舞台へ③
そして稽古を重ね、遂に本番をむかえる。
カシムは魔王役の衣装に着替え、少しテンションが上がった。
勿論、衣装と言ってもチープな感じではあったが、魔王の衣装というのが重要なのだ。
黒を基調として、所々に金があしらわれている。
なんだかとても格好良く見えた。
本番にはリリアムも観にくると言っていた。
客席の方が賑わい始めたので、きっと彼女も来ているだろう。
舞台は広場に手作りで設置され、近くに控え室用のテントが張られている。
役者達はその中でソワソワと開始を待ってる状態だ。
セリフや動きをシュミレーションしている者や、ストレッチ等をして緊張をほぐしている者、腹が減っては戦はできんと飯を食べている者もいる。
「お待たせしました!ご来場ありがとうございます!
毎年恒例のこの舞台、是非お楽しみくださいませー!!」
舞台監督が中央で演説をする。
普段この街ではこの様な娯楽が少ない為、用意した席が全て完売していた。
客も待ってましたと歓声をあげている。
まず、勇者が召喚されるところから始まる。
その勇者は日本という異世界からやって来た。
絶大な力と魔力を持ち、その力を最大限に活かす為に国の騎士団長と訓練を開始する。
その間にも魔王軍によって無慈悲に命が散らされていく。
勇者は魔王軍と戦いながらも仲間を見つけ、共に挑んでいく。
そして、魔王登場。
『貴様が魔王か!』
『フハハハハハ、そうだ、我こそ魔王だ!
ひれ伏せ人間どもよ!』
リリアムは舞台にカシムが登場し、ハラハラしつつ気持ちが高揚した。
毎日の稽古により、セリフ部分も合格と言われたと昨夜嬉しそうにしていたのを思い出した。
仮にセリフがダメだったとしたら、セリフだけ別の役者に喋ってもらい、それを魔法でカシムが喋っているように見せるつもりだった。
「これなら大丈夫そうかな」
ぽそりと呟き、カシムの晴れ姿を目に焼き付ける。
勇者は魔王が放った手下達と戦い、その最中仲間を失ってしまう。
そして失った仲間の分まで戦うと心に誓うのであった。
それからも魔王軍の妨害があったが、やがて魔王城に到着し決戦の時がきた。
ここからが魔王の一番の見せ所、立ち回りである。
勇者の振るう剣と魔王の剣が交差し鍔迫り合いをする。
いつもならば剣だけの立ち回りだが、カシムが魔法を使えると舞台監督が知り、光で攻撃魔法を表現する事にもなった。
その為、これまでにない激しい戦いの様子に観客も思わず手に力が入り、固唾を飲んで見守っている。
そして、魔王は倒され、その魂が封印された。
世界が平和となり、勇者は讃えられ終幕。
いつもならすぐに拍手が来るのだが、なかなか来ない事に役者達は内心ドキドキする。
ただそれは舞台の凄さに感動し放心していただけで、一人の拍手をきっかけに声援か歓声が怒涛の勢いで押し寄せた。
これには役者達も大いに喜び、涙を浮かべる者さえいた。
カシムも舞台で誇らしげな顔をしている。
リリアムもカシムに向けて、力一杯拍手をし、叫んだ。
「カシムー!!!!かっこよかったよー!!!」
その声が聞こえたのか、少女に視線を合わせ、ニヤリと笑った。
「何でも屋さん、本当にありがとうございました!これ依頼料です!」
思っていた以上の支払いに一部返そうとするが、気持ちの分上乗せしたと言われ有り難く受け取る事にした。
「何でも屋さん!もし舞台に興味がありましたらいつでもお待ちしてますね!
何だったらまた依頼します」
「ふっ、気が向いたらな」
舞台監督の女性は大きく手を振りながら稽古場に戻っていった。
自分も帰ろうと振り返ると、少女が少し距離を取って待っていた。
「お疲れ様!すっごく良かったよ!もうカッコよかった!!!」
「そうか」
リリアムから舞台の感想を熱の入った様子で話されつつ、家路についた。




