森へ③
闘技場開催当日。
手早く準備を済ませ、会場へと向かう。
トーナメント制で自分の出番は後の方なので、少女と共に観客席に上がった。
舞台上には拡声器を持った獣人が何やら喋っていた。
その獣人が声を出す毎に会場の歓声も大きくなっていく。
そして、次々と試合が開始されていく。
客席では飲み物や食べ物を持った売り子が笑顔で接客をしている。
自分達も飲み物を注文した。
そうして見ていると、受付で少しだけ話した草食系獣人が出てきた。
自分の筋肉を客席にアピールしつつ、舞台へと上がる。
対する相手は肉食系獣人だ。
ただ、なんだか様子がおかしい。
目がギラギラしていて、酷く涎を垂らしている。
低く唸り声をあげ、今にも攻撃を仕掛けてきそうだ。
獣人は限界まで絶食を強いられると、元の獣の血が騒ぎ凶暴化することもある。
だが、彼の身なりは普通の武闘家といった感じで、特に飢えている要素がなかった。
草食系獣人もその異変に少し動揺したが、すぐに持ち直し戦闘態勢に入った。
司会の獣人が何度目かの対戦開始の合図をする。
草食系獣人はすぐに飛び掛からず、相手の出方を窺っている。
やはり少し慎重になっているようだ。
そして、肉食系獣人は動く素振りを見せた瞬間、既に自分の目の前に立っていた。
大ダメージを防ぐ為、咄嗟に防御姿勢を取る。
肉食系獣人は大きく口を開け、その腕に噛み付いた。
牙が皮膚を破り、血が滴り落ちる。
だが、耐えられない程ではない。
押し返そうと力を込める。
その時……!
ブチィッ…………グチャクチャ!!
「ぎゃぁぁぁああああああ!!!!!」
肉食系獣人は相手の丸太のような腕の肉を噛みちぎった。
あろうことかその肉をクチャクチャと食べ始めたのである。
獣人は通常、他の獣人の肉を食べる事はない。
それは獣人達がよく知っている事だ。
その為、観客席から劈くような悲鳴が飛び交った。
腕の肉を千切られた獣人は自分の衣服を破り、素早く止血をする。
だが、止まらない血と痛みに明らかに焦りの表情を感じる。
血が流れすぎる前に決着をつけたい。
意を決して、肉食系獣人の方へと飛びかかる。
もしダメならワザと場外に出るか、降参と言おう。
攻撃は拳が当たるすんでのところで避けられた。
軽く舌打ちをし、降参の二文字を言おうと口を開こうとすると、相手の大きな手で口を塞がれる。
そのまま、舞台に倒された。
驚き、引き剥がそうとするが首も絞められ思うように動けない。
なんとか振り切ろうとジタバタする。
しかし、もがけばもがくほど酸欠になっていく。
もうダメかと思った時、絞められていた首にゆとりが出来、咳と共に大きく呼吸をする。
チラリと相手を見ると、先程と同様に口を大きく開いて涎を垂らしている。
そして、勢いよく草食系獣人の首元に齧り付いた。
牙が頸動脈まで達し、噴水のように血が噴き出す。
じゅるじゅると音を立て、その血を啜っていく。
同時に肉も食い、側から見れば肉食獣そのものだった。
首の次は肩、腕、腹と食い破っていく。
一気に失血し、草食系獣人は痙攣を起こしていた。
奇跡的にまだ息はあるが、それも時間の問題だろう。
やがて、その息の根も止まり、シンと静まり返る。
会場には、未だ捕食し続けている咀嚼音だけが響いていた。




