう」
「「「「「………………」」」」」
この空気感。
……今の沈黙で、何人かは同じことを考えたのが分かった。まあ俺に対して不満を抱えてる奴は、この四人以外にもいるだろうし……しょうがないか。
「警備関係の自動化と連絡は済んだけど、訓練場で何をするんだ?」
「なにって、今から今日の分の模擬戦をするに決まっておろう。この四人以外にも内心ではお主のことを馬鹿にしておる者がいそうじゃしのう」
そう言いながら再びティアが殺気混じりの怒りを醸し出しているのを見て、ようやくこいつが何に怒っていたのかを理解した。
* * *
それから俺達は訓練場へと転移し、他の人達が集まるのを待ちながら見学者用のシールドなどを用意しようとすると――
「こやつらには出来るだけ近くで見せとうから、観客席でのうてそこら辺にシールドを張ってたもう。あと気の遮断機能は全部OFFじゃ」
「そこら辺って、完全に場内じゃねえかよ。しかも気の遮断機能は全部無しって……ティアがみんなにどの程度の指導をしてるかは知らねえけど、何人かはお前の殺気で気絶するんじゃねえか?」
「そんなお荷物がいたとしても、わらわが無理やり叩き起こして見学の続きをさせるから安心せい」
なんも安心できないし、それは流石にやり過ぎだろ……。
そう思って何とかしてティアを納得させようとしたのだが、どうやら俺の発言が気に食わなかったらしい。例のお荷物発言をした男が、
「失礼ですが陛下。私達は貴方より何年も前から騎士として戦ってきましたし、なにより先ほどのティア様に殺されかけた時でさえ一瞬固まってしまっただけですぐに復活できました。それに、あれは完全に油断していただけであって――最初から分かっていれば、あれくらい余裕です」
「……たかだか二週間ちょいしかティアとの修行や模擬戦で経験を積んでいない私より、皆さんの方が経験や場数を踏んでいるでしょうし。確かに今の発言は私が失礼でしたね。すいませんでした」
一旦間を置いてから騎士団のみんなに向かって頭を下げる。
特に誰も何も言ってこなかったので、俺は再び設定の続きを行った。
少しすると、
「これで全員揃ったのう。このような状況になった説明は面倒じゃから、各自知っておる者に聞いてたもう。……ということでじゃ、これからわらわとソウジが毎日やっておる模擬戦の見学会を始めるのじゃが……」
こうしてティアによるルール説明が始まった。要約すると――
・武器に関しては、ティアは木刀のみ(超強化済みなので壊れることはない)
・俺は何でもありだが、殺傷性は全てゼロ
・防御魔法に関しては、俺は何も無し
・ティアはフル装備状態(服に付与されている防御魔法)
・ティアが生死に関わるような攻撃をしようとしても、訓練場の設定で自動的にシールドが出るようになっているので安心していい
・だが死ななければなんでもあり(別にあとで治せばいいだけだし)
・決着はティアが納得いくまで
いつも通りのルールとはいえ、改めて聞くと無茶苦茶だな。
「おっ、君は入国審査担当のアレクじゃん。丁度いいや、ちょっとこのコートとチョッキを持っててくれね?」
「えっ⁉ あの、私の名前をご存じだったのですか?」
「まあこの前『友達感覚でいい』って言ったし。友達の名前くらい覚えるのは当たり前だろ」
という理由も確かにあるのだが、この子はアベルと同じ獣人であり、うちの騎士団にはそれが少ないため名前と顔を一致させやすいのだ。
ちなみに特別種族による差別などはないらしいが、一応そこら辺もミナが面接で確認済みらしいので、騎士団内ではお互い仲が良いようだ。
「あっ、ありがとうございます。……ですが~、このお洋服に関しては彼女達の誰かに渡した方がよいかと」
「彼女達って……情報部の子達だよな? なんで?」
「なんじゃ、お主知らんのか? あの者達は女子ということもあって、お主の世界でいうセクハラが酷かったようでのう。それから助けられたことで、陛下のことを恩人と思っておるようじゃぞ。残念ながら恩人という気持ちが強すぎて、恋愛感情は一切ないようじゃがのう」
こいつ、ワザと最後だけ陛下呼びしたな。
メッチャにやけてるし。




