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手に職があればいいのにって考えてしまう

4人が家に戻ると、ヨウゼンとヤンダムが酒を飲んでいた。

「父さま、ただいま戻りました」

カナメが代表して声を掛ける。


「4人とも無事か?」

ヨウゼンが腰を上げて、4人を迎え入れる。

「ソータが追い払ったよ」


トウマの言葉に、ヤンダムが驚いて視線を向ける。

その視線を感じて、ソータが慌てて訂正する。

「あ、いや、罠にかけて、その上ガフ、犬にですね、助けてもらったんで」

そこまで話して消え入りそうな声で、すいませんとつぶやいた。

ここまで共に来た仲間を倒した話など聞きたくはないだろう。


「いや、やらなければ、君らが間違いなくやられていた」

くいっと杯をあおってヤンダムは応えた。


「ご迷惑をおかけしました」

パラがヨウゼンに頭を下げる。

ヨウゼンは何も言わず、パラの頭をくしゃりと撫ぜる。


「じゃあ、僕はガフにご褒美をあげてきます」

「ちょっと待て」

ヨウゼンはソータを引きとめると近寄って

彼の顔をまじまじと見る。


「お前・・・いや、まあいい」

ヨウゼンは自分の中で納得したように独り言ちると、

またヤンダムとの酒の席に戻ってしまった。


「ソータ、俺も腹が減った」

「自分で作ってよ」

「私も手伝うよ」

「そうだね」

ソータら4人は台所に向かった。


彼らの後ろ姿を見送ると、ヨウゼンはヤンダムの杯に酒を注いだ。

「北の国はどう動くだろうか?」

「わかりませんな。本当にわかりません」


ラングーンが北の国を支配して数年が経つ、この間目立った政策は

貴族化した特権階級から神奪を失った者を排除するものだった。

その対象者は役職と財産を没収された。


本来、神奪を持たない者が支配層にいることはできない法だが、

既得権益を得た貴族層に形骸化されていた。

豊かな国とは言えないが、それでも何代にも及ぶ財は相当なものだ。


本来ならアンタッチャブルな領域に、彼は服従化の力を使い

難なく手をつっこんだ。

そこで得た資金は軍事・内政のテコ入れ原資となっている。


概ね穏健な政治運用に国内の評判も悪くない。

仮に悪かったとしても、彼に服従化の力がある限り問題ではないのだが。


「その服従させる力というやつだが・・・」

ヨウゼンはヤンダムが酒を注ぐ杯を見つめて続けた。

「全ての人間に効力があるのかね?」


ヤンダムは酒瓶を置いて、少し考えて答えた。

「明確に効力のない場合が存在します。例えば・・・」

王女には効かなかったことから、王族直系の者には通じないと思われる。

それ以外に神恵を持たない者には効かないケースがある。

ただし国内では少数例で、線引きが良くわからない。


「実際私は神恵を持っていませんが、服従化に抗えませんでした」

ヤンダムはそう締めくくった。


「神奪いや神恵というべきか、とにかくその力はこの杯のようなものではないか?」

ヨウゼンは空の杯に酒を注ぎながら説明をする。


「北の国のほとんどのものが体内に神恵の要素を持っている」

注がれた酒は杯の半分ほどとなった。


「杯、つまり自分の体に収まる程度の量では明確な能力が発現しない。だが・・・」

杯は酒で満たされ、ついには溢れた。


「この溢れるほどの神恵を持つ者のみが能力として発現できるのではないか?」

そこまで説明して、ヨウゼンは杯の酒をあおって空にした。


「能力が発現しない者の中には、要素をもつ者と全く素養を持っていない空の者が存在して

後者には服従化は通用しない、と」

ヨウゼンは空の杯を見せる。


「なるほど、だから大多数の者は服従することになった」

そう言ってヤンダムは空の杯を見つめる。

北の国は元々神恵者の国だ。神恵の素養がゼロの者は少数派と言っていい。


「まぁ、仮定だがね」

仮定といいながらも、ヨウゼンにはそうでなくては困ると考えていた。

誰彼構わず服従させられる力であっては、話し合いも一方的に終わる。

外交もへちまも無い。


だがローシットの持つ能力は、神奪を持つもの持たないもの双方に何らかの影響があった。

服従化の能力がそうでない保証はない。

北の国が今後どうなっていくのかも含めて、知っておきたいことの一つではある。


「まぁ、行くところがないならば、この村に住んでもらって構わない

それほど豊かではないが、仕事は斡旋できる」

ヨウゼンはヤンダムを村に引き留めて、彼もそれを受けて村に定住することとなる。


それからの日々は平穏そのものと言ってよかった。

ヤンダムもあっさりと村に溶け込み、剣術指南という生業まで得ている。


ソータはこんな村でその生業が成立するか疑問だったが、意外なことに需要は高く、

町での指南の依頼はひっきりなしだった。

上顧客は商人のメルカトだ。


彼に限らず交易に関わる者で腕っぷしは欠かせない。

どの世界にもアウトローというのは存在して、山賊や盗賊などはいずこから現れる。

ソータの住む村にある森ですら、一時盗賊の根城となったことはあった。


メルカトが積み荷を護る手段は、用心棒を雇うということになるが、

信用が置ける腕っぷしのある者をネットワーク全体に配置するのは難易度が高い。

金がかかる以上に絶対数が足りない。


長期的には自前で用心棒を育成するべきという結論に達していたが、

その指南役が見つからないでいた。

ヤンダムの存在はそのニーズにぴったりはまった。


他国といはいえ王直属の護衛官の経験者となれば、指南役の貫目としては申し分ない。

とはいえ勤め人はしばらく勘弁というヤンダムの強い希望もあり、

メルカトの商会所属ではなくフリーランスとして定期的に町で指南を行う形となった。


指南を行う姿は常に熱心で、望む者には子供にも年寄りにも剣を教えた。

「食うためには相手を選んでいられませんからな」

ヤンダムはその理由を憮然と話すのだが、ローシットと共に現れた時の

やさぐれた姿は消えていた。


その経緯が影響を与えたのだろうか?

ある日パラは家族の前で宣言した。


「北の国に行こうと思っています」

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