森へ⑦
リリアムに指摘され、獣人は何か言い返そうと口をパクパクさせる。
しかし、何も思い浮かばなかったのか観念した様子で溜息を吐き、両手を上げた。
「あーあ、また僕の負けだよ、ドロッセル」
「ふふ、そうみたいね。ヨハン」
突然目の前に女が現れた。
黒を基調とした服に大きなリボンとフリルがふんだんにあしらわれている。
頭にはツノが生えている事から悪魔だという事がわかる。
女が現れたのと同時に先程まで話していた獣人は姿を変えた。
お揃いの黒を基調とした服にリボンタイをつけている。
こちらもツノが生えている。
二人の悪魔が眼前に立ち、リリアムはジリっと後退りをした。
カシムは別だが、基本的に悪魔はタチが悪い。
遊びと称して何をするかわからないのだ。
ドロッセルと呼ばれている女の悪魔が、こちらに近づいてきた。
ズイッと顔を寄せ、笑みを浮かべる。
「あなた、よく見破ったわね」
今のところ敵意は無い。
仕掛け人を見つけた事に対して、喜んでいる様だ。
「…前に遊びで一人の少年を陥れようとしていた悪魔がいたの。その不可解な点が似てると思ったから今回の犯人は悪魔なんじゃないかと思ったのよ。姿を変える事も可能だし」
冷や汗を滲ませつつ、いつでも防御魔法を張れる様に準備をする。
ドロッセルはクスクスと笑い、更に尋ねた。
「そうなの。じゃぁ、今回の仕掛けはわかる?」
「詳しくはわからない。でも、何らかの方法で虫を変異させ、舞台へ向かう為の通路に仕掛けたんじゃないかと思っているよ」
女はそれを聞き、おおーと感嘆し拍手をする。
そして目を細め、己の口元に指を置く。
「そう、正解よ。種明かしすると、獣人を凶暴化させる毒を持った虫を使って、闘技場参加者五人をバレる事なく凶暴化する事が出来たらヨハンの勝ちってなってたの」
ドロッセルが言うには、使った虫に関してはリリアムが思った通りの虫であり、その虫は自分の趣味で作ったとの事。
そして通路の上壁部分にその虫が出られない様に魔法で囲いを作り、参加者が通るタイミングで解放し、刺させるというものだった。
「ただ、さっきの結果をみると個人差がまだあるみたいなのよね」
ほぅと息を吐き、悩ましげな表情を浮かべる。
「まぁ、いいわ。それなりに楽しめたし、そろそろ行きましょうかヨハン」
「あ、ちょっと待ってよドロッセルー!」
先に女が消え、その後男も消える。
意外にもあっさりと退散してくれた。
少女は張り詰めていた緊張の糸が切れ、脱力する。
悪魔二人相手にする事態にならなくて良かったと心の底から思った。
そうなったとしても多分異変に気付いてカシムは来てくれたと思うが、本来の目的が達成出来なくなる恐れもあった。
「とりあえず、一件落着……?」
あの悪魔達は今回は満足した様子だったのでこれ以上関与してくることはないだろう。
いや、無いと信じたい。
観客席へと戻るとちょうど表彰式に移るタイミングだった。
特に滞りなく試合が出来ていたようだ。
上位三名が名前を呼ばれ、壇上に上がっている。
その中にカシムの姿もあった。
無事、優勝出来たみたいだ。
出場登録時に書いていた願いが獣人の長によって読み上げられる。
そして、長は宣言した。
「これより我ら獣人はカシムを仲間として認めることを誓おう!そなたが呼ぶ時、我らはそれに応えよう!!」
大きな歓声と拍手が会場を埋め尽くした。
リリアムも同じ様に優勝者を讃えた。
カシムと合流し、事の顛末を話した。
すると、少女の頭を撫で始める。
それを嬉しいような恥ずかしいような気持ちで受け止めた。
あの二人の悪魔、今回は退散したが次はどうなるかわからない。
動向を追う事は出来ないが警戒は怠らない様にしよう。
「次は何処へ行く?」
「んー、とりあえずご飯が食べられるところに行かない?なんだかお腹ペコペコだよ」
少女のお腹がグゥーと鳴ったのが聞こえた。
それを見て、フッと笑う。
「何が食べたい?」
「………お肉以外でお願いします」
わかったと返事をし、夜の屋台を巡る事にした。




