第185話:質疑応答(上)
「では早速ですが、何かご質問等ございます方がいらっしゃいましたら挙手をお願いいたします。また今回、席が全て埋まってしまい会場に入れなかった皆様に関しましても、その場でお手を挙げてくださればこちらで把握することが可能ですので、よろしくお願いいたします」
ちなみにミナに指名された質問者に関しては、当てられた人の足元が光る仕様になっているらしい。
なんてことはどうでもよくて……。
えっ、確かにすごい人数だなとは思ってたけど満席ってマジ?
というか満席であってなお訓練場の外に、各所設置してあるモニター前へあんだけの人が溢れてるってことは……ほぼ全ての自国民が俺の一挙手一投足、一語一句に注目しているどころか……多くの他国の人間もそれに混ざってると考えないと明らかに人数が合わないんだが?
なんて俺が一人心の中でビビっていようがそんなのお構いなしといった感じで、早速一人目の挙手者を指名したらしいミナが、
「はい、それではそちらの女性の方」
そう言った直後、俺の目の前にある講演台から約三メートル程離れた場所へ、どこか強気そうな中年女性が転移してきた。
それと同時に、あちら側にも同じような台が出現したのに続き、再びミナが、
「私が挙手者の中からどなたかをご指名させていただきますと、このように自動的にソウジ陛下の向かい側にございます講演台の前へと転移するようになっております。ということで時間の兼ね合いもございますので、面倒な自己紹介とか挨拶とかは抜きに、皆様どんどんご質問等の方をお願いいたします」
「ミナ様がそう仰るのであれば遠慮なく……早速ですが陛下が考案したという娼館についてですが、あれは女性の人権を無視しているとしか思えないのですが、そのあたりどうなんでしょうか?」
(あーあ)
誰に向けるわけでもなく、たった今自分が抱いた感情をそう心の中で言語化したのち、一度深呼吸をしてから、
「今回私が考案し営業を始めようとしている“店舗”で働くことを希望してくださっている“方々”は皆様、ご自分の意思です。また、こちらから無理強い等は一切しておりません。
加えて、お金が無いなどの理由で仕方なくという方が出ないよう、“しっかりと”面接を行っております」
今回に関しては自分が直接面接を行ったものの、今後も俺ないしミナやティアでそれを行うわけにもいかないので、今後面接官は各娼館・男娼の代表に俺が作った嘘発見器を使用してもらうことになっている。
ついでに言えば、一連の流れを記したマニュアルも作成済みである。
「今の陛下のお答えに対して何か“ご不満等”がございませんでしたら、事前にお伝えしておりました通り時間の関係上、お一人様お一つの質疑としておりましたため、別の方をご指名させていただきますがよろしいでしょうか?」
「………………」
「はい、それでは別の方でどなたか陛下へご質問したい方はいらっしゃいませんでしょうか?」
沈黙は肯定と取ったらしいミナは、同情や哀れみといった感情を一切見せずに進行を再開させると同時に、一人目の質問者を元の席へと戻し、
「はい、それでは外に設置しているモニター越しに今回の公開討論会をご覧になってくださっているそちらの方」
次に指名されたのは、先ほどとは年齢以外何もかもが真逆っぽいうえ、緊張しているせいか尚更気弱さが増していそうな中年男性だった。
「あっ、えっ……えっと……いっ、いつも本当に大変お世話になっておりますソウジ陛下!」
「いえいえそんな大げさな。逆に私のような者は、あなたを含め国民の皆様がいてくださってこその人間ですので、お礼を言うべきはこちらですよ。本当にありがとうございます」
そう言った後、嫌味とかなしに本気で心からの感謝を込めて一礼してから、
「今日この場は国民の皆様が私に言いたいこと・聞きたいことを仰っていただくためにご用意させていただいたものですから、別に立場や周りの目などお気になさらず、軽い感じで言いたいことを言っていただいて大丈夫ですよ」
「はっ、はい‼ ありがとうございます‼ それでは一つご質問というか、これは完全に私の勝手な想像なのですが……恐らく陛下は、金銭面で困っているからという理由でお店の方へ面接を受けに来た人がいた場合、ただ不採用にするだけでなく……最後は本人次第とはいえ、他の仕事を紹介するなど何かしらのフォローをお考えなのではないかなと思っておりまして……」
そこで何故か言葉に詰まらせてしまったのを受け、
一応この人にはさっき鎮静魔法を掛けておいたから、緊張やら重圧やらの影響は完全に取り除けたと思ったんだけどなぁ。
これに関しては治癒系の魔法に感覚が似てるから、どっかミスったか?
なんて内心で疑問を抱きながらも、今の俺ではこれ以上どうこうすることもできないため、出来るだけ相手がリラックスできるよう一つ一つの言動を意識しながら、
「ご自分の勝手な想像だからと遠慮せずに、続きをどうぞ」
「もし私の予想が当たっていた場合、最初からそういったお店で働く気など一切ないにも関わらず、就職先目当てでといった人達が出始めるのではないかと思いまして。実際そのあたりをどのように考えておられたのかな、と」
どこかで見た顔だなと思ったら、建国宣言時に行った求人募集に応募してくれた人か。
ならそういった考えに自力で辿り着いてくれた理由にも納得だな。
「はい。まず大前提として、先ほどもお伝えしました通り厳正な面接を行ったうえで採用不採用を決めるため、そこで働きたくないと思っている方を採用することは絶対にあり得ません。
また少し前にこちらが主催となり求人募集をさせていただきましたが、あの一回で自国民の皆様が就職先に困らなくなったなんてことは一切思っておりません。
そのため、自国の各店舗から頂いた求人募集を掲載及びご紹介する施設を近日中にオープンする予定でおります。ですので、そういったご心配は大丈夫だと思いますよ」
「あっ、そうだったんですね……よかった~。まあ陛下のことですから、そこらへんも既に対策済みなのだろうとは思っていたのですが、こうやって直接お答えが聞けて安心しました。って、陛下に向かってこんな言い方失礼ですよね。すいません‼」
「そんな私のことを本気で心配してくださったが故に、こんな大舞台みたいな場所でご質問をしてくださっただけでなく、そんな嘘偽りのない心からの安堵を見せてくれた人に怒ったりしたら、皆様の上に立つ国王として失格ですよ。
改めてお礼を言わせてください。……ありがとうございます」
二度目のお礼の言葉を伝えた後、再びこちらが頭を下げると、質問してくれた男性は緊張や畏れ多さといったものではなく、純粋に照れくさそうな表情を浮かべながら、
「陛下がこの国に来てからまだ短いにも関わらず、いくら時間があっても伝えきれないほど色んな意味で良くしていただいて……本当にありがとうございます‼」
と、感謝の言葉で返してくれた。




