黒十一章 『黒い不死鳥団』
第十一章 『黒い不死鳥団』
「まあ、分かった。ともかく体には充分気をつけて、頑張りなさい」
「大丈夫ですよ、叔父さん、いや編集長。じゃ、今日はこれで」
それだけ、一気に話すと、神尾孝司は毎読新聞の大きな北陸支社ビルを後にした。
神尾豊編集中の顔色が冴えなかった。甥の神尾孝司の身の危険を心配しているのだろうか?
1分ほど考えていた後、やおら決心したかのように、スマホを胸ポケットから取り出すと、緊急に電話を掛けた。ここは編集長室で、周囲には誰もいない事を確かめて……。
「高崎君か、私だ、支部長の神尾豊だよ。
いや、まずい事になった。私の甥が、今回の『女子高生・生体解剖殺人事件』に重大な関連がある人物として君を疑っているんだ。
下手に警察にたれ込まれてはまずい。
いや、今回は、君は動かんでくれたまえ。
ともかく、かわいい甥ではあるが、だがあまりに、事件の核心に迫り過ぎている。
えっ、誰に頼むかって?
そんな心配はしなくていい。私は、もう、覚悟を決めているんだよ。
今度は、大日本国内運送の社長の斉藤貴史君に頼むつもりでいる。
あそこには、長距離のトラックの運転手が何百人もいる筈だ。中には、サラ金や株等に手を出して困っている者もいるやろう……。
金で話しをつける事は実に簡単や。
なあに、飲酒運転じゃなくて、単なる脇見運転なら、業務上過失致死罪でせいぜい懲役2~3年だ。甥の孝司には悪いが、大型トラックと激突してもらってあの世に行ってもらうしかあるまい。まあ、残念だがね……。
ああ、ありがとう。心配してくれて……。
しかし、これも、「黒魔術の恐怖で世界を支配する事を目指す」と言う我が秘密結社『黒い不死鳥団』の目的達成のためなんだよ。
感傷なんかにはとても浸っていられない。
今、ようやく、この日本発の、そして世界中で、恐怖の連鎖がスタートし始めたところなんや。正にこれからが正念場なんやぞ。これから、世界中でこんな怪事件を多発させるんや。
むしろ最大の問題は、今回の生体解剖実験とそれに連動する死体蘇生実験が完全に失敗に終わった事で、この件の真実の話が同士に伝われば、我が秘密結社の存在自体が危なくなってしまんや……。
甥の話しでは、君が、金田少年にリタリンと言う向精神薬を処方した話しまで知っている。
金田少年にリタリンを処方したのは、彼の能力の更なる超人化を目指したつもりだったのだが、うまくいかなかったかもしれんのう……。
ともかく今回の死体蘇生実験の失敗の全ての原因は、金田誠二の超人化が未完成のまま、見切り実験に踏み切った事で、更に金田誠二の黒魔術の腕が、まだまだ劣っていたと言う理由にするしか、今のところは、それしか言えまいのう…。
そうでないと世界中の同士に説明がつかんやろうからなあ…。
なお、甥の口封じのための資金は、ベルリンの本部から、スイス銀行経由で東南アジアの銀行を仲介して送金してもらうから、君が無理して用意する事はないよ。全く心配しなくていい。
神尾編集長は、自分の皮靴の踵と踵をカチッと合わせると、
「同士よ、『黒魔術により世界に闇を!そして支配を!』」と、合い言葉らしい言葉を最後に話して、神尾豊編集長はスマホを切った。
で、この話は、このままで終わる筈だったのだが……。




