第220話:何が正解?
そんな一触即発寸前のような状況にもかかわらず、お母さんと母さんは呑気にお茶を飲み、ママに至っては娘二人によるいがみ合いなど気にも留めず、相変わらず色々な角度から俺の写真を撮り続けている。
つまり、今この二人をどうにかできるのは俺しかいない――と言いたいところなのだが……マジで、何をどうすればこの修羅場を収めることができるんだ?
自惚れもいいところな思考を巡らせておきながら、解決策は一切思い浮かんでいない。
そんな無能もいいところな自分の引き出しの少なさを改めて痛感していると、我が子の写真撮影にはひとまず満足したのか、それをやめたママが俺の方へと視線を向けてきて、
「今からソウジちゃんの朝ご飯を用意するけれど、何か食べたいものとかある? 一応、お米も今朝炊いた分を茶碗一杯分くらい残しておいたから、和食でも全然大丈夫だよ。お味噌汁と簡単なおかずくらいだったら、すぐに作れるし。もちろん、他に食べたいものがあれば遠慮せずに言ってくれていいからね?」
朝ご飯のリクエストを尋ねてきた。
そのおかげで、姉達による板挟み状態から脱することはできたものの、これはこれでまた新たな悩みが生まれてしまった。
というのも、ママはああ言ってはいるものの、まず他人に作ってもらう料理の時点で、簡単なんて概念は存在しない。
ましてや、この人達が作る料理が、言葉通り簡単なものであるはずがない。
間違いなく、昨日のエメさん同様、ぱっと見は素朴な料理であっても、実際にはかなりのこだわりと、食べる相手への気遣いがしっかりと込められたものが出されることだろう。
しかし、ここで俺が比較的単品で完結しやすいサンドイッチなどのパン料理を希望した場合、わざわざ俺のために残してくれたのであろう米が、無駄になってしまう。
つまり、俺はここでなんて答えるのが正解なんだ?
駄目だ。
考えれば考えるほど、分からなくなってきたぞ。
それでもなんとか正解を導き出そうと、足りない頭を必死に働かせる。
その過程で、少しでもヒントになりそうなものはないだろうかと、久しぶりに他人の顔色を窺うことにした俺は……この時特有の嫌なドキドキ感を胸に、ママをはじめとする五人の大人達へと視線を向けてみた。
おそらく、俺が今何を考え、何に頭を悩ませているのかなど、容易に想像が付いているのだろう。
微笑ましそうにこちらを見つめてくる眼差しの中には、感心と……ことあるごとに周囲の人達から向けられる、あの悲愴感が含まれていた。
そんな視線を向けてくる大人達を代表してなのか、ママがこちらへ近付いてきたかと思えば、俺の目の前で歩みを止め、お互いの目線を合わせるためにその場でしゃがみ込んだ。
そして、優しく頭を撫でながら、
「ほんっとうに良い子だね~、ソウジちゃんは♡ でもママは、そんなふうに大人の心を見透かして、相手のご機嫌取りばっかりしてるお利口さんは嫌いだな」
「………………」
きっとこの人は、俺が他人の顔色を窺うことが得意だからこそ、ああいった表面上には出ていない感情すら察することができてしまう――そのことまで、全てお見通しなのだろう。
一体、朝ご飯は何を頼むのが正解なのか悩んでいることはおろか、今の俺の心情に気が付かないはずもなく、
「その反応、私以外にも言われたことがあるっていう反応だね。まあ、ソウジちゃんのそんな顔を見るまでもなく、ここにいる人達は、レミアを除いて全員、同じことを一度は言ってるだろうってことくらい、簡単に想像が付くけどね」
今ママが言ったことは全て本当であり、悔しいが、反論の余地がないほどまでに何一つ間違っていない。
しかし、どうやら一人だけ、それでも納得のいかない人がいたようで、
「ちょっと待ちなさい、ルリア」
そう言いながらママの肩を掴んだお母さんに対し、当の本人はどこ吹く風といった様子で、
「どしたの、そんな怖い顔しちゃって?」
「どしたの? じゃないわよ。なんで私だけ、当たり前のように省かれてるのかしら? 言っておくけれど、私はミナよりもこの子のことを理解している自信があるくらいには、ちゃんとコミュニケーションを取っているし、エメの次に付き合いが長いのだけれど」
「確かに、その辺は事実なんだろうけど……だってレミアって、昔から子供の相手をするの下手――あー、下手っていうのは言い方が悪いか。じゃあ……不器用じゃん!」
「ふっ」
「他人事みたいな感じでレミアのこと笑ってるけど、ソウジちゃんは、この子とは比較にならないくらいの重症でしょうが。……っていう話は一旦置いておいて、そろそろ朝ご飯、何がいいか決まった?」
「えっ⁉」
ママの性格上、ここからもう一段階、からかいの言葉が続くものとばかり思っていたため、この発言はあまりにも予想外だった。




