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家族

「あ、パラ・・・」

ソータは瞬時に目を覚ました。


パラはソータの傷口に手を当てて治療を続けている。

「切れているんだ・・・」

「どうしたの?頭打った?」

ぼんやりとした顔でつぶやくソータにパラが声を掛ける。


「いや・・・大丈夫・・・」

そう答えて、ソータは傷に目をやる

血の量は少し多いが、死ぬほどの量ではない。

パラの力に頼らなくても、血止めの処理で何とかなるだろう。


だがソータはパラにされるがままで、既に別のことを考えていた。

目を覚ました瞬間、自分の現状がわからなかった。

徐々に記憶がもどってきたが、なんというか今と比べて

現実感が薄い印象があった。


まるで夢を見ていたような。

その自分は動きも剣の業も鈍かった。

格上の相手であることは否定できないが、本来ならもう少し相手ができたはずだ。


「緊張したのかな・・・」

ソータはかすかにつぶやいたが、パラは集中しているのか無言だった。


森におびき寄せて、刺客対策の罠に嵌めることで何とか撃退できた。

いや、罠で撃退できた訳ではない。

ソータは周りを見渡してみる。


木陰の草がふいに動くと、中から灰色の犬がのっそりと現れた。

ガフはソータの傍に近づくと頭を差し出した。

「ありがとうな。ご褒美は肉だよな」


ソータはガフの頭を撫ぜながら、論功行賞を伝えると、

灰色の犬は、そうだろうと言わんばかりにさらに頭を押し付けてきた。


「でも何でいちいち隠れるんだい?」

ソータにそのように問われると、興味を無くしたように

その場に伏せて眠ってしまった。


パラはクスリと笑って、独り言のように話し出した。

「ローシット、さっきの女がね・・・言ったんだ」

彼女の手が震えているのを感じる。

「この出来損ないって」

彼女は泣いているようだった。

「やっぱそう思われていたんだなぁって」


幼いころからいてくれた姉のような護衛。

彼女の本音に触れてしまった。

彼女にしてみれば、パラは生まれが良いだけに存在だったのだろう。


「ソータが気を失った後、撃ってでも直させようと思ったんだけど」

パラは、ごめんねとつぶやいた後続けた。

「撃てなかった」

「昔馴染みなんだろう?簡単に撃てるほうがおかしい」

ソータはパラの後悔を否定する。


パラは言葉もなく、神恵を使い続けた。

ソータもそれ以上何も言わず、無言のまま時間が過ぎた。


森の中は濃い影を落とし始め、日が沈むことを予告している。

「帰ろう。パラ」

ソータはパラの手を避けて立ち上がり、尻に着いた土を払った。

「まだ途中だよ」

パラの言葉を無視し彼女に手を差し伸べ、続けた。

「僕たちの家に」

パラはうつむいたまま、反応しない。


「とうさま達とはさ・・・」

ソータは手を伸ばした姿勢のまま話続ける。

「僕も血はつながってないけど」

パラは驚いて顔をあげた。

「僕は家族だと思っている。それだけでいいはずだ」


パラの手がおずおずと伸びる。

ソータがその手を掴んだ。

「パラもそう思えばいい」

「ん」

彼女の握り返す手の力に言葉以上の回答があった。


ソータはパラを引き上げるながら、自分のズボンを引かれるのを感じた。

「ガフ、どうした?」

灰色の犬はソータに、あっちを見ろとばかりに鼻先を向ける。


ソータが視線を向けると、木の影からこちらを覗き込む者がいた。

カナメとトウマだ。


「・・・・いつからいらっしゃったので?」

思わず問うソータに二人がそれぞれ答える。

「怪我を治してもらっているあたりから」

「いやー、兄は感動したよ」


トウマの言葉に反応するように、、カナメが地に伏せる。

その兄に手を差し伸べるトウマ。

「僕はぁ、家族だとぉ、思っているぅ」

「す・て・き!」

「そんなことは言ってない!」

カナメのアドリブにパラがムキになって否定する。


その反応に呵々と笑う兄二人が、真顔になって問うた。

「あの女は?」

「逃げた」

「また来るとおもうか?」

「多分来ないと思う。罠で右手を潰した」

「ワホン!」


ガフが非難の声を上げる。

「違った。ガフがやってくれたんだ」

ソータは謝罪を込めてガフを撫ぜる。

灰色の犬は、ドヤ顔で撫ぜられるに任せていた。


「あの女強いな」

カナメの言葉にソータが頷く。

多分1対1で相手できるのはトウマだけだろう。


「北の国の奴は皆あんななのかね?」

「多分トップクラスの強さだと思う。親衛隊長だったから」

トウマの独り言にパラが応える。

この回答は兄二人を少なからず驚かせた。


「記憶が戻ったのか」

「ええ」

「たしかにそんな風情はあったが」

カナメはローシットがパラの額に触れていたことを思い出した。


「で、これからどうする?」

「どうもしません」

パラは断言した。

「家に帰って、ソータの傷を治して、ご飯食べて、お風呂入って、寝て、明日狩りにいきます」


その答えに3人の男は笑顔で答えた。

「ならば、急いで帰ろう。とうさまが待っている」

4人は村に向けて歩き出す。


数歩歩いて、ソータが足を止めてパラに声を掛けた。

「パラ、君の本名は何なんだい?」


パラも立ち止まり、顎に人差し指を当てて考える。

少し間をおいて、彼女は笑顔で答えた。


「忘れちゃった!」

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