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世界最強の元一般人――異世界ラノベの主人公に憧れた俺、最強でも現実は甘くなかった  作者: ITIRiN
第6章:王の顔と、隠しきれない素顔

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第67話:世界は広い

マイカの不安そうな顔を横目に、俺は一人、頭の中で勇者について仮説を立てていた。

するとクロエが口を開く。


「次の質問なんですけど、陛下は先ほどの会議で『犯罪者や盗賊の数より、法律を守って暮らしている人の方が多いのはどこの世界も同じこと云々』って言っていましたが……最後の部分って、どういう意味だったんですか?」


「あっ、それ私もちょっと気になってたんだよね。何となく言いたいことは分かったんだけど、どうにも腑に落ちないというか」


最後の部分ってことは――「それに、世界は広いですからね……」ってところか。


「俺がその言葉を言う前に、ブノワの親父が

『日本人の犯罪に関する考えはかなり厳しめだと聞いてはいたが、少し厳しすぎるのではないか? あんまりあれだと、その内シワ寄せがくるぞ』

って言ってただろ?」


俺はそこで一度区切って、二人の顔を見る。


「あれは今まで――程度は違えど――犯罪を繰り返していた連中が、俺のせいでそれが出来なくなる。

すると欲求が溜まり続けて、いつか爆発するぞって話だ。……ここまではいいか?」


どうやら二人とも、そこまでは理解していたらしい。

それぞれ返事が返ってくる。


「しかしたった一国が、犯罪の取り締まりをいきなり強化したところで、別に他の国までそうなるわけじゃない。

もっと言うと、この国がやっている犯罪対策を真似できる国は一つもないし、もし俺が技術提供をしたところで、どうせ扱いきれない」


俺は淡々と続ける。


「つまり――この国で犯罪をやるのが難しくなったなら、他の国に行けばいいだけ。

なんたって、“世界は広い”からな」


「じゃっ、じゃあ……『犯罪者には犯罪者なりに罪を犯す理由がある』っていうのは、どういう意味なんですか?

その言葉をそのまま受け取ると、まるでやむを得ない理由があるみたいにも聞こえるんですが」


「そりゃそうだろ」


俺は即答した。


「別に、まだこの世界に来てそんなに経ってない俺が偉そうなこと言える立場じゃない。

でも、全員が全員、恵まれた生活をしてるわけでもないし、全員分の仕事があるわけでもない。

だから盗みをして、その日をなんとか生きてる奴もいる。盗賊として村や荷馬車を襲って、生計を立ててる奴もいる」


そこで、言葉を濁さずに足す。


「まあ、ただただ殺人を楽しんでる連中もいるから、全員がそうだとは言わないけどな」


この国だって孤児は一人もいなかったものの、屋台や店から盗みを働いて捕まった奴は既に何人かいる。

そして、そのほとんどが“働きたくても働き先がない”人間だった。


そこそこの戦闘技術はあるが、冒険者としてやっていくには不安が多く、中々足を踏み出せずにいる人。

怪我をしようが何をしようが全部自己責任で、生活の安定が見込めないことへの不安が大きい――そういう意見が多かった。


昔は冒険者だったが、大きな怪我をしてしまった人。

日常生活を送る分には問題ないが、今まで戦闘しかやってこなかったせいで他の仕事が難しい――そういう意見も多かった。


挙げればキリがないほど理由は出てくるし、特にこの二つが理由で盗賊をやっているという奴も、俺は何人か見てきた。

結局、盗賊なら戦闘力が低い人間――主に商品を積んだ馬車や移動中の家族を襲って、売ればいい。

クエストを受けるより簡単で、しかも金になる。だから“楽”なんだと。


「ですが、その説明だと……陛下は国民全員を救うのではなく、正しいことをしている大多数には優しく手を差し伸べて、仕方なく悪事を働いている少数には何もしないどころか、この国から追い出すってことになりますよね?

