第78話:お荷物は誰だ
俺とリアは日本の家の玄関から異世界の方の家の玄関へと転移し、そのままリビングに向かうと――
「あらあら……手まで繋いじゃって、随分とお楽しみだったみたいね」
「お帰りなさいませ旦那様、リアーヌちゃん」
どうやら二人でお茶をしていたらしいセリアとエメさんは、俺達が部屋に入ってきたのを見てそう言ってきた。
つかなんでセリアは俺達がお楽しみだったことを知ってるんだよ。こっちの家でやってたならまだしも、今日は日本の方の家だぞ。しかもあっちの家にはまだヘアゴムとかまでは用意してないから、リアの髪の毛はそのままなのに。
「そんなのリアの幸せそうな顔を見ればすぐに分かるわよ。今ミナが留守で良かったわね。あの子がここにいたら、間違いなく日本の家に引き返すことになってたわよ」
「この前もだけどサラッと人の心読むの止めてくんない? そんなのティアだけで十分だっつうの」
「お嬢様がというより、旦那様が結構分かりやすいのだと思いますよ。まあ今回に関しては旦那様よりリアーヌちゃんの方が分かりやすいですが。何かいいことでもあったの?」
前々から思ってたけど、この二人って仲がいいというか、年の離れた姉妹感があるよな。別に悪いことじゃないからいいんだけど。
「その、初めてご主人様と二人っきりでお台所に立たせていただきまして……普段私がお台所に立っている時は、どうしてもメイドとしてという意識が強くなってしまいますが、今日は普通の夫婦感があって凄く幸せでした」
「なら最初っから洗い終わった食器はこっちに渡せよ。……あと、まだ結婚してないんだからせめて恋人にしろ」
「ソウジの言い方はあれだけど、私達みたいなのはいきなりどこぞの貴族の息子と結婚……なんてこともあり得たのだし、そう考えれば普通の女の子みたいに恋人関係を楽しんでから夫婦になるというのも悪くないかもしれないわね」
まあ俺も含めて立場的にどうしても普通の恋人関係をとはいかないけど、この子達がそれを望むのなら出来る限りのことはやるつもりではあるのだが……普通の恋人関係ってなに? というかまだ一回もデートに連れて行ったこともないな。
………取り敢えず仕事関係が一段落するまでは我慢してもらおう。
「そういえばみんなはどこに行ったんだ? 俺達以外は全員外に出てるみたいだけど」
「まずセレス様に関してですが、あの方は今子供達と散歩に出ておりますので、恐らく町にいるかと。そして次にミナ様とマイカちゃんですが、こちらのお二人は明日の件で協力をお願いしていた飲食店を回って最終確認を行っています。そして最後にティア様なのですが……」
ここで何故か苦笑いを浮かべながら言葉を詰まらせたエメさんに代わり、セリアが同じような顔をしながら言う。
「なんか騎士団の方で問題……と言う程のものではないけど、ティアの逆鱗に触れたみたいでお説教中よ。そのせいで見回りの人手が足りなくなって、セレスが散歩のついでに見回りをしてたりするんだけど……子供達はそんなこと知らないでしょうし、なんかいつもより色んな所に連れてってくれるな、くらいにしか思ってないでしょうね」
「おいおい、あいつを怒らせるって相当だぞ。一体なにをやらかしたんだ?」
「それは私も知らないわ。気になるなら男子寮に行ってみたら?」
……一応行ってみるか。
* * *
そう思った俺はリアの髪の毛を結んでやった後、一人で騎士団の男子寮に転移し、玄関のドアを開けて中に入ってみると、確かに大勢の気配は感じられ、
「え~と、みんながいるのは食堂か? ティアが怒る時は大抵静かに怒るから、こういう時不便なんだよな~」
そんな独り言を呟きながら食堂のドアを開けると――
「……なんじゃ、もう帰ってきておったのか」
「たまたま混合魚とかいうのがいてな。ついさっき帰ってきたんだけど……そしたらお前が怒ってるっていうから様子を見に来たんだよ。んで、原因は?」
「お主がこの寮に用意したゲームじゃ、ゲーム」
んなゲームは悪と決めつけてる老害みたいに言わんでも……と思ったのだが、どうやらこの話にはまだ続きがあったようで、
「今朝の訓練でこやつらの動きがいつもと比べて明らかに悪いから、どういうわけか問い詰めたら『実は徹夜でゲームをしてて寝不足なんです……』などとふざけたことを抜かしおったんじゃ」
