仲間?②
『とりあえず!今仕事中だから夕方になったらまた来てちょうだい!絶対によっ!!』
と、昼間に言われたのを律儀に守って、言われた通り店の前で待っていた。
以前感じたヤバい雰囲気がなかったからかもしれない。
すると中から仕事終わりのチネハが出てきた。
服装はシャツとズボンと、いたってシンプルな物を着ている。
逆にあの変態衣装だったら色んな意味でここにもいられないだろう。
彼はこちらに気付き、早歩きで近づいて来た。
合流すると少し口をへの字にしつつ、ぶっきらぼうに指を差した。
何処かへと向かう様だ。
返事も聞かずに歩き出してしまったので、とりあえず着いていく。
呪いの事もあるし、そうそう攻撃してくる事もないとふんだからだ。
やがて、店屋の賑わいから閑静な住宅街へと移動した。
昼間の煩さは何だったんだというくらい、石畳の道のりを一言も喋らず歩いていく。
カシムとリリアムは目を合わせ、首を傾げつつ着いていった。
そして、簡素な一戸建ての前でチネハは止まり、鍵を開け中に入った。
予想外の展開に呆けていると、入ってきてと手招きされる。
二人は顔を見合わせ、念のため警戒しつつ中へと入った。
室内は表のイメージと違い、なんというか凄かった。
意味のわからない像がそこかしこに飾ってあったり、壁が色とりどりに塗られていたり、花がいたる所に飾ってあったり。
まるでチネハをそのまま表現しましたと言わんばかりの感じだ。
趣味の悪い椅子に座る様に促され、言われる通りにした。
リリアムも怖々しながら座る。
当の家主はお茶をいれている。
部屋は気持ち悪いが、茶葉の香りはとても良い。
それから三人分のお茶とお菓子が用意された。
飲み食いを躊躇っていると、チネハは溜息をつく。
「毒なんてはいってないわよ」
彼は自ら進んで食べたり飲んだりしてみせた。
カシムは大丈夫だと確認すると、お茶を口に運ぶ、そして目を丸くした。
リリアムも続いてお茶を飲む。
「美味しい……」
「当たり前でしょ。誰が入れてあげてると思ってるの?」
今のところ、チネハが何をしたいのかがわからない。
ただ単にもてなす事が目的なわけないだろう。
こちらは彼が人生を180度変えるくらいの呪いをかけたのだから。
恨まれていてもおかしくない。
だが、何故か敵意を感じないのだ。
その証拠にカシムも警戒を解いている。
わけがわからないなら目的を聞けばいい。
リリアムは彼に話しかけてみた。
「ねぇ、言われるままに着いてきたけど、一体どういうつもりなの?」
「そうねぇ、昔話をしましょうか」
「昔話?」
それから、呪いをかけられてからの事をチネハは語り出した。
あの後、酷く癇癪を起こしたが呪いが怖くて憂さ晴らしをする事も出来ずにいた。
他の悪魔達にも笑われ、抵抗しない事を良い事に悪戯を仕掛けられたりした。
やり返したくても、善行しか出来なくなる呪いをかけられている。
破れば発狂して死ぬと少女は言っていた。
内容が曖昧で具体的な条件がわからない為、人が関わる事に関して行動に移せない。
人の死は軽く思えるのに、自分の死はとても恐ろしく感じた。
そこで誰にも見つからない様に変装をし、人間領へと逃げてきた。
だが、今までお腹が空いたら盗みを働き、寝床が欲しければ家主を殺して奪っていた自分にとって、どうしたらそれらをせずに生きられるのかがよくわからなかった。
今、冷静に考えてみれば野宿をしつつ、自給自足をすれば良かったと思える。
善行といっても、人限定とは言っていない。
植物を育てるのも世界にとっては善行であるから、呪いは発動しないだろう。
だが、当時はそんな事考えもしなかった。
そうしているうちに段々と精神的に追い込まれていく。
遊びの為ならどんな事も思いつけたが、今は何も思い浮かばない。
善行とは一体何をすればいいんだ。
どれくらいの期間で善行をしないと発狂死するのか。
途方に暮れながら、フラフラと街を徘徊する。
周りの人間達がヒソヒソこちらを見ながら話している。
こんな惨めな姿を見ないで欲しい。
俯きながら坂道を目的もなく歩く。
そして空腹のせいで目眩を起こし、道端で倒れてしまった。
最早起き上がる気力も無く、そのまま意識を失った。




