パラのほんとうのちから
白い空間でふわふわと浮いている。
上も下も前も後ろも全てが白い。
宇宙空間ってこんなかな。白いけど。
超リラックスしているが、これでも俺は仕事中らしい。
ローシットとかいうイカれた女にソータの魂の半分以上が
ぶち壊されて、その補填に俺の魂が使われているそうだ。
俺に言わせれば、ソータの魂に俺は内包されていたのだから、
総量は変わらないと思うが、そうでもないらしい。
スピリチュアルな世界というのはよくわからん。
とにかく俺は今ソータの魂が死なないように働いているってわけだ。
てっきり蒸気機関車の火室にえんえん石炭を入れ続けるとか
古代の奴隷のように、巨大な歯車を棒で押して回し続けるとか
苦行を予想していたが、そんなことはなかった。
しかしその弊害というべきか、意識を失う度に人格が入れ替わる。
今は俺壮太ではなく、本来の持ち主であるソータが表に出ている。
二重人格とは違うようだ。
記憶の共有は時間差こそあるが、出来ている。
ただ本家ソータは俺の人格という存在が認識できていないようだ。
どちらにせよソータが意識を失うまで、俺の出番はない。
人生でそうそう意識を失うことなんかないからな。
俺は指をパチンと鳴らす。
白い空間は一瞬で、いつもの六畳間に姿を変えた。
畳敷きにブラウン管テレビ、紐が垂れ下がる丸形蛍光灯。
窓の外には神田川じゃないけど、川が良く見える。
外の風景は気分で変えている。
本当は指を鳴らす必要などないのだが、恰好つけてみただけ。
窓の桟に腰ける。
外の風景を見ながら考えてみる。
パラの能力。
本当にかすり傷を直すだけなのだろうか?
何故かすり傷が直せるのだろうか?
そういうものだと言ってしまえばそれまでだが。
なんとなく考えていると、部屋の扉が光りだした。
点滅を繰り返す扉に触れると、最新の記憶が流れ込んだ。
あのアマ懲りもせず、また来やがった。
え、嘘。刺されてんじゃん。
でもチンピラ達は切り伏せた。
強いな本家。
でも俺が目を廻した時以上の血が流れている。
あ、気絶した。出血性ショックってやつか?
パラがまだ治療を続けている。
傷口が深すぎて、焼石に水だ。
このままでは結果が見えている。
今度こそ年貢の納め時か、と観念した。
実感がない分、冷静に判断ができている。
でも瞬間に、もしもという想いが湧いた。
これはパラに聞かなければいけない。
駄目で元々だ。
俺はドアノブを掴んで、思い切り開いた。
「だーかーらー、話を聞けっての!」
「ソータ!大丈夫なの!?」
「このままだと死ぬな」
あまりに淡々と応える俺に、怒りの目を向けるパラ。
気にせず質問を続ける。
「お前、ちからを使っている時、何を考えている?」
不思議とその言葉に反抗せず、パラは素直に自省する。
「強いて言えば、治れ、治れって祈っている。
傷が無くなった状態をイメージしながら」
「もっと具体的にイメージできないか?」
「?」
「俺の傷は、刺されたものだ。血が出るのは何故だ?」
「えっと、肉が切れたから?」
「ちょっと違う。その中にある血管、血を流す管が切れたんだ」
「それがどうしたの!」
両手に感じる出血の感触がパラを焦らせる。
「お前ならわかるだろう」
俺は冷静に続ける。
名狩人として、何頭も獲物の解体を見てきた、やってきた。
だからイメージできるはずだ。
体にある筋肉や血管や神経が刃で切り裂かれている。
それが治るということはどういうことだ?
「切り裂かれたものが・・・繋がる」
パラが目を閉じて答える。
視覚情報は今は不要だ。
ただ切り離されたものを一つ一つ繫げ直す。
分断された、血を流す筒がつながっていく。
太いものから細いものまで、血管から神経にいたるまで何本も何本も繋がっていく。
わずかずつだが、傷口からの出血が収まっていく。
切り離された筋肉がつながっていく。
一度は離した手が、再度つながるように。
いくつもいくつも。
腹に空いた傷口が両端からゆっくりと閉じていく。
最後には一本の筋となって、それも消えた。
予想以上に上手くいった。
身体は言うことを聞かないが、とりあえず失血死は無いと信じたい。
「血が流れ過ぎたから、体内の血を増やせないか」
「血が増えるイメージなんてできないよ」
「それもそうだ」
ここから先は俺の問題だ。
俺は返事がわかりきっているものの、念のため指示を出す。
「俺はここで休んでいくから、パラは先に戻れ。すぐに追いつく」
「絶対いや!」
そう言うと思ったよ。
「わかった。じゃあ少し眠らせてくれ。起きたら一緒に戻ろう」
俺のできることはここまでだ。
意識が遠ざかるのがわかる。
後は本家ソータに任せることにしよう。
俺は意識を取り戻した。
体には毛布が掛けられ、横では火が焚かれ、その向こうにパラが
眠っていた。
さきほどまで火の番をしていたのだろう。
焚火はわずかながら燃え続けていた。
俺はパラが集めたであろう小枝を火にくべる。
パチパチと音を立てながら強くなる火勢をみながら
疑問を口にした。
「あれぇ?まだ俺のターンなのか?」




