聖なる村①
何でも屋を開店させてから一ヶ月が経った。
最初の客足こそ良くなかったが、チネハがカフェの常連に話をしたり、リリアムが近所付き合いを頑張ったりで、そこそこ依頼が来る様になった。
カシムはというと、無表情でコミュ力もあまり無いので、基本的に店舗で留守番させられたり、リリアムに付き添って彼女のやる事のマネをしたりしていた。
今回も依頼でギズベリン王国から少し離れた村へ向かっている。
だが、場所は合っているはずなのに肝心の村が何処にもない。
今朝ポストに投函されていた手紙をもう一度見てみる。
『噂でお聞きしましたので、藁にもすがる思いで手紙を書きました。どうかうちの村に来てください。場所はここです』
という依頼人の名前も無い手紙と地図を引っ張り出す。
最初は悪戯かと思ったが、念の為確認しに行こうと少女が言うので足を運んでいるわけだ。
「やっぱりここら辺だよねぇ。なんで何処にもないんだろう」
「やはり悪戯ではないか?」
「うーん、それにしては何か引っかかるんだよね」
少女は地図と睨めっこをしながらウンウン唸っている。
カシムは軽く溜息をつき、村が目視出来ないか辺りを捜索してみた。
木や草の陰をくまなく見てみるが特に何も見つからない。
やはり悪戯だと少女に言おうと振り返ると、彼女は手紙を自分の顔に押し付けていた。
「リ、リリアム?何をしているんだ?」
「最初は気が付かなかったんだけど、この手紙なんだか良い匂いするんだよねー」
クンクンと匂いを嗅ぎながらブツブツと呟いている。
それを見ていると、なんともいえない気分になった。
すると何か閃いたのか、手紙からが顔を離し、火力を最小限にした火魔法を手紙に当て始めた。
何をやっているんだと咎めようとした時、手紙の異変に気がついた。
リリアムが火で炙っているところから文字や絵が浮き出てきているではないか。
それによると、今いる場所より数十メートル南に行き、石碑の前で隠蔽魔法を解除する必要があるらしい。
依頼をしてきているのに、回りくどい事をしてくれると思った。
一先ず、それに従い移動する事にした。
道なき道を歩き、草木に阻まれながら進む。
しばらく歩くと地図に書かれていた石碑を見つけた。
手紙の方に解除方法も記載されているので、その通りにやってみる。
すると一瞬空間が歪み、無かったはずの道が現れた。
二人は顔を見合わせ、その道に足を踏み入れた。




