ドッペルゲンガーと会うと死ぬとは誰が言い出した?
俺が意識を取り戻すと、そこは白い空間だった。
このまま待っていれば神様に会えると思ったのもつかの間、
足元が突然崩れる。
「ぷべっ」
下の階層に叩き落された俺は、みっともない声を上げる。
慌てて顔を上げると、視界に飛び込んできたには対峙する二人。
神様と俺だ。
いやいや、俺はここにいるし。
神様の姿はかあさまになったままだし。
俺の混乱を他所に、二人の剣戟は続く。
剣戟と言っても、持っているのは互いに竹刀だ。
かあさま姿の神様は相変わらず強い。
ソータの繰り出す竹刀を余裕でいなしている。
本当にかあさまなんじゃないかと思うが雰囲気が違う。
でも面倒だから、かあさまで統一だ。
かあさまはまだまだ余裕があるようで、片手でソータをいなしつつ、
こちらにひとさし指を立て、ちょいちょいと折って俺にかかってこいとアピールしてくる。
武器もないのにどうしろとと思っていると、俺の足元が光り、
一振りの剣が姿を現した。
まさか、この出方は何か宝具かと思って握り締め引き抜いたが、
いつもの竹刀だった。
まあいいや、と竹刀を握り締めて眼を向けると、ソータがこちらに
吹き飛ばされていた。
躱す間もなく俺に激突し、床に転がる。
「や、やあ、立てるか?」
「君は、誰?」
「俺はお前の体に間借りしているもんだよ」
「・・・偽物ってこと?」
俺は苦笑いでソータを引き上げる。
「偽物じゃないわよ。どっちも本物」
ソータの疑問にかあさまが応える。
余裕たっぷりって風情だ。
「一太刀入れたら勝ちでいいのか?」
「竹刀で触れたら勝ちでいいわよぉ」
かあさまに確認を取った後、ソータに声を掛ける。
「とりあえず今は共闘だ。かあさま倒すぞ」
ソータは少し考えていたが、気を取り直して竹刀を構える。
見てて思ったが、ソータは剣が俺より上手い。
記憶は共有できるが、自分の努力で得た技量は自分のものってことだ。
当然ではあるか。
「悪いが、俺はお前よりも弱い。しかも相手はかあさまだ。
まともに行っては勝ち目がない。俺に合わせてくれ」
そう言って俺は飛びだしと、かあさまに打ちかかる。
竹刀で受け止めるかあさま。
とにかく手数だ。
俺は左右から竹刀を振るが当然にように受け止められる。
レベルが違い過ぎる。
初めてかあさまと打ち合ったが、数合で痛感されられた。
相手に思い切り竹刀を叩きつけているが、手ごたえが全くない。
布団、いや更に柔らかいものを叩いているような感触。
衝撃をすべていなし切っている。
そこへソータが参戦してきた。
2対1の戦い方は、お互い知っている。
ソータは時計回りに俺は反時計回りで、かあさまを挟撃する形でもっていく。
勿論その程度で状況が改善される訳もない。
いなされて躱されて、あっという間に俺たちは隣り合わせになってしまう。
諦めずに挟撃の形にする俺たち、その都度すり抜けるかあさま。
何度目かの挟撃の形で、俺はソータを見た。
このままでは埒が明かない。
アイコンタクト。
目と目で通じ合うってやつか。
色っぽさは微かにもないが、確信はある。
「こなくそ!」
俺とソータは同時に竹刀を投げつける。
かあさまは上体をひねり、2つの射線から身をかわす。
「自棄はだめよぉ。武器を捨てては」
ぷぅと頬を膨らませたかあさまがお仕置きとばかりに、
躱した姿勢から俺に向かって片手で竹刀を振り下ろす。
確かに武器から手は離した、けど。
「捨ててない」
「パスだ」
互いの投げた剣を受け取ると、互いに横へ薙いだ。
あら、とかあさまが意外そうな表情をするが、遅い。
俺たちの剣は左右同時に襲ってくる。
どちらかの薙ぎは止めようがない。
当たったと思った瞬間に手ごたえがあった。
しかし見ると、俺の竹刀はソータの竹刀と激突していた。
消えた?
と思った瞬間に竹刀にずしりと重みが増す。
いつの間にか、かあさまは俺たちに竹刀の上に立っている。
互いに竹刀が下を向いていく、人一人乗っているのだから当然だ。
しかしどうしていいかわからないまま、俺の頭に衝撃が走る。
目にも止まらぬ速さで、かあさまが俺とソータに一撃くれていた。
かあさまが竹刀から軽業のように飛び降りると、
俺とソータはへなへなと膝から崩れ落ちてしまった。
「アイデアはよかったわよ」
かあさまは俺とソータに手を伸ばした。
俺とソータは互いを見やって、苦笑いを浮かべるとかあさまの手を取った。
「このまま修行の相手をしてあげたいのだけど」
立ち上がった俺たちにかあさまが困ったような表情を向ける。
「今二人ともここにいるってことは、ソータの体は意識不明なのよね」
さすがに意識不明のままというのも難なので、
どちらかは戻ったほうが良いというのがかあさまの提案だ。
「お前が始めたことだろう?話してこいよ」
俺はソータに丸投げした。
旅を再開するにしても、パラの本心をたしかめないとな。
「・・・僕はもう少し、ここで自分を鍛えたい」
ソータはうつむいていた。
拳を握りしめて、息を吐き、顔を上げ続ける。
「自分が嫌だった。馬鹿さ加減も弱さも」
俺はソータの言葉に、旅を続けると即答したことに驚いたヨウゼンの顔を思い出した。
ヨウゼンは自信を失っていたソータを良く理解していたんだな。
しかしな。
お前が弱いからと言った日には、俺の立場はどうなるんじゃい。
そう突っ込もうとしながら、ふと考えた。
たしかに俺より強いソータが鍛えられるほうが効率的ではある。
それに自己嫌悪に近いくらい自信を喪失している今のソータに
パラの気持ちを汲み取れるだろうか。
「わかった、パラの事は何とかする」
「ごめん」
俺の言葉にソータは泣きそうな笑顔で答えた。
ただもう少しかあさまと稽古がしたかったと思っていたことは内緒だ。
「いいの?」
俺の本心を見越したようにかあさまが問いかけてくる。
「もちろん。俺は今、好きに生きていますから」
これだって本心だ。
自分と向き合って、家族と向き合って、仲間と向き合う。
前世では想像すらしなかった。
世界は自分とそれ以外でしかなかった。
「本人が見たらこう言うわね。手が掛からな過ぎるのも心配よって」
かあさまがくすりと笑った。
そういえば、中身は神様だったんだっけか。
「行ってらっしゃい」
かあさまが壁に手を触れると、一瞬でドアが現れる。
「行ってきます」
俺はノブを握りしめる。
振り返ってソータを見る。
ソータは頭を下げていた。
パラのことをよろしく、ということだろう。
自分に頭を下げられるのは変な気分だな。
「またな」
俺はドアを開いて、一歩外へ進んだ。




