舞台へ①
カシムは困惑していた。
というのも、目の前にいる人物が無理難題を言ってきたからである。
今朝は木々に止まっている小鳥達のさえずりで目が覚めた。
大きく伸びをする。
眠い目を擦りながら日課のポストを確認しに行くが、特に何も入っていなかった。
キッチンに移動すると少し冷めた朝食と共に置き手紙があった。
【カシムへ。八百屋さんの手伝いの依頼が来たから行ってくるね】
だからいないのかと呑気に思い、リリアムが作ってくれた朝食に手をつける。
最近料理にハマっているらしく、様々なジャンルの物が出てくる様になった。
ただ、組み合わせの冒険をしたりもするのでいつも美味しいとは限らない。
一口二口食べ、異常が無いことを確認する。
前に出た生の青魚に黒蜜と生クリームをかけたものは何というか酷かった。
思い出しただけでも気持ち悪くなりそうだ。
朝食が終わり、依頼が無いなら久し振りに本でも読もうと席を立った時、玄関の鈴が鳴った。
何でも屋の依頼かもしれないので、足早に移動する。
玄関の方へ行くと、若い女性がキョロキョロと店内を見ていた。
更に近づくと音に気付き、目があった。
「あ、すみません。ここ何でも屋って聞いてきたんですけど」
「そうだが」
「依頼したい事があるんですけど良いですか?」
「詳しく聞こう。奥へ…」
女性を応接室に案内し、ソファーに座らせ、戸棚から茶葉を出し、紅茶をいれる。
菓子もテーブルに置き、どうぞと促した。
女性は軽く会釈をしてそれを口に運んだ。
ほぅと一息つくと緊張していたのが、少し和らいだみたいだ。
「依頼内容を聞こうか」
「はい。私、舞台の監督をしているんですが、急遽欠員が出てしまって役に合いそうな見た目の人を探してるんです」
「ほう。どんな見た目だ」
カシムは忘れない様にメモをとる用意をした。
「髪が黒くて、身長がそれなりに高くて、クールでつり目の男性ですね………って、あーー!!!!」
女性が突然指を差しながら叫んだので、カシムは目を丸くする。
「なんだ!こんなところにいるじゃん!!
何でも屋さん!舞台、出ましょう!!」
ガシッと両手を強く握られた。
「ぶ、舞台。私は芝居などやった事がないぞ」
「だーいじょうぶです!本来のセリフはある程度別の人に回すんで、覚える量は然程多くありません!」
女性の圧が凄くて、カシムは少し身体を後ろに引く。
しかし、彼女は更に乗り出してきた。
「だ、だが、私は覚えるのが得意ではない」
「カンペ!カンペ出すんで最悪動きさえ何とかなれば余裕です!!お願いします!!」
女性は目を輝かせながら、獲物を取り逃してなるものかという勢いだ。
これはハイと言わないと帰ってくれなさそうである。
カシムはうーんと唸り、もう一度念押しをした。
「本当に私でいいんだな?後で後悔しても知らないぞ」
「問題ありません!宜しくお願いします!」
ここまで言い切られては断りきれないと渋々承諾をする。
女性は人を探す手間が省けたとかで大いに喜び、再度握手を求めた。
「そしたら早速稽古場に向かいましょう!善は急げです!」
カシムは紅茶と菓子をそのままに、腕を掴まれ引っ張られていった。




