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森へ④

 勝者の獣人は複数人に取り押さえられ、退場して行った。

 相手を死に追いやったとしても、ルール上問題はないので、次も出てくるだろう。


 普段闘技場では死者が出るということが殆どない。

 しかも出たとしても大体が打ち所が悪かった等であって、こういった事はなかった。


 その為、観客達は凄惨な光景を見て、ただただ言葉を失うことしか出来なかった。


 それは司会者も同様で震えた手で拡声器を持ち、舞台上を整える為休憩を挟むと告げたのだった。



 少女は口を押さえ、信じられないといった表情をしている。

 そしてカシムの衣服を掴んでいた。

 手は小刻みに震えている。


 そんな様子を見て、少女の背中に手を当て、上から下へとさすってやる。

 ゆっくりと何度も何度も。


 彼の手の温もりにより、少し落ち着いたのか口を開いた。


「カシム……カシムは大丈夫だよね……?」


 少女は彼の身を案じていた。

 いくら強いと言っても、あの獣人と比べて強いかはわからないからだ。


 素人目に見ても、あの獣人の動きは素早く、攻撃も大胆だ。

 もし、対戦相手になってしまったとしたら、果たして同じ目に遭わないと言い切れるのだろうか。


「大丈夫だ。仮に危なくなったらルール違反にはなってしまうが魔法で撃退出来る」


 確かに、魔法は魔族の中でもピカイチと言っても良いくらいの実力を持っている。

 そのカシムがそう言うのだから大丈夫だろうと自分を納得させた。




 舞台の修繕が終わり、再開される。

 しかし、最初と比べて観客は半分位まで減ってしまった。

 やはり、戦いが好きと言っても、惨殺を観るのが好きという訳ではない。

 鳥人の時と同じく、力比べの範囲内で楽しむから良いのだ。


 いよいよカシムの出番が近づいて来た。

 少女と別れ、控え室で最終準備をする。


 指をパチンと鳴らし、いつものローブから動き易い服装へと変えた。

 身体にフィットして快適だ。

 それから軽く準備運動をした。


 普段魔法ばかり使っているが、格闘術も得意分野である。

 これは魔力切れに備えて訓練した結果といってもいい。

 近くに武器すらなかった場合、使用出来るのは己の肉体のみだ。

 昔、手痛い目にあった経験を活かし、日常生活において身体も鍛える事にしたのだ。


 といっても、目的の八割はかっこいい身体を維持したいからだが。




 そうこうしていると、係りから名前を呼ばれる。

 案内されるまま通路を進み、舞台のある広間に出た。


 観客が半分になったとはいえ、歓声は大きいものであった。


 カシムから見えるところに少女はちょこんと座っている。

 その顔は不安げだ。


 大丈夫だといってやりたかったが、今は目の前の相手に集中をしようと舞台の中央を見る。


 既に対戦相手はこちらを待っていた。

 草食系獣人で武器は槍だ。

 この獣人は先程の獣人の様な雰囲気はない。


 互いに中央に到着したところで、司会が戦闘開始の合図をした。


 草食系獣人は高く飛び上がった。

 太陽を背にしているせいで相手の姿がうまく認識出来ない。


 獣人は槍に身体を密着させ、落下の勢いに乗り攻撃を仕掛けて来た。

 それをヒラリとかわす。


 脚に力を込め、地面を蹴り、草食系獣人に突撃する。

 相手は槍を構え、連続で突いてきた。


 それもかわし、顔目掛けて殴りつける。

 攻撃の勢いで吹っ飛ばされるが、場外ギリギリのところで持ち堪えた。


 カシムは相手が吹っ飛んでいる間に距離を詰め、持ち堪えた瞬間に空中回転回し蹴りを放つ。


 ギリギリのところに立っていた為、獣人は場外へと飛ばされた。



「そこまでぇぇーー!!!勝者、カシムゥゥゥウウウ!!!!」


 観客が湧き上がる。

 カシムはその歓声に応じる事もなく、来た道を戻って行った。


 特に苦戦した様子もなくあっさりと終わったので、少女もホッと一息ついた。


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