森へ⑤
カシムは控え室を経由し、少女の元へと戻った。
少女は初戦おめでとうと労ったが、その表情は浮かない。
やはり、あの試合が頭から離れない様だ。
しかしこの闘技場で優勝するのが、獣人を仲間にする一番の近道だ。
このやり方が最も獣人に効果が高い。
だからこそ、心配だろうが辞めてとは言えなかった。
大丈夫、カシムなら負けないと信じて待つしかない。
カシムの試合までまた少し時間が空く、対戦相手となりそうな者の戦いぶりを観戦する事にした。
二回戦目は今のところ滞りなく進んでいる。
観客達も一大娯楽だからか凄惨な光景を観たにも関わらず、再び席が埋まりつつあった。
そして次はいよいよ問題の肉食系獣人が登場する。
司会者や観客も大丈夫なのかと固唾を飲んで出てくるのを見守っている。
少女の手にも力がこもる。
まず始めに別の肉食系獣人が出てきた。
武器は剣を使用する様だ。
緊張した面持ちで抜刀の姿勢をとっている。
続いて、問題の獣人が出てきた。
ところが初戦の時と雰囲気がまるで違う。
片手を上げ、観客にアピールをしているのだ。
だが、会場が静まりかえっている為、首を傾げている。
この獣人は先程の獣人と同じ者なのかと皆思ったが、雰囲気以外の武闘家みたいな風貌は一致している。
更に司会者が呼んだ名前も一致している為、間違いなくあの獣人であるのは確かだとわかった。
司会者が戦闘の合図をする。
両者ともに相手に向かって走り出した。
今のところ、普通に戦いが行われているが、いつ異変が起きるかもわからない。
依然として、歓声をあげる者はいなかった。
剣が空気を切る音、気合が入った掛け声が聞こえ始めてから数分が経とうとしていた。
突如武闘家獣人が劣勢となり、敗退した。
剣の獣人は高らかに己の武器を空へ掲げる。
それを観て、歓声や拍手が次第に大きくなっていくのを感じた。
リリアムは何事もなくて安心したのと同時に疑問に思った。
初戦時の武闘家獣人はまるで獰猛な獣だった。
なのに、今はガラリと変わり、あまつさえ敗退した。
何かがあの獣人にあったとしか考えられない。
「カシム、そろそろ出番だよね?私も途中まで一緒に行っていい?あの獣人と話がしたい」
カシムは頷き、共に控え室方向へと向かった。
結果から言えば、あの獣人は何も覚えていなかった。
舞台に繋がる通路を歩いていたところまで覚えているが、気が付いたら救護室に寝かされていたらしい。
近くにいたスタッフに話を聞くと、脂汗を垂らし震えながら自分の勝利を告げられたとの事だ。
どう勝ったのか聞いても皆口をつぐんで教えてくれないとぼやいていた。
どうやら異変が起こったのはその時だけみたいだった。
武闘家獣人に自分が勝利した状況の説明を問われたが、流石に答えることが出来なかった。
同族食いなど耳にした日には発狂してしまうかもしれないと思ったからだ。
武闘家獣人にはなるべく早くここから立ち去った方が身の為だと告げ、カシムは控え室へ、リリアムは観客席へと足早に移動した。
係りから名前を呼ばれ、二度目の舞台へと上がる。
対戦相手はまだ来ていないみたいだ。
相手側の通路を見ていると、人影が現れ始めた。
だが、足取りがなんだかおぼつかない。
ようやく日の光が当たる位置まで出て来たと思った時、その姿の異様さに目を見開く。
草食系獣人の目は在らぬ方向へとギョロギョロ動かし、口からは血が混ざった泡が垂れ流されている。
前に進む姿も、操り人形の様にカクカクしていた。
武闘家獣人の時とは様子が少し違うが、おかしいと言うことはわかる。
観客席でこの獣人の戦いぶりは観ている。
見た目にそぐわない巨大な斧をぶん回す姿が印象的だった。
それなのに、今は大事な斧を持たずに歩いているではないか。
草食系獣人は舞台に上がるのと同時に奇声を発し始めた。
その勢いのまま大きく痙攣をし、口のみならず目からも血を流し、発する奇声は大きくなっていく。
「きぇぇぇあぎじゃべぶがだげぇぇ!!!」
血はどんどん溢れ出し、やがてパンッという破裂音と共に草食系獣人の身体は風船の様に弾け飛んだ。
舞台上は血塗れになり、弾けた肉片がぼたぼたと落下した。
司会者やカシムにまで血が及ぶ。
「え………えー……しょ…勝者……カシムー……」
目の前で起こった出来事に動揺し、なんとも煮え切らない勝者宣言となった。
客席は案の定どよめいている。
リリアムは先程とはうってかわって真剣な面持ちで舞台を眺めていた。




