第221話:たまごパン!
しかし、この人からしてみれば、それすらも予想の範囲内だったらしく、苦笑いを浮かべながら、
「ちょ~っと、さっきから旦那様大好きヤキモチ焼きメイドさんが私に物凄いガン――もとい、『一体、いつまで私の旦那様にお腹を空かせたままの状態でいさせるつもりなのですか?』っていう視線を向けてきててね~。そ・れ・と――」
そうこちらの疑問に答えた後、今度は意味ありげなところで言葉を切ったかと思えば、再び意地悪な笑みを浮かべながら、すっと俺の耳元へ自身の口元を運び、小声で、
「そんなんじゃ、うちのイリーナはともかく、ユリーっていう女の子には愛想尽かされちゃうかもよ?」
「ッ~~~」
「ふふっ、これはレミアとアンヌが揃ってソウジちゃんにぞっこんになっちゃうのも納得だわ。かく言う私も、昨日初めてうちに来た時から、もうベタ惚れなんだけどね」
リーナ姉のことはまだしも、ユリーの件に関しては、まさかバレているとは思っていなかった。
そんなところへ追い打ちを掛けるかのような、囁き声でのこの発言。
今までの環境が環境だったせいもあり、相変わらず他人からストレートに好意を向けられることに慣れていない俺は、恥ずかしさから、自分でも分かるほど顔は勿論、耳の先まで真っ赤になっていることだろう。
しかし、それすらも全て見抜かれているからこそ、その点については一切からかってこないし、からかおうともしない。
それどころか、優しい笑みを浮かべながら、感慨深そうにこちらを見つめてきている始末である。
もし俺がママと同じ立場だったなら、間違いなく同じ反応をしていることだろう。
していることだろうが、恥ずかしいものは恥ずかしいし、このままやられっぱなしというのも面白くない。
そう考えた俺は、仕返しとばかりに、
「じゃあ、朝ご飯はたまごパンがいい!」
先程まで、ああでもない、こうでもないと考えていた者とは、まるで別人かと疑われても不思議ではないほどの勢いでそう言うと、
「えっ、たまごパン? シーちゃんが食べられるパン料理で、なおかつ卵を使ったものとなると……食パンの上に卵サラダを乗せ、トースターで焼いて作る、卵サラダトーストとかですか?」
「もしくは、たまに私達が昼食としてお出ししている、たまごサンドでしょうか? 正直、それ以外で旦那様がお食べになられる物と言われましても、心当たりがないのですが」
こちらの思惑通りの反応をしてくれたリーナ姉とエメさんを見て、内心したり顔でウキウキしていたのも束の間。
そんな二人とは違い、なぜか余裕の笑みを浮かべているママは、
「たまごパンか~。それじゃあ、私と半分っこしよっか」
なんで?
ちなみに、俺が先程言ったたまごパンとは、まだフレンチトーストと言えなかった子供時代に呼んでいた料理名である。
いくら体が小さくなっているとはいえ、一枚くらいであれば普通に食べられる量なのだ。
だからこそ、そんな疑問が頭の中に浮かび上がったのだが、どうやらそれは表情にも出ていたらしい。
ママは予想通りといった様子で、
「その代わり、ソウジちゃんのために残しておいたご飯で、焼きおにぎりを作ってあげる」
「………………」
おそらくだが、十中八九、この人はたまごパンがフレンチトーストであることに気が付いている。
その事実に加えて、半分っこの提案からの、
『その代わり、ソウジちゃんのために残しておいたご飯で、焼きおにぎりを作ってあげる』
という発言。
幼児言葉に近い発言にもかかわらず、自分が持っている情報を元に瞬時に答えを導き出す推察力といい、こちらの悩みに対して面倒臭がらず、ちゃんと最後まで寄り添ってくれる優しさといい……さすがはお母さん達と同じく、ただの人間でありながら、何百年と母親をやっているだけのことはある。
絶対に口になどするつもりはないが、俺はこの瞬間、一生この三人の母親には勝てないであろうと悟った。
それと同時に、人生で一度も感じたことのない喜びが、心の底から湧き上がってきていた。
前者はともかく、後者に関しては、きっと隠し切れていないことだろう。
しかし、真正面から愛情を向けられることと同じくらい、俺は自分の中で生まれた好意を相手へと向けるのが苦手……というか、恥ずかしい。
それ故に、気恥ずかしさからぷいっとそっぽを向いたにもかかわらず、ママは『よくできました♪』と言わんばかりに、優しく俺の頭を撫でてきた。




