第13話 「 1閃に祈りを 」
毒の開花の猛威が俺を包み込む。身体中が重く、息が苦しい。けれど盾役として、ここで倒れるわけにはいかない。
「 ....まだ、まだ耐えないと....! 」
苦痛に顔をしかめながらも、必死で魔力を集中させて盾を修復し続ける。体力は限界だが、前線を支えるためには踏ん張るしかない。
ふと、久遠の視線を感じる。彼の目に強い信頼が宿っていた
「 .....頼むよ、俺たちの盾でいてくれ 」
その言葉が胸に響き、もう一度だけ力を振り絞った。
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碧が必死に耐えているおかげで、俺と苑里は燻に接近できている。
( 碧、ありがとう。お前がいてくれなきゃここまで攻め込めなかった )
そう心の中で感謝を伝え、俺たちは攻撃態勢を整えた。
「 苑里、いくぞ 」
俺がナイフを振りかざした瞬間、燻の毒竜が飛び出して俺の攻撃を逸らそうとした。
だが、俺は囮になる覚悟だ。毒の竜の攻撃を受け止めつつ、苑里に隙を作る。
その隙を見逃さず、苑里の鋭い蹴りが燻の腹部に突き刺さり、燻は奥の木に激しく打ち付けられた。
突き飛ばされた燻が、ゆっくりと木の根元から立ち上がる。笛を構えるその所作に、さっきまでの“ 遊び ”のような余裕は微塵もない。空気が張り詰める。
「 ──来る....! 」
苑里が、俺の隣から音もなく地を蹴った。迷いなく、迷いなんてあるはずもなく、あの殺気のまま一気に距離を詰める。
だけど──その動きに、横から一閃の光が割り込んだ。
「 ッ! 」
ヒュッと風を裂いたのは、一筋の光の矢。苑里の足元すれすれを通り過ぎ、まるで「 止まれ 」と告げるかのように地面に突き刺さる。
俺たちの耳に、はっきりと届く声があった。
「 一旦──集まって!! 」
紬の声だった。
一瞬の静寂。苑里は足を止め、振り返る。そして、俺もそれに続いた。
後方では碧が、まだ残る毒の霧を押しのけながら、盾を抱えてこちらに走ってくる。その顔は、疲労と闘志が入り混じった、強いものだった。
「 .....よく耐えてくれたな 」
そう呟くと、俺たちは一斉に後方、安都の位置へと集まっていった。
────────
安都の周囲に集まる俺たち。紬が真剣な顔で口を開く。
「 燻の動き、何か共通点に気付いた? 」
俺はすぐに思い当たることを口にした。
「 挑発に弱そうだ。煽ると動揺が隠せないみたいだし、攻撃の手が鈍る 」
安都も頷く。
「 あと、一人が囮になって敵の注意を引きつければある程度みんなが動きやすくなる。分散させるのが効果的そうね 」
話を聞いていた苑里が静かに手を挙げる。
「 じゃあ── 」
それに納得したのか、皆が頷き同時に武器を手に取る。
「 よし、それを狙おう。私たちが連携すれば、きっと突破口が見えるはず....! 」
決意が満ちた空気が、静かな戦場に染み渡った。
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燻がゆっくりと戦いの姿勢を整え始める。あの冷たい瞳が再びこちらを捉え、笛を構えた瞬間、紬が即座に弓を引いて放つ。
しかし、その矢は紫色の毒竜がふわりと身を翻し、簡単に防ぎ去った。
竜はそのまま紬へと突進していく。
「 来る....! 」
紬が構えるより早く、オレは身を挺して竜の突撃を受け止めた。
重く圧し掛かる衝撃に呼吸が乱れそうになるが、碧は冷静に睨み返す。
「 目の前にいるのに、オレたちを殺せないんだな....。どこか弱ってそうだな、燻 」
その言葉に、燻の仮面の奥から、わずかながら焦りが滲む。
そして燻は再び、毒の開花を発動させようとする。
「 キタ、“ 開花 ”の構えだ! 」
あの女──燻が、再び毒を撒き散らそうとしている。笛をゆっくりと持ち上げる姿は、まるで儀式でも始めるかのように静かだった。だけど、もう待ってなんていられない。
「 行け、今しかねぇ! 」
オレの声と同時に、動いた。
オレが右、苑里が左。そして、中央からは安都と紬の二人。
見事に三方向からの包囲が成立する。だが、燻もただの敵じゃない。開花と同時に、竜がまた姿を現した。狙いは、安都。
だが、それは用意に想定できる...らしい。さっきの苑里の提案によると挑発後に囲んだ時は、敵は開花を無効化できる安都を狙うのが最善策。とのこと。
「 ....っ、間に合え! 」
体が自然に動いた。足がもつれそうなほど毒で重いけど、それでも前に出る。盾を構え、毒の竜の突撃を真正面から受け止めた。
鈍い音とともに、体が少し浮く。でも──
「 殺らせるかよ! 」
オレは踏ん張った。盾は軋む。腕が痺れる。視界が霞んで、息も苦しい。でも、それでも。
「 ここまでやったのにまともな傷1つないぞ。それと、お前。攻撃手段もうねぇだろ 」
あの女の目が、かすかに揺れた。まるで焦ってるみたいに。
その刹那──
「 .....! 」
斜め後ろから、空気が裂けるような音がした。
飛び込んできたのは、久遠。
久遠のナイフが、霧を裂いてまっすぐ燻の首へと突き立つ。
──その瞬間、霧が晴れる。
毒の匂いも、音も、全部が一気に軽くなった気がした。
そして、燻の体がゆっくりと地面に倒れ込んでいくのが見えた。
────────
燻の体が地に伏せる。
──もう、動かない。
全身に残る毒の痛みが、まだ熱く疼いていた。けれど、目の前の脅威が静まり返ったことで、オレの中にも一気に力が抜けていく。
「 ...やったのか 」
