↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/61

捨てる想い

「は・ん・た・い・です!」

部屋にソータの声が響き渡る。


パラの北の国に行く発言を受けて開かれた家族会議でのこと。

参加者はフォスター家全員と北の国で王の護衛官経験があるヤンダムだ。

ソータは会議冒頭から反対の意思を表明している。

その内容は正論という具を、正論という米で握った正論にぎりだった。


明らかにリスクの高い話。

クーデターの起きた国に元支配者の正統後継者が、のこのこと顔を出すのだ。

誰がどう考えても物見遊山で済む話ではない。

事を察して担ぎ上げようとするもの、亡き者にしようとするものが現れるだろう。

あらゆる面で賭けの要素が高く、ベットするのは自分の命だ。


ソータ以外のメンバーも大筋ソータと同意見だ。

ただ彼女の気持ちを思えば、一概に反対もできない。

北の国は彼女にとっては祖国で、追われた者が戻りたいと思うのは当然だ。


「あの・・・」

いきり立つソータに気をつかうように、パラがおずおずと手を上げた。

ヨウゼンはトウマにソータを抑えるように指示したうえで、彼女に発言を促した。


「別に国に帰って、何かをどうこうしたいって訳じゃないんです。

勿論今の生活が嫌になったわけでもないです。ただ・・・」

パラは少し考えて、一番自分の気持ちに近い言葉を選んだ。


「何と言うか・・・ちゃんとお別れがしたいんです」

お別れの対象については触れなかった。

それが国なのか、家族なのか、それ以外のものなのか。


ちゃんとお別れ、その言葉にソータは不思議な懐かしさを感じていた。

その横でヤンダムが沈痛な面持ちで俯く。


そのなヤンダムの姿を見てパラは声を掛けようとしたが、

掛ける言葉がみつからず、話を続けるしかなかった。

「一人で行きます。誰にも迷惑をかけるつもりはありません」


ヤンダムが顔を上げてパラを見つめた。

その表情は泣きそうで、怒りそうで、寂しそうであった。

そんな彼にパラは今度こそ言葉を掛けることができた。

「一人で・・・行きます」



「父が嫌いでした・・・」

パラは独り言のように呟いた。


ヨウゼンが休憩を挟むことと提案して、部屋には彼とパラだけ。

ソータは残ってパラを説得しようとしていたが、

二人の兄に引きずられていった。


パラは続ける。

母は王家の直系で、明確な神恵を持っていた。

父は名家の出だが、神恵を最後まで明らかにしなかった。

多分これというものは発現できなかったのだろう。


その子供である自分は、擦り傷を治すという半端な神恵だった。

父にとっては子の神恵が稚拙なものに責任を感じていたのだろう。

悪い意味で。


彼にとって自分は認めたくないもののようで、

時折投げかけられる視線は、まるで出来の悪い壺でも見るようなものだった。

「だからローシットの本音を知った時もショックだったけど、そうだよねって

思えちゃって」

きっと見下していた者も少なくなかっただろう。

パラは苦笑いを浮かべて、さらに続ける。


「でも母だけは違って」

母は自分の幼稚な神恵を素晴らしいものと認めてくれた。

仮にそれがなくても貴方はすばらしい存在と、こちらが恥ずかしくなるくらい

何度も言ってくれた。


「だから仇を討つと」

ヨウゼンが初めて口を開いた。

パラは寂しく首を横に振った。

「いいえ、母がそれを望んでいないのはわかっているつもりです」

パラを命を賭して逃したのは、捲土重来を望んでという王女の怨念ではないはず。

ただ生きて、願わくば幸せに生を全うしてほしいという母の祈り。


「ただこの目で見たいんです」

母が王女として生きた国を外側から。

母が死んだことを認めるために、だから必要がある。


私が国に捨てられるのではない。私が国を捨てるのだ。

「ちゃんとお別れがしたいんです」



「反対するものは挙手を」

休憩が終わり全員が揃うと、ヨウゼンは採決を取る。

ヨウゼンとパラを除いた全員が手を上げた。


「ふむ、ではパラ・・・」

ヨウゼンはパラに声を掛ける。

「反対者と1対1で勝負を」


その言葉に全員が驚いた。

てっきり多数決による却下で終わる話と誰もが思っていた。


「パラが危険な旅に出たいという、しかも一人でだ。

パラには一人で戦える力があると証明する必要がある」

ヨウゼンの説明を聞いて、一人の手が下がった。

トウマだ。


「自分より弱い奴を叩くのは性に合わない」

喰ってかかるソータのこめかみにアイアンクローをきめながら言った。


ヤンダムもその手を下げる。

「自分は姫様から既に大切なものを奪った。これ以上何も奪いたくはない」

その表情は苦し気だが、幾分吹っ切れた様子といえた。

「ありがとう」

パラは微笑と共に感謝を返した。


「二人とも何を言っているんだ。なあ大兄」

痛むこめかみを抑えながら訴えるソータの言葉を受けてカナメは笑顔を返し、

やはり手を下げた。

「反対ではあるが、意思を封じ込めたいとは思わない」


「父さま!」

「儂が1対1で勝てると思うか?」

ソータの問いかけにヨウゼンはムリムリとばかりに右手を振る。


「お前もやめるか?」

「やめるわけないでしょう!」

「では決まりだ。三日後、場所はこの庭で。ルールは明日知らせる」

ヨウゼンの言葉で家族会議が終わった。


皆席を立つ中で、パラはソータと目が合った。

彼女はニコリと笑うと、ソータは増々いきり立った。

「くそ!覚えていろ!」


まるで小悪党のようなことを言うなぁという感想をパラに与えて、

ソータは部屋を足早に出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。