第66話:脱獄の仕組み
「そろそろ話を進めてもよろしいですか?」
ミナに何を言われたのかは知らないが、マイカの顔が少し変わったというか――悩みが吹き飛んだような雰囲気になっていた。
だから念のため、そう確認したのだが。
「うん! 私はソウジ君と一緒に戦場へ行くことは出来ないけど、その分、別のことで色々サポートさせてもらうから任せて!」
……なんか俺の質問に対する返答、おかしくない?
もうそれ完全に内輪の話だよな。まあマイカがあのまま落ち込んでるよりはいいんだけど。
「よく分かりませんが、とりあえず話を進めます。えーと……どこまで話したっけ。……ああ、そうそう」
俺は画面に視線を戻す。
「今回、勇者らしき人物によって爆弾が使用されたのは確かです。しかし、それで牢獄の周りに張られていた結界が壊されたわけではありません」
「さっき陛下が『自分以外は絶対にあの結界を壊せない』と仰ったのを聞いて、ずっと気になっていたんですけど……じゃあ、どうやってあの人達は脱獄したのでしょうか?」
クロエの質問に答えるため、俺は別の簡易図を画面に映し出した。
「まず、左側にあるのが爆破前の牢獄と、その周りに張られている結界の簡易図です。これを見て分かる通り、私は結界で牢獄を丸ごと覆うのではなく――“コの字”の状態で結界を張りました。つまり、地面の下はガラ空きだったってことですね」
「一応言っておきますが、我が国の宮殿はもちろん、ほとんどの結界はコの字型で張られています。それが一般的ですので、何もご自身のミスかのように仰らなくとも……」
レオンの親父は、もう脱獄方法に検討がついたらしく、妙にフォローしてくる。
「それに、結界をコの字に張るのは常識だ。というか、全体を綺麗に覆おうとすれば途轍もない技術力が必要になる。そんなことが出来る人物など、少なくとも私は見たことがない。……まあその代わり、何者かが結界に悪さをしようとした瞬間、責任者へ伝わるようにはなっているが。お前もそこは対策済みだったのだろ?」
「ええ、もちろん。あの時だって結界が異常を察知したからこそ、即時現場へと急行したわけですし」
……ミナが不機嫌そうな顔で、小声で「私達はそんなこと一言も聞かされてないんですけど」とか言ってるが、聞こえなかったことにする。
「あの~……なんか皆さん、脱獄の原因が分かってるみたいで申し訳ないんですけど……私としては、ちゃんと説明してほしいかな~、っと」
「では、せっかく用意したもう一つの簡易図もありますし、一から説明していきましょうか」
そう言って俺は、先ほどの簡易図の隣に“爆破後”の簡易図を出した。
「クロエさんの顔を見た感じ、もう分かったようですが一応説明します。……といっても、この図を見れば、仕組み自体は単純です。簡単な話――結界は壊せなくても、外から地面に穴を開ければいいんですよ」
俺は指先で図をなぞる。
「魔法でやる場合、どれくらいの威力が必要で、最低何人必要なのかまでは知りません。ですが爆弾なら、威力を強めるだけでいい。だから一人でも“十分”なんです」
「確か、石で固められた地面を……しかも人が通れるくらいの穴を開けるのって、かなり大変でしたよね?」
「大変なのはもちろんですし、かなり目立つというデメリットもあるため、そんな簡単に出来るものではありません。なぜなら魔法で穴を開けようとした場合、どこか一点に集中砲火しなければいけませんからね」
そう。ミナの言う通り、魔法でそれをやろうとすれば、そこに人が大勢集まらなければいけない。
そのことには俺も初めから気付いていたし、それを警戒して監視カメラも多めに設置していた。
――だが結果は失敗。
これは完全に油断していたとしか言いようがない。
「あの……これは別に陛下を責めているとかではないのですが……クロノチアの勇者様がもしこの国を狙ってきた場合、このお城も危ないんじゃないですか?」
