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森へ⑥

 再び観戦しようと客席に戻ると、少女は何か考え事をしていた。


 カシムの気配に気付き、口を開く。


「ちょっと気になる事があるから調べてきていい?」


「ああ。それならこれを持っていけ」


 手を差し出すと、固い何かを置かれた。

 見てみるとそれは黄金色の宝石がついた指輪であった。

 なんで指輪?と思い、彼の顔に視線を移す。


「リリアムに危険が及んだ時、それがお前を護ってくれる」


「ありがとう。そうならない様、気をつけて行ってくるね」


 貰った指輪を中指につけ、観客席を離れた。




 リリアムは裏手の関係者入口に到着した。

 スタッフがいたが、先程カシムと一緒にいるのを見られていたので止められず入る事が出来た。


 廊下やロビーでは参加者やスタッフが行き交っている。

 そこで、今回の事件についての聞き込みをする事にした。


 被害者と直前まで喋っていた者や案内役のスタッフ等、あんな事態になるまでの足取りを追った。


 調査の結果、共通点があった。

 同族食いをした獣人と破裂した獣人は、共に控え室では普通だった。

 出番だと係りに呼ばれ、舞台に繋がる通路で係りと分かれ、通路を出る時にはあの様に変貌していた。


 ただ共通点はあったものの、これぐらいしかわからなかった。

 なので、同族食い獣人を救護室に運んだ人物にも話を聞いてみる事にした。


「ああ、あいつか?あの後も少し暴れてたんだが急に気を失っちゃったんだよな。その辺に放置するわけにもいかないから救護室に運んだんだ」


「何処か変なところとかなかったですか?」


「……変ねぇ。そういえば首が虫刺されみたいに赤くなってたかも。あまり覚えてないけど」


「虫刺され………ありがとうございました」


 リリアムは礼を言い、その場を後にした。

 そして空間魔法内から昆虫図鑑を取り出し、片っ端から読み進めていった。

 といっても、人を刺す虫には限りがあるのでそこまで苦ではなかったが。


 読んでいる内に気になる虫を見つけた。

 リリアムが住んでいたところでは馴染みがなかったが、他の生き物に口吻というものを刺し、血を吸うというものだ。

 しかも吸っている事を悟られない為、自分の唾液を注入して痛みを感じさせない様にしているらしい。


 しかしその虫はこの辺には存在しない。

 もし何らかの変異でいたとしたら、他の人達にも被害が及ぶだろう。


 他の人達を巻き込まずに、ピンポイントで狙う方法……。


「……通路で異変。……虫。もしかして……いやまさか」


 リリアムは一つの結論に至るが、突拍子もない事なのでにわかに信じられなかった。


 一先ず、スタッフの一人にスタッフ表を見せてくれる様に頼んだ。

 始めは断られたが、今回の異変についてを話したらしぶしぶ見せてくれた。

 賭けではあるが、やってみる価値はあると思い、スタッフ全ての名前を記憶する。


 方法は至ってシンプルだ。

 スタッフ一人一人に名前を聞いていき、少しでも言い淀んだ者を探すというものだ。

 獣人の名前は無駄に長く、言い難い。

 だが、もし本人であれば間違える事なくスラスラ言えるだろう。


 しかし、本人でなかったら?

 仮に頭で記憶していても口に出すのとは別問題である。


 早速、スタッフに名前を聞き始めた。


「あなたの名前を教えてください」


「え?ガザハリャモノミカ=オバッタキャラヌヤソ=ナハャモワジャパだが?」


「ありがとうございます!!お仕事頑張ってください!!」


 次々と聞いていくが今のところ疑う余地がない。

 残りのスタッフも僅かだ。


 検討外れだった場合、振り出しに戻ってしまう。

 祈る様な気持ちでスタッフを探していると、人気のないところでキョロキョロしているスタッフを見つけた。

 なんだか怪しい。

 駆け寄り、声を掛ける。


「あの、突然ですみませんが名前を教えてもらっていいですか?」


「ひぇっ!?な、名前?あー……キャナリマノゾ……バ…バヨッンモ…ネャルオゴム……えーと…」


 あからさまに言えていない、ビンゴだ!!

 貰った指輪に手を添え、心を落ち着かせる。


「あなたはどうして自分の名前が言えないんですか?」


「それは、最近結婚して名前が変わったからだよ」


「獣人は結婚しても名前はほぼ変わらないはずですが?」


「えーと、ちょっと風邪を引いてて……ゴホゴホ」


 怪し過ぎるにも程がある。

 ふぅと溜息をもらし、キッと睨みつけながらその獣人に指を差した。


「あなた………もしかして悪魔?」


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