第十二章 逆襲
第十二章 逆襲
あの、神尾孝司は、しかし、只では起きない人物だったのだ。
何と、自分の叔父さんの神尾豊編集長の机の下に、超小型の盗聴器をしかけていたのである。
帰りの車の中で、神尾編集長と高崎医師の会話をイヤホンで、聞いていたのだ。
「やはり、先輩の大学の先輩の五島睦夫氏の言った通りだったなあ……。
しかし、しかし、実の甥のこの私まで殺そうとは、一体、どんな組織なんだ。
大体が、今時、黒魔術で世界が変わると思っているとは、これこそ、狂気の団体だろう。一体、どうやって、この事実を、世間に訴えるかだなあ……。
先ずは、大型トラックには、気を付けなければ、こちらの身が危ない。
それにしても、果たして、どのようにして、この狂気のような『女子高生・生体解剖殺人事件』の真実や、謎の秘密結社『黒い不死鳥団』を、世間に知らしめれば良いのだろうか?」
運転中にも、神尾孝司の頭は、めまぐるしく動いている。
で、最終的に出した結論は、「虎穴に入らずんば虎児を得ず」との結論であった。つまり自分から『黒い不死鳥団』に接近して、情報を収集し、大学の先輩のルポライターの五島睦夫氏に暴露してもらう作戦だった。これは、非常に危険だが、逆に言えば、非常に効果的な作戦でもある。
そのためにも、まずは、高崎クリニックに行って、高崎医師に会ってみる事が先決だ。
病名は、とりあえず、「不眠症」等にしておこう。
ここで、正面切って、高崎医師に、戦いを挑むのだ。
車のカーナビは、高崎クリニックに行く設定にした。3D地図と音声案内で、金沢市郊外のクリニックに着いた。
白い壁の待合室で待っていると、自分の名前が呼ばれた。
中に入ると、40代半ばの医者が一人いた。
すると、高崎医師は、次のような、不思議な言葉を話したのだ。
「やっと、辿りついたねえ、神尾君。遅かったじゃないか?今、君の叔父さんの神尾豊編集長からも電話があったよ」
「やはり、こいつらは、裏で繋がっていたのか?ならば、こちらも、単刀直入に聞いてやろうではないか!」
「高崎医師、今日は、金田少年の事について、聞きに来ました。何でも、あの金田少年に、強力な向精神薬のリタリンや催眠術を使って、狂気の『女子高生・生体解剖殺人事件』を惹起したのは、貴方ですね!違いますか?」
と、大きな声で詰め寄ったのである。
しかし、高崎医師は、思いもかけない事を言ったのである。
「馬鹿な!リタリンは、現在では、ナルコプレシー(病的過眠症)とADHD(多動児)への治療薬として認可されいるだけだ。かっては、強度の鬱病にも使用できたのだがね。
ここに、金田少年の電子カルテもあるが、守秘義務上、見せられないので、代わりと言っては何だが、私が寄稿した『月刊:精神神経医学研究』の最新号に、「少年Aと『女子高生・生体解剖殺人事件』の関連についての一考察」と言う論文がある。まずは、これを読んでみたまえ」
と、神尾孝司の前に、一冊の真新しい月刊誌を差し出した。
そこで、手に取って、さっと読んで見ると、自分が今まで取材したりした内容と真逆の内容の論文であったのだ。
その論文は、医学論文でもあり、全て、理解できた訳では無いが、しかし、最低限の内容は、理解できたのである。
論文の要点とは、
①金田少年(少年A)は、交通事故に遭って、天才的能力が目覚めたのではなくて、もともと、天才的能力を持って生まれて来たものの、何らかの理由でその能力が封印されていたが、交通事故に遭いその封印が取れた事。それにより、一挙に能力が開花した事。
②この能力の開花と同時に、脳内神経にも何らかの異常も生じ、幻覚や幻聴を感じるようになったものの、統合失調症の「陽性症状、陰性症状、認知機能障害、気分症状」とは、明らかに異なるため、メジャートランキライザー等の使用は見合わせた事。
③統合失調症ではないもの、異常な能力の開花は、やがてシリアルキラー(猟奇殺人犯)が有する、病的な『女子高生・生体解剖殺人事件』へと、繋がっていくものの、ここに、それを導く第三者の関与(催眠誘導)が疑われる事。
④金田少年(少年A)は、級友らに、リタリンの服用を吹聴してらしいが、私の処方した薬は、ベンゾジアゼピン系でも極弱いリーゼ錠であり、むしろ、神経の極度の興奮状態を治めようと勤めた事。
⑤以上の治療も結局、徒労に終わり、例の、『女子高生・生体解剖殺人事件』が、実際に、行われた事と、その反省点。
しかし、この論文を読む限り、自分が今まで、取材したりした内容とはあまりに話が違うのだ。では、自分の努力は、何だったのか?
「高崎医師、これは、一体、どう言う事です」
「それを今から、君の叔父さんの神尾豊編集長をも、ここに呼んで、この狂気の事件の謎を、説明しようと思う。まずは、叔父さんのスマホに電話して、至急、ここに来るように連絡してみてくれ」
どこか、狐に騙されたような感覚で、神尾編集長に連絡した。
「孝ちゃんか、分かったよ。そこへ言って、三人で、この狂気の事件の本当の真犯人を暴こうでは無いか?」
「はあ……」と、神尾孝司は、ため息をついたのだ。




