舞台へ②
稽古場に到着すると、他の役者達を紹介されていく。
皆これで舞台が出来ると喜んでいた。
早速今回の内容について台本をもらい、あらすじを説明された。
物語としては数千年前にあった勇者と魔王の戦いについてだと言われる。
「何でも屋さんには魔王役をやってもらいます!」
私が魔王役………!!!
当時の魔王は世界にとって悪だったと知ってはいるが、魔王という響きに嬉しさが込み上げてくる。
しかし、ここではしゃいだらカッコ悪いのであくまでクールに対応した。
魔王役の動きは至ってシンプルだった。
登場したら、高らかに笑い、手下達を勇者に向かわせ舞台袖に引っ込む。
クライマックスで再登場し、勇者に襲い掛かって倒されるといった具合だ。
セリフもかなり減らしてもらったので、これなら覚えられそうだと思った。
「それでは、魔王登場前から読み合わせしましょうか」
読み合わせとは動きなしで台本を読む事らしい。
カシムは他の役者が読んでいる中、自分のセリフを今か今かと待っていた。
『貴様が魔王か!』
『フハハハハハ、ソウダ、ワレコソマオウダ!ヒレフセニンゲンドモヨ!』
「ストップストーップ!!何でも屋さん、セリフがちょっと固いです。
気持ちを込めて魔王になりきってみてください」
舞台監督的に何かが違ったらしい。
カシムは首を傾げた。
気持ちを込めるってなんだ?
その後も何度かセリフをやってみるが上手くいかない。
「うーん、そしたらセリフは一旦置いといて、動きをやってみましょうか。
お手本を見せるので同じようにやってみて下さい」
「むぅ、わかった」
別の役者が勇者と魔王の戦いを再現する。
カシムはそれを腕組みをしながら、目だけを動かし観察をした。
「じゃあ、何でも屋さん。ゆっくりでいいんでやってみてください」
「大丈夫だ。さっきと同じでいい」
舞台監督はえっ?と驚くが、本人が言うならやってみてもらおうと思い開始の合図をする。
カシムは先程の役者に比べ、キレのある動きで立ち回りを表現した。
元々、魔法であれ格闘術であれ見たものをそのまま真似をするのは得意なのだ。
これには舞台監督も大満足したようだ。
拍手をしながら、目を輝かせる。
その調子で動きの部分は余裕でクリアしていく。
気がつけば、魔王の出番の動きを全てマスターしてしまった。
試しにカシムのみセリフなしで役者全員で最初から最後までやってみたところ、問題なく終えられた。
舞台監督は凄い逸材だわと喜んでいた。
一先ず、まだ稽古期間があるので夜になったところで解散した。
また明日稽古をするとの事だ。
家に帰ると、リリアムも帰ってきていた。
夕食を囲みながら、今日あった出来事を報告し合う。
食事マナーには煩かったのに、今ではすっかり食べながらが板についてしまった。
リリアムの方は滞りなく終えられたらしい。
依頼料もしっかり貰ってきていた。
カシムも舞台に出る話をすると、彼女は凄く驚いた。
それと同時に想像したのか、クスクスと笑う。
セリフが上手く言えない事を相談してみたが、流石に良い答えは返ってこなかった。
その代わり、もし上手く言えないままだった場合についての対処法を伝授してもらう。
本当は自分の力だけでやりたいが、依頼主の舞台を成功させないといけないと渋々了承した。




