第68話:喧嘩?
今回は及第点という評価を出したティアが俺から離れたので、俺はゆっくりと伸びをした。
「そういえば、ミナをリビングに転移させたんだけど……その後どうなった? ブノワの親父達はもう帰ったのか?」
「いや、リアーヌとエメ、それに子供達とアンヌがお昼の用意をしておるから、まだ全員おるぞ。それとミナに関してじゃが――あやつ、リビングに転移してくるや凄い勢いでわらわの所に来てな。『一昨日ソウジ様とこの宮殿の周りを歩いていたという綺麗な女性は一体誰なんですか? 早く教えてください‼』……と聞きにきおったぞ」
こいつ、わざわざミナの声で喋ったところを見るに、完全に俺の魔法で遊んでやがるな。
「別にそのままリビングに戻ってもいいけど……あんまり馬鹿げた魔法は使うなよ」
「なんじゃ、わらわの心配をしてくれておるのかの? 当事者に何の相談もせず、勝手に言い訳まで考えてくれておるというのに」
また勝手に人の心を読みやがって。……別にいいけど。
「お前以外の吸血鬼に俺の血を吸わせる気は一切ないし、結構悪くない言い訳だろ?」
「確かに、あれなら筋は通っておるし問題はない。じゃが何故、そこまで自分の身を危険に晒すような言い訳にしたんじゃ? まあ最悪、お主に何かあったとしても問題ないじゃろうけど」
「それは俺を助けてくれるって意味か? それとも自力でなんとかしろってことか? ……言い訳に関しては、それしか良いアイディアが思いつかなかったんだ」
そう言うとティアは再びルーティーン時の格好に戻り――
「う~む、どうやら本当のようじゃの。てっきり、わらわのことを守る為かと期待しておったが……お主も素直じゃないのう。最初からそれを前提に言い訳を考えておったなら、そう言えば良いものを」
こいつ、また人の心を読んだ挙句ニヤニヤしやがって。
「ほら、そろそろ戻るから離れろ。こんなところ、ミナ達に見られたら面倒くさい」
「最初の頃は、わらわがこうすると顔を赤くして恥ずかしがっておったというのに。最近は冷静でつまらんのう。まだ二回しか経験がないくせに、生意気なガキじゃ」
420歳でまだ処――
「痛っ⁉ おま、抜刀してない状態の村正の鞘で頭を叩くメイドがどこにいるんだよ! 危ねえだろ‼」
「わらわの処○はビンテージものなんじゃ!」
「ビンテージ? おいおい、デッドストックの間違い――」
言い終えるより早く、刀が硬い物に当たった特有の音が鳴り響いた。
「ほ~う。一応手加減して振るったとはいえ……よく反応出来たの」
こいつ、俺が反応出来なくてもいいように、わざと義手を狙いやがったな。しかもよりによって村正。受け方を間違えていたら、それごと斬られてたぞ。
「まだ呼び出した武器が壊れても綺麗に直せるか調べてないんだ! それを使うのはやめろ! 元に戻らなかったらどうするんだ⁉」
「ルナによれば、壊れても武器庫に戻せば勝手に直りおるそうじゃ。安心せい。少し時間は掛かるようじゃがの。……それにしても上手いこと考えたの~。わらわはてっきり、防御魔法を付与しておる左手の手袋で受けるか、黙って斬られるか……どちらかじゃと思っておった」
自分で言うのもなんだが、瞬時に村正の鞘を奪い、それで刀を受け止めたのは悪くない判断だった。
魔力を流すほど切れ味が上がる“最強の矛”を受け止められるのは――それを納める“最強の盾”だけ。
つまり、村正・刀と村正・鞘ってわけだ。
「つかお前、俺がシャツに防御魔法をかけてないのをいいことに、義手の付け根から斬るつもりだったな⁉ 自分で『シャツには何も手をかけるでないぞ』とか言っておいて、それを狙うとか汚すぎだろ」
今着ているチョッキには防御魔法がかかっている。胴体は問題ない。だが腕と頭はノーガードだ。
他の連中には別でオートバリアを付与してあるから、どこを狙われても平気だが――俺は違う。
ロングコートを着れば同じ効果を得られるようにはしている。だが訓練時はティアが絶対に許さない。木刀でも普通にバカ痛い。
「訓練時も同じ状況じゃ。今の攻撃が当たるなら、それはお主が油断しておったということじゃ」
「はいはい、ティア様の処○はビンテージものですよ。そんな貴重なものを貰える男はさぞ幸せだろうから、そのお礼に一生大事にしてもらえよ」
「ふん。わらわが気に入る男なら、それくらい出来て当然じゃ」
* * *
“そんなこと言ってるからいつまでも処○なんじゃねえの?”
