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旅は復讐の舞台

ソータとパラは泉から二人で家に戻り、ヨウゼンらの前で二人で旅に出る旨を話した。

こういう話を暗い雰囲気でするものではない、というトウマの意見から

急遽パーティという流れとなる。


ヤンダムとファブリカと彼の師匠に加え、たまたま村にきていた商人メルカトも参加した。

ガフも如才なくご相伴に与っている。

当初は賑やかに時間が過ぎたが、ファブリカがパーティの理由を聞くと驚いて帰っていった。


「気にするこたぁない。任しときな」

師匠は何事もないように酒をあおっていた。

ただし、と師匠はタンと杯を置いてソータを見た。


「あいつは旅に参加させない。いいね?」

師匠は、ファブリカが旅についていくために戻っていったことを理解していた。

それでも彼が旅をすることに向いていないことを知っていた。


「あいつは植物なんだよ。地に根を張って初めて生きていける」


ソータはそれに賛同した。

そもそも自らの力不足を痛感している彼にとって、ファブリカを巻き込むことはできないと

考えていた。


その数日後、旅の準備が整ったソータとパラは、村の街道口にいた。

彼らを見送る輪の中にファブリカがやってきた。


「一緒に行けなくてすまないだば。オデだと思って持って行ってほしいだば」

と大き目の箱を持ってきた。

ファブリカは目を輝かせて説明を始める。


これは最高傑作の鎧で、重厚で威圧感があるが、軽量化が図られている自信作という。

試しで装着してみたが、そこに現れたのは鬼か悪魔か。


兜は大角が2本生えており、ご丁寧に顔全面に強面の面頬までついている。

鎧は上半身をプレートが覆い、下半身は草摺や脛あてが固めていた。

肩にも威圧感あふれるスパイクが殺意を主張している。


その姿にファブリカを除く全員がドン引きした。

満足気な笑みを浮かべるファブリカにソータは頭を下げた。

「お気持ちだけで・・・」


ソータとパラは馬を一頭連れて村を出た。

馬二頭を駆って移動では流石に目立ち過ぎるということから

荷物持ち兼緊急移動手段として一頭使用することにした。


目的の北の国へは、東の国からの直通ルートはない。

国は面しているが、突出を幾重に重ねた未踏峰の山脈が行く手を阻んでいる。


獣がまれに移動するらしいという話はあるが、人間が踏破できるルートは

未だ見つかっていない。


平地を行くとなると、東の国から南の国を経由して中央砂漠を抜けて

北の国に入ることができる。


地図はメルカトが用意してくれたものがあり、いくつかの町や村を経て

南の国との国境へ向かうことが記されていた。


旅は拍子抜けするほど順調だった。

半日も歩けば何らかの集落にはたどり着くことができ、

一日きっちり歩けば町に入ることができた。


移動中も運よく盗賊の類に出会うこともなく、

四日目には、南の国との国境沿いにある町が見えてきた。


まばらに木が生える街道を進んでいく。

「南の国だな」

「順調、順調」


当初は自分の実力不足に危惧を感じていたソータも

慣れもあって、今はそのそうな気持ちは消え去っていた。

もし、その危惧を持ったままいれば、未来には別選択肢があったかもしれない。


ソータらの視界にこちらに向かって走る女性がいた。

頭に日よけのベールを掛けて表情は伺えないが、何かから逃げているようだった。

その後方から三人の男が追ってきていた。

男たちはそれぞれに武器をもっている。


男も全速力で走れば簡単に追いつくはずなのに、ニヤニヤと笑いながら、

少しずつ距離を詰めているようだ。


女を追う男、一対多、武器のあるなし。

ソータの義憤を駆る要素は充分そろっていた。


「パラは待ってて」

それだけ言うとパラが止める間もなく、走り出した。


男達が追いつく前に、逃げる女に辿り着くことができた。

ソータは女を背に隠して、男達に前に立った。

女はソータの背に隠れるようにしがみつく。

全力で逃げたのだろうか、ソータの首に荒い息が当たった。


「女を渡せ」

男たちは口々に怒鳴りつけてくるが、その顔はどれもにやけ顔だ。