膝をつきそうになる体を必死に支えながら、周囲を見渡す。苑里は細かい傷こそあるが、無事に立っていた。久遠もナイフを手にしたまま、警戒を解いていない。安都と紬も少し距離はあるが、互いに無事を確認し合っているのが見えた。
全員、生きてる。──それが、たまらなく嬉しかった。
「 ....っは、助かったな.... 」
重い息を吐きながら、オレは盾を地面に降ろし、少しだけ目を閉じる。
だが──その瞬間だった。
背後に、風を割く気配。
「 っ誰だ!? 」
反射的に振り返る。構える盾。けれど、そこには...何もいない。風の揺れすら、静かすぎる。
──違う。
違和感。空気のズレ。さっきまで“ いた ”はずの、あの女──燻の姿が、影も形も消えている。
「 .....あいつ、消えた...!?」
みんなが動揺したようにこちらへ駆け寄る。だが、誰も“ 逃げる音 ”を聞いていない。残された血の跡も、足跡も、何もない。ただ、ぽっかりと空いたその場所だけが、嘘みたいに静かだった。
「 どういうことだ.... 」
苑里の低い声。久遠も険しい顔で辺りを見渡している。
....倒したはずだった。力尽きたように見えた。なのに、いない。
まるで初めから存在していなかったかのように──
だけど、今は追跡が第一じゃない。オレたちの本来の目的を思い出さなければ。
「 ...アイツがここにいたってことは、近くに村の人たちがいるはずだろ 」
俺がそう言うと、安都が頷く。
「 うん。....確か、この辺りには洞窟のような地形があるって聞いた。近くを探してみよう 」
全員で警戒を解かぬまま、周囲を探索する。毒の濃度は薄れているが、念のために俺が先頭で盾を構えたまま歩く。
──そして、数分後。
木々の合間に隠れるように、ぽっかりと開いた岩壁の裂け目が現れた。
「 ....あった。あれだ 」
入り口には古い封印のような痕があったが、既に力を失っていた。俺たちは静かに中へ踏み込む。
中は、思っていたよりも広い洞穴だった。薄暗い空間の奥、わずかに震える声と、小さな足音が聞こえる。
「 .....誰かいる! 」
安都が声を上げた。
オレたちは急ぎ足で奥へと進む。
そこには──
擦り切れた服を着た子供たち。怯えた目の大人たち。十数人はいるだろう。毒の影響か咳き込んでいる者もいた。
────────
「 ...!安都様ですか? 」
洞窟の奥にいた女性が、こちらにすがるような目を向けて駆け寄ってきた。年の頃は三十代半ば、服はボロボロで顔にも疲労の色が濃い。けれど、その声には希望が宿っていた。
「 ええ、もう大丈夫──今、あの敵は退けました 」
安都が優しく声をかけると、女性はその場に崩れ落ち、震える手で顔を覆った。
「 ....よかった...子供たちが、これ以上.... 」
私たちは彼女を囲むようにしゃがみ込み、少し落ち着くのを待った。やがて、女性は小さく深呼吸をして顔を上げる。安都がそっと問いかけた。
「 ...話せる範囲でいいですけど。この場所で、何があったのか教えてくれませんか? 」
女性は頷き、震える声で語り出す。
「 ....先程、突然“ 笛の音 ”が現れました。すると私たちはその音の鳴る方向へ無意識に進んでいました。その結果この洞窟へ... 」
苑里が険しい顔をする。
「 なぜ、わざわざ閉じ込めるような真似を....? 」
彼女は答えるように、口元をきつく結んだ。
「 “ 神蝶のために人員が必要 ”....そう言っていました。私たちは“ 選ばれた ”と。.....でも、選ばれた理由なんて何一つ説明もなくて... 」
神蝶──
その名前を聞いた瞬間、安都の眉がピクリと動いた。久遠もちらりと俺を見る。俺は小さく頷く。やはりこの裏には、もっと大きな意図がある。
「 それに..... 」
女性は続ける。
「 ....1.2時間後、別の人物が来ました。緑髪の少年。燻と同じ側の者のようでした。様子を見に来ただけのようでしたが....“ 確認はした。問題ない ”とだけ言って、すぐに立ち去って.... 」
「 緑髪の少年.... 」
安都がつぶやいた。明らかに何かを知っていそうな表情。だけど、今はそれを追求する時じゃない。
──その時だった。
「 わぁっ!ひさしぶりの空だーっ! 」
洞窟の奥から、甲高い子供の声が響く。続いて、数人の小さな足音がばたばたと駆けてくる。
「 お兄ちゃんたちが助けてくれたの!? 」
「 すごーい!」
「 あのお姉さん、いなくなったの? 」
「 お腹すいたー! 」
ワイワイと子供たちが我先にと洞窟の外へと飛び出していく。その無邪気さに、俺たちもつい笑みをこぼしてしまった。
「 おーい、はしゃぎすぎるなー! 」
苑里が笑いながら呼びかけると、子供たちは振り返って手を振る。
久遠も肩をすくめながら小さく笑い、安都は女性の手を取って優しく言った。
「 もう、大丈夫です。ここから、私たちが外まで案内します 」
女性は深く頭を下げ、何度も「 ありがとうございます 」と呟いた。
俺は最後にもう一度、振り返って洞窟の奥を見た。
燻が....この人たちを、何のために必要としたのか。その真意は、まだわからない。
けれど──
今はただ、命を守れたことに、心から安堵していた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回は複数人で連携しながらの戦闘で、キャラ同士の関係性や成長も少し見えたかもしれません。次回もよろしくお願いします!
では、また次の話でお会いしましょう。──広瀬