「あ~、なるほどね。ちなみにどんなゲームをしてたんだ?」
ちょっとした興味心から近くにいた奴に聞いてみると、かなり恐縮しながら、
「バ、バトロワ系です」
「ってことはFPSか。あれって一回ハマるとついやり続けちゃうんだよな。特に十位以内で死んだりすると、一位になるまで止められないし」
「なにがバトロワじゃ。そんなにバトロワがやりたいのなら、今すぐ訓練場でやらせてやるぞ。リアルバトロワをな」
こいつかなり怒ってるな。だって目がガチだもん。あれは本気で今からリアルバトロワを開催する気だぞ。
「まあまあ落ち着けって。それに徹夜でゲームなら俺もよくやってるけど、別にここまで怒ったことねえじゃん。流石に片方にだけ甘いのは不平等だろ」
「お主とこやつらでは仕事の内容や一日のスケジュールが違うのじゃから、それは当たり前じゃろうて。それにお主はその分午前中寝ればよいが、こやつらの仕事は国民を守るという大事なものなんじゃから、寝不足なんてものは絶対に許されぬのじゃ」
まあ確かに騎士団の主な仕事は国民の安全を守ることであって、それを寝不足の状態で行うというのは許されないことなんだが……。
こいつの言っていることは納得出来るものの、このまま放っておくわけにもいかないのでなんとかして怒りを鎮めようと考えていると、こっちに聞こえないよう小声で会話をしているグループを見つけたので少し意識をそちらに向けてみると――
「徹夜でゲームをしても午前中寝てられるなんて陛下はいいな~。前の陛下も一日中遊び呆けてたらしいし」
「俺達なんて毎朝ティア様にボコボコにされてるっていうのに、陛下に指導する時は滅茶苦茶甘いよな」
「というか、陛下ってあの爆発騒ぎがあった後の二週間以降ティア様の指導を受けてるのか? 俺は一回も見たことないぞ」
「流石に少しはやってるんじゃないか。いくら使える魔法が凄くても、あの戦闘技術じゃ完全にお荷物だし」
……酷い言われようだな。まあ一部事実だし一々反論する気もないけ―――⁉
どうやらティアも説教をしながら俺と同じくあいつ等の会話を聞いていたらしく、いきなり手に持っていた木刀を構えたかと思えば物凄いスピードでそいつらに突っ込んでいったため、俺は武器庫から木刀を出すと同時に転移魔法を使って先回りした瞬間――
木刀どうしがぶつかったとは思えない程の衝撃音が鳴り響き、少し遅れて全方向に向かって突風が吹き荒れた。
「馬鹿かお前は⁉ いくら木刀とはいえ、そんな威力で無防備の人間に当てたら怪我じゃ済まなかったぞ‼ 分かってんのか!」
「………おぬし等が今馬鹿にしておった者のお陰で命拾いしたのう。もしこやつが咄嗟に助けに入らなければ、四人とも死んでおったぞ」
今のティアの言葉は脅しでもなんでもなく、あと少し俺の反応が遅れていればマジで死んでいた。つまりさっきの攻撃は、本気で自分の教え子を殺す気だったということだ。
その為、ギリギリで止めてやったとはいえ、あいつの殺気の籠った攻撃を自分の身をもって体験した四人は少しの間放心状態だったのだが、流石はティアが直々に育てていることはあってすぐに復活し、
「い、今なにが起こったんだ?」
「そんなことも分からんかったのかの? どっちがお荷物かよう分かる言葉じゃのう」
さっきまでとは比べ物にならないほど怒ってるぞ、これ。少しでも目を離したらもう一回この四人を殺しかねないレベルだ。
「はあ、そこの四人以外はこの馬鹿のせいで散らかった部屋の掃除を頼む。あと、巻き込まれたくなければ絶対に余計なことを言うなよ。これは嫌味でもなんでもなく、俺じゃああと何人守れるか分からないからな」
そう俺がお願いすると他の人達は早速片付けを始めようとしたのだが、どうやらティアにはまだ言いたいことがあったらしく怒鳴り気味に、
「全員そのままそこに座っておれ! 片付けなんて後でも出来るじゃろ!」
「はあ、悪いけどさっきのなし。取り敢えずティアの言うことを聞いてやれ。これはもう俺でも止められん」
そう言うと、どっちの言うことを聞けばいいのか分からず戸惑っていた奴らが少し安堵した顔を見せながら自分の椅子に座りなおした。まあ安心するのはまだ早いと思うけど。
その証拠に、ティアの怒りを買った四人に関しては発言権すら奪われてるし。