ソータは違和感を感じたが、三対一の余裕がそうされるのかと勝手に納得した。


しかし違和感はさらに深まっていく。

ソータの胸元に感触があった。

後ろに隠れていたはずの女が、ソータの前にまわっている。


彼女の左手が彼の胸元に触れていた。

「背、少し伸びましたねぇ」

どこかで聞いたような声だと感じた。


荒かったはずの息も完全収まっていた。

ベールに包まれた頭をソータの胸に押し付けてくる。


女の声と香りがソータの心に警鐘を鳴らし続ける。

それが肉体を突き動かす前に、ソータは腹部に衝撃を感じた。

彼が目を落とすと、腹部に刃が刺さっていた。


刃は女が握っているのではなく、右手首に直接繋がっている。

ソータは苦し紛れに剣を振るうと、女はヒラリと後ろに離れたが、

刃は手首から外れて、彼に刺さったままとなった。


「あら?」

女は自らの刃を失った自らの手首を見た。

「いやねぇ。急ごしらえはこれだから」


ソータに見せつけるように右手をプラプラさせる。

彼女の手首は義手というには粗末な短い棒に様なものだった。


女の頭からベールがするりと落ちていく。

おいついたパラがその姿を見て驚く。

「・・・ローシット」


「ご無沙汰しています。姫」

手首から先のない右手を前にやり、慇懃に挨拶をするローシット。

その姿はパラの記憶にある凛とした近衛兵姿ではなく、

ただの市井に住まう人然としていた。


「ああ、この姿ですね」

パラの視線を感じて、ローシットは恥ずかしそうに身をよじらせた。

「いつもは、もう少しマシな恰好なんですよ。今回は特別なんです」


彼女は邪悪な笑みを受かべて続けた。

「あんたたちを罠に嵌める、ね」


ローシットに相対していたソータは立っていられなくなり、片膝をついた。

「ソータ!」

パラはやっとソータが刺されていることに気づいた。


動けないソータに近寄る男達へ、パラは瞬時に弓を構え、迷うことなく矢を放った。

矢はローシットの右腕で叩き落された。

彼女はパラに向かって歩を進める。


二射、三射と打ち続けるが、何事もないようにローシットが叩き落す。

「良い腕ですねぇ」

地面の落ちた矢を見つめて彼女はしみじみと言う。

既にローシットはパラの目の前にいた。


「どきなさい!」

「いやです」

パラの叫びにローシットは喜々として答えた。


「あの糞犬がいないので、安心しましたぁ。」

彼女はパラから弓を奪って投げ捨てた。

「大丈夫ですよぉ。あなたは傷つけません」


そう言ってローシットは男三人に目を向けた。

男三人がへらへらと笑ってパラをなめるように見ている。

「なにせあいつらのご褒美ですから」


「ソータくんもね」

片膝をつくソータに視線を向ける。

「急所は避けています。刃を抜かなければ、しばらく持ちますよ」

ソータはみじろきもせずにローシットを睨みつけた。


その視線を心地よく感じながら彼女は続けた。

「君は私と一緒に、姫が三人の男に汚される様を見るのよぉ」


その言葉に三人の男もどっとわらい、悪趣味だぜ姉さんという合いの手もとんだ。

一人の男がソータの前にしゃがみこんだ。

「特等席で見せてやるよ」

そう言って下卑た笑みを見せる。


ソータは剣を横薙ぎに払うが、男は剣の根本を掴んで止めた。

残りの二人はパラに向かって歩き出した。

それを見ているローシットも、これから行われる惨劇に興奮を隠しきれない様子だ。


ソータに注意を向けているのは目の前の一人きり。


彼はそのタイミングを見逃さなかった。

掴まれた剣から手を離すと、自らに刺さった刃を抜いて男の太ももに突き刺した。

あまりの衝撃に男は剣から手を離してしまう。


ソータは奥歯で痛みを噛み殺すと、所有者のない剣を今一度握って

全力で振り下ろした。


剣は男の鎖骨を砕き、左胸部を心臓に向けて引き裂き続ける。

男は血を噴水のように口から噴き出して膝から崩れ落ちた。


ソータは殺した男の剣を拾うと、ふらつきながら立ち上がる。

口の端から血を流しながら、気丈に双剣で構える。


「パラに手を出すなよ」

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