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第197話:17年越しの偉業

side:レオン


あれは今から17年と少し前。


つまりは、兄貴が死ぬ数か月前の話。


あの時は今と違って、どこの国でも娼館や男娼が結構公然と運営されていた。


まあ流石に、各国ともそれらを正式に認めているところなんて一国もなかったのは、今も昔も変わらないけどな。


てな感じで俺達は、兄貴が旧ボハニア王国の国王から与えられたここを活動拠点及び安定したシノギの手段として利用していたわけだが、それに亀裂が入り始めたのは、地球でいうクリスマス当日の朝。


奴が最初の犯行国として選んだのは、マリノ王国。


そして最初の被害者となったのは、マリノ王国内で一番の人気を誇っていた娼婦だった。


遺体の発見場所は、彼女がいつも客引きを行っていたとある路上。


また、残された血痕などから犯行現場も同一であるとされており、深夜の客引き中に襲われたのではないかと推測されている。


ちなみにこの時の被害者は、鋭い刃物によって喉と腹部を切り裂かれていた他、切り裂かれた腹からは子宮が抜き取られていたという。


この事件が載った新聞を見た時、兄貴と姐さんはこんな会話をしていた。


『もしもこの事件の犯人が、俺の思い浮かべている男と同一人物であった場合、次は来年の一月中に、また別の国の娼婦が殺されるだろうな。それも同じ状況かつ同じ方法で』


『あら、そうなると次の被害者からは膀胱でも持ち去るのかしら? あと挑発的な手紙は、この世界の警察組織的存在である騎士団宛て、それも次の標的となる国の騎士団に送るのか、それともギルド宛てに送るのかも気になるところね』


『そのあたりはどうだろうな。ロンドンでの事件の時は、臓器を持ち去り始めたのは二人目の被害者からだし、そこも変えてくる可能性は大いにあり得るだろうよ』


それを近くで聞いていた俺は、正直、そんな馬鹿げたことが起こるはずがないと内心では思っていた。


しかし現実は、兄貴達の方が正しかった。


一月には、スロベリア王国の娼婦が喉と下腹部を切り裂かれ、膀胱だけが持ち去られた状態で。


二月には、クロノチア公国の娼婦が喉と胸部を切り裂かれ、両胸だけが持ち去られた状態で。


三月には、アンドレ帝国の娼婦が喉を切り裂かれ、心臓だけが持ち去られた状態で。


それぞれ遺体となって発見された。


もちろん、そんな事件が毎月起きれば世間は大騒ぎだし、各国の騎士団はもちろん、国民によって結成された自警団の奴らも躍起になって犯人捜しを行った。


しかし結果は、犯人の目撃情報はおろか、手掛かりすら掴めないというもの。


分かっているのは、この連続殺人鬼が娼婦ばかりを狙っているということのみ。


ともなれば、自分達が住む国に娼婦がいるのが、娼館があるのが悪いのではないかと考え出す人間が現れるのも時間の問題というもの。


現にそれが理由でウチ以外の娼館は全て店を閉めたし、暗黙の了解とはいえ、各国ともその営業を全面的に禁止しているどころか、程度の差こそあれ、かなり重い罰則が設けられていたりもする。


ちなみにウチが営業を続けられていた理由としては、単純に旧ボハニア王国側の人間が誰一人として兄貴に逆らえなかったからというのと、あの人には勇者召喚された者という肩書があったからだ。


まあ要は、得体の知れない殺人鬼が自分達の国に来ようとも、兄貴なら何とかしてくれるだろうという期待が後押ししていたのであろう。


正直、俺も残るはこの国だけという追い詰められた状況にも関わらず、呑気に構えていたし、この娼館に予告状と一緒に、これまでの被害者から持ち去ったのであろう各臓器が送られてきた時も、


『わざわざ自分から犯行予告をしてくれるとは、随分とご丁寧なことで。こんなふざけた奴、俺と兄貴で返り討ちにしてやるよ』


なんて軽口を叩いていたりもした。


しかし実際は、17年前の昨日――5月17日。


旧ボハニア王国によって召喚された兄貴は、あの日生まれた自分の娘の顔を見ることもないまま、召喚国不明の―――と相打ちという形で命を落とした。


* * *


(あの当時、最強の称号を意味する勇者ですら、相打ちが精一杯だったという事実は各国にかなりの衝撃を与えた)


(その影響もあり、さっきも言ったように、この国以外では性サービスの類いの店は全て禁止されている)


(にも関わらずコイツは、何も知らなかったとはいえ、警備面に関しては一切触れずに今回の提案を自国民どころか世界を相手に通してみせた)


(それだけでも凄いことだっつうのに、加えて一般人からしてみればあまり良い目では見られない商売を、たった一週間で――しかも多少お姫様達の助けがあったとはいえ、ほぼソウジ一人で国家公認にしやがった)


(こんなの、歴史に残るどころか未来永劫語り継がれるレベルの偉業だぞ)


(それを本人には絶対に伝えるな、とかいう無理難題を一方的に押し付けやがって、あの腹黒お姫様が)

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