「そのことならご安心を。その件に関しましては既に対策済みですので、二度とあのような手は通用しませんよ」
「そういえばソウジ君達が帰ってきた日、このお城の周りを凄く綺麗な女の人と二人で歩いてたけど……あれのこと?」
余計なことを……。
おかげでミナが凄い勢いで椅子から立ち上がった。これは絶対怒ってるな。
「ちょっ⁉ 誰ですかそれは‼ 私、知らないんですけど!」
「後で事情を説明いたしますので、少々落ち着きください、お嬢様。それにまだ会議の途中です。はしたないですよ」
「いいから早く白状してください! 浮気ですか? それとも浮気ですか? というか浮気でしょ⁉」
あの女の正体をここで言えるわけないだろ。
一部、国家機密が含まれてるっつうの。
「はあ……。一応、話したかったことは全部話し終わった。だから会議は終わりな」
俺は椅子から立ち上がり、ため息をつく。
「ということでミナは二人の対応をよろしく。あと、さっきの謎の女の正体が知りたければ――“あいつ”にでも聞きな」
名前の部分だけミナと、ついでにマイカにも念話で伝えた後――有無を言わさず、親父二人とミナをリビングへ転移させた。
「えっ? ええっ⁉ あのあのあの、ミナ様とかマリノ王国の国王様とか宰相さんが、いきなりいなくなったんですけど⁉ ちょっ、これ大丈夫なんですか?」
「どうせミナの質問攻めを回避するために、ソウジ君が転移させたんでしょ?」
正解です。よく分かってるじゃねえか、流石は俺の秘書。
……まだ一回も秘書っぽい仕事させてないけど。
「ミナのやつ、基本的には姉というか……お姫様として相応しい態度を取ってるのに、たま~に妹みたいになるから困る。少しは同い年のリアを見習えよ。しかも自分でハーレムを推奨してるくせして、浮気って……」
「う~ん。ミナ的には、自分が認めた人ならセーフだけど、どこの誰かも分からない人が相手だと浮気になるんじゃないかなぁ。やっぱりソウジ君って、他の国の王様と比べてかなり特殊だし、女性関係については結構気を付けてるんだと思うよ」
そういえば少し前にティアも似たようなことを言ってたな。
確か――「顔に傷を付けるのと、外で女を作るのだけは止めておくれよ」だっけ。前者はともかく、後者はこっちからお断りだっつうの。
「お話の最中申し訳ないのですが、先ほどの会議で気になったことをいくつか聞いてもいいでしょうか?」
「ん? ああ、別にいいぞ」
「では早速一つ目の質問ですけど、結局このお城にはどんな対策を施したんですか」
いきなり核心を突いてくるとはな。
……別に教えてもいいけど。後でおばちゃんに注意するよう言っておこ。
「さっきも話したが、今回標的にされた結界はコの字型だったから脱獄されただけで、結界自体には傷一つ付いていない。つまり今度は建物を丸ごと囲えば問題解決。……あとは内緒」
ブノワの親父の言う通り、それをするにはかなりの技術力が必要なようで――チート持ちの俺でも上手く出来なかったけどな。
「………こんなとんでもない王様がいる国に喧嘩を売るなんて。私はクロノチアの皆さんと勇者様に同情しますよ」
マイカは、やはり俺が人を殺すことに抵抗があるのか、少し心配そうな顔をしながら問いかけてきた。
「守りが万全なのは分かった。でも結局、あっちが攻めて来たらソウジ君はどうするつもりなの? さっきの会議では何も言わなかったけど」
「大まかな対応は考えてあるけど、こっちは今回参加してないティア達戦闘組と相談してからだな」
勇者は一つだけ特別な力を使え。目撃情報としては、魔法の杖と鉄の馬車、そして今回の爆弾。
爆弾に関しては、過去に召喚された勇者が伝授した可能性もある。
だが、あれは明らかに透明のビニールが爆弾を包んでいた。
つまり、この世界で作られた物ではない。
そして、そこから予想される勇者の力は――――――――。