――と心の中でだけ呟きながら、俺達はリビングへ向かった。
家の中でも極力転移魔法を使うな、とティアに言われているので、無駄に長い廊下を歩く。
リビングの前には、ドア近くで待っていたらしいミナがいた。落ち込んだ顔。怒られた子供そのものだ。
「先ほどは、ソウジ様の婚約者であるにも関わらず、旦那様に恥を掻かせてしまい申し訳ありませんでした」
「はあ? ……あ~、別にあんなのどうでもいいのに」
「いえ。今回は身内と親しいクロエさんの前とはいえ……婚約者として、あのように取り乱すなどあってはならないこと。それも大事な会議で――…………ふぇ?」
謝罪モード全開。
面倒になって魔法でセリアくらいの身長に縮める。
最初は放心。やがて視線の低さに気付き、ロリ声で「……どういうことですか?」と呟いた。
説明? 疲れてるからパス。
そのまま後ろから抱き上げ、ソファーへ。膝に乗せて軽く抱き締める。
「ちょっと! それ、私だけの“特別”だったのに‼ 魔法で小さくするとかズル過ぎるでしょ!」
「いやさあ、会議中は『後でセリアでも膝に乗せようかな~』とか思ってたんだけど、他の子を気遣うのも俺の役目かなと」
もちろん嘘だ。
謝罪を強制終了させただけだ。
……最近、人前で一番抱き着いているのはリアだしな。
別に見せびらかしているわけじゃない。毛布をどかされたりで見られてるだけだ。勘違いするなよ。
「そんなこと言うってことは、もちろん私のことも気遣ってくれるのよね?」
「はいはい。今はミナの時間だ。セリアは夜な。てかお前、仕事中じゃないのか?」
セリアは素直にキッチンへ戻っていった。
「で、説教したのは誰だ? ブノワの親父か?」
「いえ……注意したのはお母様です」
「私が事情を聞いて、叱ったのよ。少し気が緩んでいたから」
ソファーの向かいに座るお母さんがそう言う。
「今回はほぼ身内だろ? あんまり怒らなくてもいいだろ。ミナだって相手は選ぶ」
「分かっているわ。でも王女が、しかも王妃になる人間が、どこであっても『浮気だ何だ』と騒ぐのは論外よ」
「ああ゛? そんなところも含めてミナだろ。俺は“男に都合の良い女”なんてごめんだね。俺はそこらの王様とは違うんだから、嫁が少しおかしくても問題ないだろうが」
浮気する気もないし、人数も決めている。
「あのソウジ様……それだと私達も“おかしな人”になるのですが」
「いや、この息子に着いていける女の子は相当変わっていると思うぞ。……どこで育て方を間違えたんだか」
ブノワの親父はロリミナを見ながら苦笑した。
……ってか、若干ミナのお母さんと俺、軽く言い合いになってないか?
この人、怒らせたら普通に怖そうなんだが。
さっき叱られたばかりだからか、ミナもいつもより大人しいし。
――まあ、それでも俺の膝の上から降りる気はないみたいだけど。




