パラのちから
双剣を構えて立つソータに男は二人で襲い掛かる。
二対一の上、腹に深手を負っているソータだが、
左右の剣で二人に攻撃をいなし続ける。
その姿を見て、ローシットは自らが見込み違いをしていることに気づいた。
ソータとは一度森で対峙しているが、ここまでの技量はなかった。
成長したと言ってしまえばそれまでだが、まるで別人を見ているようだった。
実際既に一人は死に、怪我をした体で二人同時に相手をしている。
ローシットは右手首から伸びる、義手というには雑なつくりの短棒で自らの肩を叩く。
でもまぁこのままで終わるでしょう。
彼女はそう判断した。
ソータは防戦一方で、傷口から血を流し続けていた。
その内に守り切れなくなることだろう。
パラの方は弓を奪われ、自分が抑え込んでいる。
自分が正面にいる限り何もできはしない。
ソータが死んでから、生き残ったチンピラを焚きつけて
じっくりとパラに屈辱をあわせてやればいい。
失われた右手と神恵の力を思えば生温いとも思うが、
下賤なチンピラに組み伏せられて泣き叫ぶパラを想像するに
高揚が抑えられない。
それゆえか彼女は見込み違いをパラに対してもおこしていた。
弓を失い無力化させたと思い込んだ。
結局ローシットが想定するパラは、深窓の姫のままだった。
そして実際のパラは経験を積んだ射手であった。
パラはローシットを見つめながら左手をのばした。
伸ばした先はローシットではなく、ソータの側だ。
パラがわずかずつ動くことで、ローシットはパラの正面にあり続けたが、
その後方にいたはずのソータらはパラの左手にいた。
ソータと対する二人の男は徐々に優勢となった。
動きは格段に鈍り、ついには左右から襲う剣をそれぞれの剣で受ける形となる。
これでソータは動くことが出来なくなった。
二人の男はニヤリと笑う。
このまま押し込めば、どちらかの刃がソータに食い込む。
勝ったと思った矢先、小さな風切り音がした。
途端に「ぴぎゃ」と一人の男が奇声を上げて倒れた。
もう一人の男がひるんだ隙をソータは見逃さない。
自由になった左手の剣を握り直すと、男の左足先に突き刺した。
地面に剣で縫われた自らの足を見て、痛みと恐怖で叫び声をあげる男。
ソータの右手の剣を両手で握ると、男の左肩から袈裟懸けに切り裂いた。
血しぶきを上げて、男はどうと倒れた。
「あらあら」
ローシットは残念そうな声を上げる。
「姫のおもちゃがなくなってしまいましたわ。今日はここまでですわね。
またお会いしましょう」
続けて短棒のついた右手をソータに向けた。
「姫様。あの小僧を治してやらないと死んでしまいますわよ。
もっとも直せればの話ですが」
ローシットの余裕な態度に、ソータは怒りのまなざしをむけるが、
ふいに背を向けるとゆっくりと歩き出した。
パラは慌ててソータを追う。
ローシットもまた逆方向に駆けだした。
彼女の先には二人が旅に使った馬がいた。
馬の荷を乱暴に投げ捨てその背にまたがると、馬腹を蹴った。
馬は彼女に操られるまま、国境の町へと駆けていく。
ソータはローシットに捨てられたパラの弓を拾い上げると
そのまま膝をついた。
「ソータ!」
声を掛けるパラへ返事をする替わりに、彼は弓を右手で差し出した。
パラは無言でそれを受け取ると、やはり近くに落ちていた矢を拾いあげる。
ローシットに叩き落されたものだ。
ローシットの距離はかなり離れていた。
それでもパラは迷うことなく、天に向けて弓を引いた。
パラが右手を離すと、矢はローシットの上空へと飛んでいく。
彼女は矢の行方を見守りもせず、弓を捨てるとソータに駆け寄った。
彼を寝かして上着をまくると、脇腹からどくどくと血があふれていた。
パラはためらうことなく両手を傷口に当てた。
端から見ると傷口を押さえて止血しているように見える。
彼女は神奪の力を使っていた。
傷を治す能力。
ただしこれほどの怪我を治したことはない。
これまで直してきたものは全て擦り傷程度のものだ。
それでも彼女は諦めない。
両手を真っ赤に染めながら、傷を癒し続ける。
ローシットは馬上で次の手を考える。
あの小僧は確実に死ぬ。
パラは一人で戻ることだろう。
またチンピラを数人抱きこんで、追い、捕らえ、今度こそ屈辱の限りを
尽くしてやらなければ。
あの小僧に見せつけながらできないことは残念だが。
ほんと残念。
そう呟こうとしたが、声が出なかった。
瞬間背中に衝撃が走ったからだ。
衝撃の中心地から全身に向けて痺れが走ると同時に力が抜けていく。
ローシットは何が起こったかわからなかった。
ただ馬の背にぐったりと倒れこんだ。
追い込まれることのなくなった馬は速度を落としたものの、
矢の生えた荷物を載せたまま、町へ向かっていった。
「もうよせパラ」
「静かにして!」
ソータは半身を起こしてパラを止めようとするが、
彼女は聞き入れない。
出血は止まる様子を見せない。
ソータは自分の意識が保てなくなってきているのを自覚していた。
このままここにいてはいけない。
馬を失っている以上、早くこの場を離れる必要がある。
しかも国境の町には行けない。
ローシットの仲間がいる可能性もある。
「話を、聞いて、パ・・・ラ・・・」
起こしていた半身を支えられなくなり、ソータはパタリと横たえた。
パラは顔を伏せて、口から出る嗚咽を堪えながら、神恵の力を使い続けた。
もう、そうする以外の思考が無かった。
その時パラの手を強く握りしめられた。
パラは顔を上げると、意識を失ったはずソータの顔が間近にあった。
「だーかーらー、話を聞けっての!」