それって、人としてどうかと思うのですが」


クロエの言いたいことは分かる。

俺が普通の一般人だったなら、同じことを言っただろう。


だがそれはもう昔の話だ。

今の俺は、この国の王になると決意した人間であり、ただの白崎宗司じゃない。


だから、俺が言うべき言葉は――


「あっちもこっちも助けてたら、確実に国が潰れる。

正しいことをしてる大多数に手を差し伸べるのは当たり前だ。普通、犯罪者に手を貸す国王がどこにいる?」


そこで俺は続けようとしたが――


「それにさっきから何度も言ってるが――」


クロエが俺の言葉を遮った。

朝、うちに来た時の怯え具合からは想像も出来ないほどの怒りが込められた目で、俺を睨み付けながら。


「“世界は広い”、ですか?」


「ああ。別にこの国じゃなくても犯罪は出来るし、探せばもっと楽にそれが出来る国があるだろうよ」


その瞬間、クロエは机を思いっきり叩いて立ち上がった。


「ティア様と二人で、この国の王様になる為に頑張っている姿を見た時は凄く尊敬しましたし、何より、自分を犠牲にしてまでこの国を守りたいんだなって思っていたのに……」


震える声のまま、吐き捨てるように言う。


「どうやら私の勘違いだったみたいですね。失礼します」


一応綺麗に一礼をして、クロエは静かに――だが怒っているのがはっきり分かる背中を見せながら会議室を出て行った。


「……マイカも、嫌ならうちの仕事を辞めていいぞ。ある程度退職金は出すし、次の仕事先を探すのも手伝う。安心してくれ」


俺がクロエと話してる間、マイカはずっと黙っていた。

だから、もしかしたら……と思って口にしたんだが。


「いやいやいや。私、辞めないからね。勝手に新しい就職先とか見つけてこないでよ」


どうやら本当に辞める気はないらしい。


「それはありがたいが……マイカが今後も宰相を続けていく限り、今回みたいな話が上がることも少なくないだろうし、宰相だけ辞めるっていう選択肢もあるぞ」


「うーん……確かに今後もああいう話をしなきゃいけないって考えると辞めたくもなるけど……ソウジ君の宰相なら、話は別かな」


そして、少しだけ笑う。


「それに私だって、ミナ達に負けないくらいソウジ君のことを見てるんだから。あんまり甘く見ないでよね♪」


マイカがどこまで知っているのかは知らない。

だがそう言うと、今回使った自分のPC等を持って部屋を出て行った。


そのため俺は一人、椅子に座り直す。

少し休憩してからリビングへ向かおう――そう思った瞬間。


とある人物が、椅子越しとはいえ俺の背中に上半身を押し付け、自然な流れで首に手を回してきた。


「お前、いつの間に俺の血を吸いやがった。というか、どうやってこの部屋に入ってきたんだ? 全然気付かなかったぞ」


「血に関しては、以前お主に用意してもらった緊急用のストックからじゃ。本当は直接吸うた方が新鮮で美味いのじゃが……クロエの様子がおかしかったので、わらわはお主のことが心配で心配でのう」


「よく言うぜ。これに関しては俺とお前の間で生まれたルーティーンとはいえ、一々血を吸う必要はないはずだ。どうせ俺の血が飲みたいだけなんだろ?」


なんでもティアに言わせれば、血液にもそれぞれ味があるらしい。

俺の血は他の物とは比べ物にならないほど美味いとか何とか。

それとこれは完全にこいつの憶測だが、血液の味はそいつの魔力量や使える属性によって変わる――らしい。


まあ、その説が正しければ味の件は納得できる。


「じゃがお主も、こっちの方が良かろう?」


「…………」


沈黙を肯定と取ったらしいティアは、どこか揶揄うように笑う。

そして、いつもの――どこか冷たく、人を試すような声で言った。


「お主、今回は随分と冷たいことを言ったようじゃの。

マイカ相手ならまだしも、クロエはただのギルド職員なんじゃし、何もあそこまで馬鹿正直に言わんでもよかったのではないかの?」


「今後も俺がこの国で王様をやっていく限り、ギルド職員の協力は必須だ。

あれくらいのことで一々反応されてたら話にならない。簡単な面接をしただけだ」


「おかげで、せっかく仲良うなったクロエに嫌われてしもうたがの。

今後も同じようなことを続ければ、また親しい者に嫌われてしまうかもしれんぞ?」


「王様ってのは、良い国を作るためなら進んで嫌われるし、泥も被るって本に書いてあったぞ」


ちなみに本というのは、前の城にあった書斎から貰ってきた物や、ミナに頼んで集めてもらった物だ。

かなりの数が、この城の書庫に保管されている。


「で、どうじゃ? 進んで嫌われてみた感想は。もう国王など辞めたくなったかの?」


「少なくとも、お前らが俺の傍にいてくれる限りは大丈夫そうだな」


今の俺は、この城に住んでいる人達を守る為に国王になろうとしてるようなもんだ。

守るべき対象がいなくなれば話は別だが。


「嫌われることを恐れず、今後の本当の予定を外部の者に喋らなかったのは評価出来るのじゃが……一国の王としては微妙じゃの。

まあこれに関しては仕方ないと言えばそれまでじゃが、国民に対する気持ちが足りん。

よって今回は、及第点じゃ」

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